86話 昔の知り合い
お久しぶりです
『冥』が主催する生き残り戦の第一回戦が終了し、一旦他のグループの闘いが終わるまで待機となった。次の闘いがいつかは知らされていない。
「そういえば俺たちの死体……現世での体はどうなっているんだ?」
ふと思いついて質問してみる。いつまで闘いが続くのか分からないが、生き返って体が腐ってましたなんて嫌だぞ。それに仲間がそれだけ心配してしまう。
「ああ、まだ言ってませんでしたっけ? ここと現世が時間が完全に分けられています。そもそもで時間軸が違うところから来た方もいらっしゃいますし、ここで何日、何か月、何年いようとも現世に帰るときは死んだ時間です」
そうか、ならとりあえずは一安心だ。
「あなたたちはここで待っててください。どうせ他のグループが終わってもすぐには始まらないのでそれまで親交でも深めているといいですよ」
そう言って『冥』は去っていった。
『冥』が案内したのは二階建てのレンガ造りの家。入ると宿屋のようにいくつもの部屋が分かれている。
「じゃ、じゃあ俺は休んでるからな! 絶対に部屋に入ってくるなよ!」
ティミドは勝手に自分の部屋を決めて閉じこもってしまった。
「しょうがない男ね。でも、休む以外にやることないし、私もこれで失礼するわ。……どうせあなたたち私の相手してくれなさそうだし」
相手って、ガーベラの夜の相手ってことだろ? こんなところでできるようなメンタル俺は持ってないよ。
いくら『冥』が親交を深めてろとか言ってたけども俺はやらないぞ!
「酒ならいくらでも相手してやるよ。ブレゴリオとカナリアもどうだ? 酒ならアイテムボックスにいくつか入っている」
俺はいくつか買っておいた酒をアイテムボックスから取り出す。『冥』の創り出した世界でもアイテムボックスって使えるんだな。さっき装備を確認したときに発見した事実だ。
「おお、酒か! 余もそれなりに酒を嗜むのでな。今夜は語り明かそうぞ」
「まあいいわ。私もお酒は嫌いじゃないしね。その代り、冒険譚をいくつか用意しておきなさいよ。冒険者なら漢字を攻略したことあるんでしょ?」
それならいくらでも話してやるさ。『毒』でも『鬼』でも、十二支のやつらのことでもな。……そうだ、早くあいつらのところへ帰らないとな。いくら時間の流れは止まっていようとも俺が寂しい。
「……私もお酒は好き。……あんまし飲めないけど」
「エルフなのに酒は飲めないというのか! 珍しいものだな」
「……それはドワーフ。……エルフはそこまで強くない」
カナリアがブレゴリオの言葉を訂正する。ドワーフもこの世界にはいるんだな。やっぱり鍛冶が得意なんだろうか。
「向こうに食堂があるみたいだ。他に食料もないか探してみよう」
「……私のアイテムボックスにも食べ物が少しならある。……エルフだから野菜しかないけど」
「ふむ、ならば余が手料理を振るってやろう。余の連れの代わりにいつもやっていたからな。不味くはないはずだ」
「俺も手伝おう。俺も仲間内では料理当番をすることもあったし」
一人暮らしのときは自炊していたしな。作ってくれる人がいなかったおかげで。
「じゃあ男連中に任せちゃいましょうか。その間に私とカナリアは女子トークでもしましょ?」
女子トークって何を話すんだよ。怖いな。
食堂には調理器具こそあったものの、食材らしきものはなかった。
仕方ないのでカナリアの持っていた食材と、俺も多少ならあったのでそれを使う。
今度『冥』に会ったら食料くれって言っておこう。
俺とブレゴリオでつまみをつくり、テーブルまで持っていくとガーベラとカナリアの会話は弾んでいた。カナリアは笑顔まで見せている。どうやったんだよ、その会話術俺にも教えてほしい。
「あら、ご苦労様。じゃあカナリア、この話はまた今度ね。生き返ったら連絡取り合いましょう」
「……うん、鳥たちに私の名前を言えば案内してくれるように言っておく」
「ほう、ずいぶんと仲良くなったものだな。余も仲間に入れてくれぬか?」
「女子の会話に混ざるのは男としてどうなのかしら。あなたたちの冒険譚なら聞いてあげるから何かないの?」
「余は冒険はこれからというところだったのでな。冒険らしい冒険はまだしておらぬ。強いて言うなら王城を抜け出すときが冒険であったな」
何それ。王城を抜け出すってどういうシチュエーション?
「……やっぱりあなたどこかの王様だったのね」
ガーベラは予想していたみたいだ。
まあ雰囲気からしてそうだったものな。『王』って漢字もそう聞くと当たり前って思えるし。
「余の脱走話もすると長くなるのでな。まずはレンガ、お主から話してみよ。冒険者として長いのだろう?」
「いや、俺は冒険者になってから半年も経っていないんだけどな。それを言うならカナリアのほうが圧倒的に長いだろ?」
「……女性に年齢のことを言うのは失礼」
いや、自分で100歳超えたとか言ってただろ。他人に言われるのはまた別ってやつか。
「私はただ長生きしただけでそこまで闘ってきてはない。……昔、一度だけ『龍』と闘ってことがあるくらい」
「へえ、『龍』か」
……ん? 『龍』ってあの『龍』だよな?
「俺の仲間で『龍』を所有している爺さんがいるんだけど、まさか知り合いだったりするか?」
「……その時のメンバーはシュヴァルツ、ティガシー、アンネ、ハドの4人」
はい、ハド爺でした。
「ハドが俺の仲間だよ。今一緒に闘っている。……その最中で俺が死んでしまったんだけどな」
「……そう」
心なしかカナリアの頬が赤く染まったような気がした。
どういう関係だ? 仲間以上だったりしたのか?
「レンガは闘いの最中であったのか。で、あればここで強くなってから生き返るのも悪くないであろう」
突然ブレゴリオがそんなことを言ってきた。
「余はこれでも剣を使うのでな。これからの闘いに備える意味でも少しでも強いほうがよかろう。明日は余が剣の指南をしてやってもよいがどうだ?」
「ありがたい。俺の剣は我流でな。仲間にも剣を使うやつがいなかったし」
「……魔法は使えるの?」
「水と雷、火に適性があるそうなんだけど、まだどれも上手くいかなくて」
かろうじて雷だけはアネモネに教えてもらって牽制替わりにはなるレベルだ。まあ今は『針』やら他にも闘う手段があって使う機会が少ないけど。
「……なら私は魔法を教える」
カナリアからそう提案された。これは嬉しい。剣と違って魔法は遠距離攻撃にもなる。接近戦しかできない俺の戦闘の幅が広がるぞ。
「ちょっとちょっと、強くなるって話もいいけど、今まで攻略してきた漢字の話はどうなったの? 楽しみにしているんだから早く話しなさいよ」
赤くなった顔――これは照れてるんじゃなくて酒のせいだな――でガーベラが寄りかかってきた。体重がかかっているので何にもロマンチックではない。酒臭いし。
「はいはい。ならまずは『毒』を攻略したときの話からだな。あれは――」
夜は更けていく。だけどまだ夜は長い。俺の話を終わらせてブレゴリオの話も聞きたい。
「『毒』は最後にこう言った。見事だ、と」
さあ次は『鬼』かな。いや、その前にヒシバの話もあるな。
酒を注ごう。つまみを食べよう。
今夜は宴だ。一回戦を無事に勝ち抜いた勝利に浸ろう。
久しぶりすぎて主人公どんなんだったか忘れてます笑
なぜここまで書かなかったのか、それはバトルがないからさ