本日の一冊 「あした 飛ぶ」
「あした 飛ぶ」【学研】
束田 澄江作
しんや ゆう子絵
アサギマダラという蝶をご存じだろうか。
黒いふちに、うすい水色の模様。まるでステンドグラスを思わせるような美しい羽をもつ蝶である
実はこの蝶、一見、ガラス細工のようでありながら底知れぬパワーを持っている。
春には南から北へ。秋には北から南に向かって日本列島を旅する、渡り鳥ならぬ渡り蝶なのだ。
大分県国東半島をのぞむ海上にぽっかりと浮かぶ小さな島。姫島村。
そこはアサギマダラの旅の中継地点だという。
毎年五月中旬と秋の時季。その島にはアサギマダラが群れて飛び交う。
その際に、アサギマダラを捕獲してマーキングする。
捕まえた日付、場所、捕獲者の名前などを羽に書き入れて放すと、次にだれかが捕獲したときに
いつ、どこから飛んできたかがわかる。
実際にアサギマダラの情報を共有するメーリングリストがあるらしい。
この物語の主人公は六年生の多岐川星乃。
二年前に父親を亡くし、母親の故郷である姫島村にやってきたばかりだ。
偶然アサギマダラの捕獲に成功した星乃は、その羽に「リュウセイ」と書かれているのに気づく。
その村で民宿「凪」を営む祖母は、アサギマダラについて詳しい。
祖母の調査のおかげで、星乃の捕獲したアサギマダラが長野県から飛んできたこと、そしてマー
キングの主は星乃と同い年のリュウセイということがわかり、星乃とリュウセイの間で文通が始まっ た。
星乃と母の絆・祖母との絆・クラスメイトの志帆との絆・リュウセイとの絆・そして亡くなった後も繋がる父との絆。
星乃と繋がるさまざまな人との絆を、作者はていねいに描いている。
タイトルの「あした 飛ぶ」にあるように、あした飛ぶ力をくれる何かが、だれかが、自分のまわりにきっとあるはず。
「相手の心の扉を開けるには、自分自身の心の扉を開けておかなくちゃいけないんよ」
物語の中で祖母が星乃を諭すことばだ。
心の扉を開くこと。
そうするだけで、飛ぶための勇気、見守ってもらえるぬくもりを貰えることができるのだ。
本書は、昨年度の小川未明文学賞受賞作品。
作者はわざわざ姫島村まで足を運んで仕上げたという。
時に涙し、感動し、読後感のよいすばらしい作品である。




