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ー香倉の小説ー

声がきこえる。

作者: ユキノシタ



ミミちゃんは、いつも1人。

今日も、お部屋のすみで耳を塞いでいます。



そんなミミちゃんへ、お母さんは話しかけました。



「ミミちゃん。どうしてお外へ行かないの?」



ミミちゃんは顔を上げて答えました。



「だって、みんなの声がきこえるんだもん」



お母さんは首を傾げました。お母さんにも、お隣のおばさんの声や、お向かいのワンちゃんの声はきこえます。



そのことをミミちゃんに伝えると、ミミちゃんは首を大きく横に振りました。



「小鳥さんやアリさん、お花さんやイモムシさんの声もきこえるの」



ミミちゃんの言葉に、お母さんは驚きました。



「まぁ! それはステキじゃない!」



それでも、ミミちゃんは、悲しい顔をしたままでした。



「小鳥さんが雨の降る時間を教えてくれる。お花さんが明日の天気を教えてくれる。……だけど、イモムシさんが美味しいって食べてる葉っぱさんの声もきこえるの。痛いって、きこえるの」



ミミちゃんは半分泣きながら、窓の方を見ました。



そんなミミちゃんに、お母さんはなんと言っていいか分かりません。お母さんは、黙り込んでしまいました。



そこへお父さんがやって来ました。泣いているミミちゃんを見て、お父さんは聞きました。



「ミミちゃん、どうしたんだい?」



ミミちゃんは、お母さんに言ったのと同じ説明をしました。



話を聞いたお父さんは外を見て「そうか」と呟きました。お父さんはミミちゃんの方をもう1度見ます。



「たとえば、ミミちゃんが可愛いお洋服を買ってもらったとするよ。それを着てパパに見せてくれた。そのとき、ミミちゃんは何て言ってほしい?」



「…カワイイねって、言ってほしい」



ミミちゃんは涙を拭きながら答えます。お父さんは「うん」と首を縦に振りました。



「じゃあ、次はミミちゃんが歯医者さんで痛いのを我慢してるとするよ。ミミちゃんはパパに何て言ってほしい?」



ミミちゃんは少し考えます。そしてお父さんの目を見て、静かに答えました。



「頑張れって、言ってほしい」



その言葉に、お父さんは微笑みました。



「うん。きっと葉っぱさんも、そうなんじゃないかな? 痛いのに気がついてくれてるミミちゃんに、頑張れって言ってほしいんじゃないかな。イモムシさんだって、きっといつかキレイな蝶々になるだろ? そのとき、カワイイねって言ってほしいだろうし。今だって、早くキレイになってねって言われたいんじゃないかな?」



お父さんは最後に「ミミちゃんはどう思うかな?」と付け加えます。



ミミちゃんは笑って言いました。



「ミミも、そう思う!」



ミミちゃんは窓を開けると、葉っぱやイモムシに話しかけました。



「早く、大きくなってね! 痛いけど、頑張れ!」



その一生懸命な小さな背中は、クルリと振り向くと向日葵のような笑顔で言いました。



「パパ、ママ、大好き!」



ミミちゃんの眼には、驚いた顔のお父さんの姿が映っていました。



部屋の隅では、静かに微笑むお母さんの写真が、夏の光を反射させています。




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