本日の一冊 「うさぎのくれたバレエシューズ」
「うさぎのくれたバレエシューズ」【小峰書店】
安房 直子文
南塚 直子絵
この春、大学を卒業した次男は、四年間をすべてフィギュアスケート部の活動に捧げていた。
何度か大会のDVDを見せてもらった。
もちろん、プロの選手たちとは月とスッポンだけれど、わずか四年間でも氷上のジャンプやスピンなど、いちおう、ちゃんとしたプロ並の技術をこなせるようになっていたことに驚かされた。
四年間の彼の願いはただひとつ。
「うまく滑ることができますように」
スケート靴も何足かはきつぶしたことだろう。新しい靴にかかる費用は、自分のアルバイト代をためて捻出していたらしい。
さて、ほんわりとしたさくら色に包まれたこの絵本。
主人公の女の子はバレエ教室に通い始めて五年もたつというのに、なかなか上手になれない。
女の子の願いはただひとつ。
「どうか踊りが上手になれますように」
すると、ある朝、ふしぎな小包が女の子のもとへ届いたのだった。
その小包の中に入っていたものは、バレエシューズ。履いてみるやいなや、女の子の足はひとりでに跳ね上がり、身体も軽くなって、まさにだれかによばれるかのように、身体は勝手に桜の木の下に向かったのだった。
そこにいたのは、桜の木に住む山の靴屋。
これから大至急で、バレエシューズを三十足作らねばならない。女の子にも手伝ってほしいというのだ。
桜の木のしるで、白い布をさくらいろに染め、それを靴の形に切って、靴やのうさぎはせっせとぬいつけていく。
女の子はいわれたとおりに、三十センチのリボンを六十本作って、たくさんのバレエシューズをこしらえたのだった。
まもなくやってきたのは、バレエ団のうさぎたち。仕上がったばかりのバレエシューズを履いてスキップ、スキップ。どんどんはやく、どんどん高く。女の子も仲間に加わり、手をつないで大きな輪となる。
ぴょんぴょんとんでは、ゆらゆらゆれて、つまだちしては、くるくるまわり、風になって、チョウになって、花びらになって……。
満開の桜の木の前で、女の子はうさぎたちと軽やかにおどりを楽しむのだった。
魔法のかかったバレエシューズで、大好きなバレエを生き生きと踊る女の子の笑顔が、DVDの中の次男の笑顔と重なる。
氷の上で、風を切り、ひらりと舞い、ステップを踏む。
バイト代をすべて靴代に注ぎこんでも、彼もまた、フィギュアスケートが好きで、好きでたまらなかったのだ。
一途な気持ちは、彼のスケート靴にも魔法をかけたのかもしれないとつくづく思った。




