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生態漢字  ~漢字に抗う異世界のやつら~  作者: そらからり
6章 The Next World at the End
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番外編 霞へと消えた女 その4

「……は?」


 トリトマが地面に倒れる。俺はその光景をぼうっと受け入れることができなくただ見ていることしかできなかった。

 そして次の瞬間には背後から、頭上から、横から魔物達が数多く押し寄せて来た。

 まるで急にこの世界に現れたかのように、それほどまでに気づかれることなく大量の魔物が武器を持ってやってきた。


「グハハ。俺の存在感を見て俺がそこらの魔物よりも強いと思ったのだろう? しかし不思議に思わなかったのか。この広場に来て俺を知覚したお前はなぜここまでの存在感を持つ俺をもっと手前で気づけなかったのかを!」


 ブロルの言葉に俺は気づいた。

 ……そうか、俺は勘違いしていたのか。


「俺は自在に存在感の大小を自在に決めることができる。他の魔物の存在を隠す程度の存在感を放つぐらい簡単なことだ。まあこんなの三番隊ならば誰にだってできることだがな」


 俺は先ほどこの魔物の群れのボスであるブロルを見て安心してしまった。

 こいつを倒せば後はこの周囲にいる数匹を倒して終わりだと。

 しかし、トリトマは違った。俺の言った通りに周囲を警戒し続けていた。だからこそ、まだ隠れ潜んでいた魔物に気づき、殺気を感じて、放たれた槍から俺を守ってくれた。


 だが、


「なぜ俺を助けたんだ、トリトマ……」


 もしかしたら俺が直前に気づいたかもしれない。ギリギリ致命傷を避けられたかもしれない。トリトマがあえて受ける必要はなかった。倒れた俺を捨てて逃げる事だってできたかもしれないのに。


「あなたが……」


「トリトマッ!?」


 倒れたトリトマを急いで抱き起す。

 俺がトリトマの手を握るとトリトマも握り返してくる。しかしその力は弱々しく、命がすでに無くなりかけていることを嫌でも知らせてくる。

 魔物達は動かない。まるで俺達の会話を楽しんでいるかのように笑っている。


「あなたが私を肯定してくれたから私はこうやって自分で……自分で決めて生きることができました。だから、私はあなたに頂いた生をあなたに返しただけです。大丈夫、私はこれまでと変わらないだけです。これまで通り、私は彷徨うだけなのです」


 そう言って、トリトマは目を閉じた。気絶しただけなのか、それともすでに心臓が止まってしまったのか分からない。

 確かめる時間などない。それよりも俺にはやることがあった。


「……お前たちの一匹たりとも逃がしはしない。命乞いも聞かない。お前たちが奪った命がどれもお前たち以下であることを分からせてやる」


 俺の放った殺気に当てられたのか、俺を囲む全ての魔物が武器を構える。先ほどまで笑っていた魔物は今はその口を閉じている。


「行くぞ、『受け継ぐ願い』」





 立っている魔物が一匹もいなくなるのに10分とかからなかった。

 トリトマ以外の死体から『受け継ぐ願い』で集めた力は俺の素の力を数倍にも高め、槍の触れる先から魔物達の命を奪っていった。あれほど苦戦するかと思っていたブロルすらも他の魔物と区別なく一瞬で殺していた。

 これこそが俺の『直』の能力、『受け継ぐ願い』。共通の敵を持つ者同士であれば力を受け渡すことができる。最初は俺からしか渡せなかったが、今では死体からでも俺が力を受継ぐことができるようになった。


 本気でやれば俺1人でだって倒せた敵なのだ。だが、油断から俺は大切な人を失ってしまった。

 目を閉じて動かないトリトマを俺は見る。

 

 一日二日しか過ごさなかったが、それだけでトリトマの魅力は十分に分かったつもりであった。とても優しく、とても人を想うことのできることの女性。

 言葉にしようとすればもっと語ることのできるかもしれないが、それは全てこの人の内面だ。


「思えば、何でトリトマが強くなろうとしたか具体的な理由は分からなかったな」


 どこで生まれ、どうやって育ち、どんな理由があってここにいるのか。それを知ることが出来ていれば結果は違ったのだろうか。


 ……いや、どちらにせよ俺はこの敵を見誤って油断して危険な目にあっていたに違いない。そしてトリトマに助けられたのだろう……トリトマの命を代償にして。


「トリトマ、ありがとう」


 すでに胸は動いておらず、呼吸が止まっていることは明白。

 残念ながら……彼女は死んでしまったのだ。


「好きだった。会ったときから今まで。……いや、これからも好きだ」


 出来れば生きている間に言いたかった言葉。

 彼女はどんな返事をするだろうか。

 振られるかもしれない。もしかしたら困ったように笑うのかもしれない。

 

 それとも……


『はい、私もジヒトさんが好きですよ』


 そう、このように笑顔で俺の気持ちに応えてくれるかも……


「って、トリトマか!? どうやって……」


 そう、今の返事は決して俺の妄想ではなく、トリトマ本人の声と笑顔であった。


『えーと……『幽』の能力みたいですね。『幽霊門ヲ閉ジハセズ』。死ぬ瞬間に魂だけ身体から抜け出すことで幽霊になれる? みたいです!』


 自分でも良く把握はしていないみたいだが……幽霊、か。

 触れることはできないんだな……。


 そう思ってトリトマの……幽体に向かって手を伸ばすとトリトマは俺の手を握り返す。その手の感触を俺は確かに感じた。


「肉体から魂が抜けたんじゃなかったのか?」


『そのはずだったんですけどね……なんででしょう?』


 本人も分かってはいないみたいだが、それでもトリトマの体温をこうして感じることができるのは嬉しい。

 愛する者に触れることの大切さってのは失って初めて分かるのだろうが、取り戻せて改めて大事にしようと決意できる。


『確実に言えるのはジヒトさん以外に私のことを見るのも触れるのも無理みたいですね。私がジヒトさんを好きすぎてジヒトさんに取り憑いたって感じでしょう』


「そ、そうか」


 何だろう、面と向かって好きと言われると照れる。

 傍から見たら独り言をつぶやいて照れている男に映るだろうが、まあここには俺達以外はいないから構わない。





「さて、これからどこへ行こうか」


 トリトマの希望により見晴らしの良い丘にトリトマの遺体――遺体というか魂の抜けた抜け殻――を埋め、トリトマに尋ねる。


『どこへででも! 私の行きたいところはジヒトさんのそばですから。すでに目的は達成しています』

 

「なら……色々な場所に行こう。俺は強くなるために。トリトマは様々な景色を楽しむために」


 俺の提案にトリトマは怒ったような表情をつくる。


『私と、ジヒトさんが様々な景色を楽しむためにです! 強くなるのもジヒトさんと、私です!』


「そうか……そうだな。二人で楽しもう、強くなろう。出来れば紹介したいやつらもいるしな」


 俺はとある友人……というか、冒険者仲間を思い出す。

 彼らは元気でやっているだろうか。『鬼』との闘いの後は見ていないが無事でいるだろうか。


「じゃあ行くか」


 俺は歩き出す。すでに目的地は決まっていた。


『どこへ行くんですか?』


 横に並んだトリトマは尋ねる。

 どこへ、か。冒険を終えた冒険者が行く場所は決まっている。


「冒険者ギルドさ。まずは冒険者というものをお前に教えてやるよ」


 足跡は1つ。しかし、俺の隣には確かに愛する者がいるのである。


とりあえずこの話はここまでにしときます。よく分からない番外編に突き合わせてすいませんでした。でも番外編は色んなのまだ考えてはいるんです……。懐かしいあの人の話とか。


そろそろ本編も書きたい。……が、本編も今の章よりも次章を書きたい。今の章、終わらせるのに10話以上かかるだろうなぁ(遠い目)

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