本日の一冊 「葡萄が目にしみる」
「葡萄が目にしみる」【角川文庫】
林 真理子作
若い頃に読んで、すごく印象深かったのだが、度重なる引っ越しでどこへいってしまったのかわからなくなっていた。
今回、思いがけなくもブックオフでの再会で、また手元に来ていただくことにした。
さて本書。
作家林真理子の自伝とも呼べる、直木賞候補作にまであがった作品だ。
時代は、昭和の高度経済成長期のころ。
主人公は、山梨のぶどう農家で育ったさえない女の子、岡崎乃里子。
種なし葡萄を作る手伝いで、ジベ液という薬液により、初夏のころには指がピンクに染まっている。
同世代のいとこやクラスメイトの女子たちの、自分とはぜんぜん違う垢抜けた容姿にコンプレックスを抱きつつ、異性に注目されたい自意識を押さえきれない。
そんな鬱屈とした気持ちが原動力となって、乃里子は男女共学の弘明館に合格し、入学する。
新しい環境で繋がった菊代や祐子たちとの関係や、生徒会役員保坂への思慕、ラクビー部の超スター岩永がかもしだす男性のオーラを感じつつも、その横暴さに潔癖なまでに批判的な乃里子。
地方高校に通う一人の少女の多感な青春時代の、恥ずかしさやもどかしさ、悔しさ、せつなさの感情がありありと迫ってくる。
林真理子氏の作品は、若いころに集中して読んだ記憶がある。
心に残っているのは、本書ともう一作。「食べるたびに哀しくって」である。
これは作者の食にまつわる思い出のエッセイ集だが、この中にすべての林真理子が凝縮されているような感じを受けてしまう。
後日に、またご紹介したい。




