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縁の本棚  作者: 雪縁
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本日の一冊 安房直子コレクション1より「さんしょっ子」

安房直子コレクション1

【なくしてしまった魔法の時間】より

「さんしょっ子」


 百冊目の本棚の本はやはり、大好きな安房直子さんのコレクションから、「さんしょっ子」を。


「さんしょっ子」とは、サンショウの木に宿る木の精。

 そまつな緑の着物を着て、はだしで、髪の毛もぼさぼさだけれど、なかなかかわいい子なのだ。

 サンショウの木のある家の娘はすずなといった。

 おさななじみの茶店の三太郎と、サンショウの木の下でよく二人で遊んでいた。

 すずなのおかあさんは、こぎれをはぎあわせた中にひとにぎりの小豆を入れて、よくお手玉を作ってくれた。


  ひとりで さびし。

  ふたりでまいりましょう。

  見わたすかぎり

  よめなにたんぽぽ


 すずなが歌いながらお手玉遊びをしていると、時々なぜかひとつ、なくなってしまう。それはさんしょっ子のしわざだった。

 だれもいないとき、さんしょっ子は、今までにくすねたお手玉で、すずなそっくりの歌声で、お手玉歌を口ずさみながら、これまた、すずなそっくりの手つきでお手玉をあやつるのだった。


 年月が流れ、すずなは美しい娘に、三太郎はりっぱな若者に成長した。そしてさんしょっ子もまた、大人になっていた。

 幼いころのさんしょっ子は、時々人の目にとまることもあったが、すっかり成長したさんしょっ子は、うすみどり色の光となって、だれにもわからなかった。

 けれどもさんしょっ子は自分が大人になったことに気がつかず、いつまでも小さい女の子のままだと信じていた。


 やがて、すずながとなり村の富豪の若者に嫁ぐ日がやってくる。

 嫁入り行列を見つめながら、すずなを想い続けていた三太郎は、やるせない寂しさを感じていた。

 そんな三太郎を元気づけたい一心で、さんしょっ子は自分が大切にしていたお手玉をもって茶店に向かう。

「さんたろちゃん、さんたろちゃん」

 すずなそっくりの声でささやきかけるさんしょっ子。

 けれども光となったさんしょっ子は、三太郎に見えるはずがない。

 その後もさんしょっ子はさんたろうを呼び続けるがついに三太郎に怒鳴られてしまう。

「だれだい? すずなの声でよぶのは?」

 驚き悲しむさんしょっ子。

 やがて、自分のすがたを知ってしまったさんしょっ子は、風にのって永遠に姿を消してしまう。

 すずなの家のサンショウの木も枯れて倒れてしまった。


 しかし、サンショウの木はずっと生き続ける。

 三太郎の母親が、そのサンショウの木から作ったすりこぎ。

 さんしょっ子がくれたお手玉の中の小豆は、使っても使っても減らない魔法の小豆。

 そのすりこぎやあんこは、おだんごが看板の茶店を、ずっと支え続けることだろう。


 すずなを想い続けた三太郎。

 三太郎を思い続けたさんしょっ子。

 ふと、実はすずなも、本当に好きな人は三太郎だったのではなかったのかと思ったりもする。


 春、サンショウの若葉の香りを嗅げば、きっとこの物語を思い出すことだろう。




本日で百冊めの本です。本棚をのぞいてくださる方々に励まされて、ここまでくることができました。

ありがとうございました。これからも本を入れていきますので、よろしくお願いします。

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