本日の一冊 「おしゃべりなたまごやき」
「おしゃべりなたまごやき」【理論社】
寺村 輝夫・作
和歌山 静子・画
懇意にさせていただいている先輩作家は、自称「王様」である。貫録のあるお腹に、手入れの行き届いた鼻ヒゲ。優しくていねいに後輩たちの相談にのってくれる姿は、冠をかぶらせたら、まさに頼れる王様の風格がただよう。
けれども、この本に出てくる王様は、いばりんぼで、けちで、わがままで、あいさつすらろくにできない、手のつけられない王様。
表題作「おしゃべりなたまごやき」では、たまごやきに目のない王様が、家来のコックに晩のおかずにめだまやきをリクエストする。
お城の庭をうろうろと散歩しているうちに、にわとり小屋まで来てしまった王様。
ぎゅうづめのにわとりがかわいそうになって、鍵を開けてやったとたんに、にわとりたちが飛び出してしまう。
びっくりして逃げ出す王様のあとを、コケッコケッケとにわとりたちが続く。
この様子を見たお城の見張り番。
てっきり王様がにわとりに追われているとカン違い。
王様救出騒ぎと、にわとり小屋の鍵を開けた犯人捜しで、たちまちお城中、上から下への大騒ぎ。
部屋にもどった王様は、ほっと息をつくと、自分が手にしていたにわとり小屋の鍵を窓から放り出す。
すると、部屋のすみでごそごそ音が。王様を追いかけてきためんどりが、じっと一部始終を見ていたのだった。
王様は、めんどりに向かってくぎをさす。
「わしがにわとり小屋を開けたのをだれにもいうなよ。だまってろ」
にわとり小屋の鍵を開けた張本人の王様は、家来たちに命令する。
「鍵を開けた本人を牢屋に入れてしまえ。いいか。王様のいいつけだぞ。なにしろ、わしは王様だから」
けれども犯人はつかまるはずがなく、おどろいたニワトリたちは、すっかりたまごを生まなくなってしまい、責任を感じたコックは、自ら牢屋に入ってしまう。
王様は、自分のへやでめんどりが生んだたまごを持って、これでたまごをやくようにコックに命じる。
優しい王様に感謝しながら、コックはそのたまごをやくのだが、できあがっためだまやきは、実におしゃべりで……王様、大ピンチ!
いたずらっ子の化身のようなこの王様。
好き放題にやらかしても、まわりからは常に優しく見守られているところが微笑ましい。
ところで冒頭の「王様」は、ある日とつぜん、ヒゲをそって、王子に若返ってしまった。
貫録がなくなった? 否。若々しい王子の方がずっと、ずっと似合っていると、心の中でこっそり拍手している。




