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縁の本棚  作者: 雪縁
102/306

本日の一冊 「三月ひなのつき」

「三月ひなのつき」【福音館】

        石井 桃子作

        朝倉 摂・絵


 本日はひなまつり。

 ひな人形をあつかった児童書の中で、私のいちおしは、やはり1963年初版のロングセラー「三月ひなのつき」である。


 主人公のよしこは十歳。おかあさんと二人暮らしだ。

 一昨年のひなの日におとうさんが亡くなってしまい、以来、おかあさんが在宅で洋裁をしながらよしこを育てている。

 

 おかあさんには、むかし、ひいおばあさんから贈られた木彫りの寧楽びなとよばれるひな人形があった。それはコンパクトでありながらも、とても精巧な夢のあるひな人形で、転校をくりかえしたおかあさんもそのひな人形のおかげで、少女時代を楽しく過ごすことができたのだった。

 そんな大切なひな人形を戦争で失って以来、よしこの家には、ひな人形はなくなってしまっていた。


 あるとき、よしこはおかあさんに、自分はひな人形がほしいのだとうったえる。だが、デパートにあるものは、金ぴかで安っぽいものばかりだとおかあさんははねつける。

 それでもかまわない。自分は思い出の中のおかあさんのひな人形ではなく、自分のひな人形が欲しいのだというよしこの気持ちを汲んで、おかあさんはよしこを連れてデパートに出かける。


 意気揚々として行ったものの、どうしても自分のお気に入りのひな人形を選べないよしこ。

 そんなよしこにおかあさんは言う。

「おかあさんのもっていたおひなさまと、ここにならんでいるおひなさまのちがいがわかるかな?」

 形式だけにとらわれたひな人形でなく、おかあさん自身が二十回以上も自分の手で出したりしまったりしたくらい愛せるようなひな人形をよしこに贈ってあげたいというのだ。

 よしこには、おかあさんのいっしょうけんめいな気持ちが伝わり、そこで十分心が落ち着いた。

 そして……。

 物語は後半になって急展開する。

 思いがけなく、よしこは、自分だけのひな人形を手にするのだ。

 果たして、それはどんなひな人形なのだろうか?


 母と娘の優しいひなの物語。

 姉と私のひな人形も、母のおさがりだった。

 組み立て式の立派な御殿や、おままごとの調度品があり、ひな壇から片時も離れず、毎日毎日遊んでいた。

 ひなまつりが済んだら、さっさと片付けないと縁遠くなるなどどさとしても泣かれるだけだから、気の済むまで遊びなさいと母もあきらめていた。

 だから、我が家のひな人形は、五月の節句を迎える頃まで、わたしたちとつきあってくれたのである。

 愛されれば愛されるほどに、ひな人形たちも、きっと持ち主の女の子を守ってくれるだろうと思う。

 ひなの季節は、本当に懐かしい。

 



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