本日の一冊 「おだんごスープ」
「おだんごスープ」【偕成社】
角野 栄子・文
市川 里美・絵
はっきり記憶が残っているから、おそらく三歳以上だったと思う。
ひとりきりの留守番がイヤで、泣きべそをかいていたら、飼いネコが、外から帰ってきた。
彼はまっさきにえさ入れをのぞき、空っぽだとわかると、わたしを見上げて、にゃあんと鳴いた。
(おなかすいたあ)
当時の田舎はペットフードなどなく、ネコはねこまんまがあたりまえの時代。
私は鼻をすすりながら、いすをもってきて食器棚を開け、お茶わんをとりだし、お釜からごはんをよそった。鍋のふたをあけ、みそ汁の残りをかけ、かつおぶしをパラパラとふる。
何かくれそう!と思ったネコは、にゃあにゃあ鳴きながら、つきまとってくる。
もっと喜びそうなもの、何かないかな?
戸棚をあけたら、いりこがあったので、それもひとつかみのせてやった。
顔じゅうお茶わんにつっこみ、むちゅうで食べるネコを見ていると、何だか元気がわいてきた。
わたしが人生最初に作ったごはんは、飼いネコのねこまんまだったのだ。
この絵本のおじいさんは、おばあさんを亡くして以来、意気消沈の日々を過ごしていた。
あるとき、おばあさんがよく作ってくれていたおだんごスープが飲みたくなって、台所に立つ。
♪ぐらぐらおゆに おにくのおだんご まるめてぽとん。
さいごに しおとバターとこしょうを少々♪
ひき肉を買い、おばあさんがうたっていたうたのとおりに作ってみる。
できあがったとたん、ねずみがやってきた。
おじいさんは、三匹のねずみにスープをふるまう。
次の日、もっと美味しくならないかなとおじいさんはスープにじゃがいもを足してみる。
できあがったとたん、今度は昨日のねずみがねこを連れてやってきた。
おじいさんはねことねずみにスープをふるまう。
その次の日、もっと美味しくならないかなとおじいさんはスープに玉ねぎを足してみる。
できあがったとたん、ねずみとねこがいぬを連れてやってきた。
おじいさんは、いぬとねことねずみにスープをふるまう。そしてついには……。
なべから湯気をたてるあたたかいスープ。
かたくこわばっていたおじいさんの表情が、どんどん優しく和んでいく挿絵がうれしい。
だれかのために料理を作ることは、その人の心をも元気に、前向きにしてくれる。
いっしょに食べることもまた、大きなエネルギーを生み出すのだ。
ねこまんまのその後。
もどってきた母が、キャアーとさけんだ。
「おとうさんのごはん茶わんがえさ入れになってる!」




