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生態漢字  ~漢字に抗う異世界のやつら~  作者: そらからり
6章 The Next World at the End
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85話 王たる能力

 さて、前2戦をティミドとガーベラが勝利してくれたおかげで残り3人のうち1人でも勝てば良いという大分俺たちに有利な状況になったのだが。……前の2戦が全然参考にならない。

 ティミドは相手が何もせずとも回答しそれが正解。なぜか相手も同様にティミドが何かをする前に回答し不正解。これが第1戦目。

 ガーベラは『女』の魅力を最大限に使い相手を誘惑し、漢字を教えさせた。


 この二つの闘いは闘いが始まる前に決着が着いている。

 俺はここから何を参考にすればいいんだ。


「……やあ」


 俺の相手はあの優男。先ほどまでの余裕綽々とした笑顔は消え、今は汗まみれとなった額を拭きながら俺たちを睨みつける。


「君たちのおかげで俺の仲間は死にそうだよ。……ああ、もう死んでいるんだっけ?」


 優男……ゲッテと『冥』は言っていたな。虚ろな目をしながら俺たち全員を見つめる。


「それでも、俺たちはまだ死なない。まずは俺が勝たせてもらう。……この漢字でな!」


 ゲッテの身体が光ったかと思うと、俺の頭の中に音が鳴り響く。それは意味をなさない、言葉ではなくただの音の羅列のようだ。


「頭に声が聞こえるだろう?心配せずともそのうち言葉となる。そしてその声がお前の精神に何か訴えてくるはずだ。正しい答えを言えれば俺の漢字を、間違えた答えを言えばお前の漢字が明かされる。それが俺の所有する漢字の能力だ」


 ゲッテのその言葉を皮切りにし、音が単語へと、そして単語が繋がり言葉へとなっていく。

 言葉は頭の中で痛みとともに広がっていく。


「汝に問う」


 ……ぐぅっ。


「汝が生きる意味を述べよ」


 我慢できる範囲の頭痛ではない。もっと根本から俺に痛みを伝えてくる。


「汝が死なぬ意味を述べよ」


 痛みはやがて恐怖となり


「汝はなぜ生きるのか」


 恐怖も慣れれば感じなくなり


「汝はなぜ死なぬのか」


 途中からは何も分からなくなり、


「汝に大切に思う者はいるのか」


 思考は途絶え、


「汝を大切に思う者はいるのか」


 何も考えないことが快楽と成り果て、


「汝はなぜこの世界を生きているのか」


 ただこの言葉に身を任せる。


「汝はこの男を殺してまでなぜ生きたいのか」


「汝にこの男の命を背負う覚悟はあるか」


「汝はそうまでして生きたいのか」


「さあ答えよ」


「さあ、さあ、さあ、さあ、さあ…………」


「汝汝汝汝汝汝汝汝汝汝汝汝汝汝…………」


 奔流のように頭の中で言葉が紡がれていく。

 呪いのように頭の中で言葉が繋がっていく。

 単語の意味は理解できようとも言葉の意味が分からない。

 俺は何を答えればいいんだ。

 意味?そんなの知るか!俺はただ、この世界に連れてこられて来たんだ!

 意味なんて、神にでも聞いてくれ!


「それがお前の答えか?」


 ああ、それでいい。だから、この言葉を止めてくれ!


「よかろう」


「しっかりせい!」


 何も無かった、無の景色に色が戻る。


「お主が負けようとも余らがまだ控えておる。負けることには気にせんずともよい。だがな、敵に呑まれるでない!」


 それはブレゴリオの言葉であった。隣にはカナリアが立っている。

 ブレゴリオの言葉により頭の声は消され、何も聞こえなくなった。

 ……しまった。何か大事なものを、大事なことを失ってしまったような……。


「……ふん。お前の負けだ。お前の漢字は『肝』。俺は回答とともに能力の使用を止める。……これで、まだ俺たちにも勝機が見えてきた」


 やってしまったなあ。ただ、それほどの喪失感はない。先ほどのままなら俺はとてつもない引け目を仲間に感じただろう。


「すまないな、負けてしまった」


 だけどブレゴリオが負けてもいいと言ってくれた。

 なぜだかその言葉だけは朦朧とした意識の中でも覚えている。


「いいや、良いのだ。後は余らに任せい」


「……あんたはいらない。私だけでいい」


 厳めしい顔を、ニカッとすべてを包み込むような破顔をしたブレゴリオと表情を変えなくともこちらを心配していることが分かるカナリアに俺は心からの礼を送る。


「『冥』、俺の負けだな」


「はい。では変則ルールでしたが、双方ともに納得しているようですのでこれで決着となります。次はシュゲーノさん、カナリアさん出てきてください」


「……分かった」


「ゲッテ、お前の勝利は俺がつなげるぞ」






「じゃあ俺がまず能力を使わせてもらおう」


 そう言うゲッテの掌からは黒い靄のようなものが出てくる。

 その靄は形を様々に変え、大きさを変える。

 ……俺には全く分からない。というかまともな勝負だな、これまでと比べて。


「……分かった。あなたの能力は『蝿』」


 と、カナリアはあっさりと答えてしまった。


「正解ですね」


「な、なぜた!小さすぎて俺だって離れたら『蝿』の存在は分からないんだぞ」


「……エルフの視力は人とは比べ物にならない。……それに、エルフに知らない生物はいない」


 これでゲッテがカナリアの能力を答えられなければゲッテの勝利だ。


「さあ、お前が能力を使って見せろ!これで答えられれば……まだ次に繋げられる」


 ここでゲッテが正解を答えられ、5戦目に相手チームが勝てば2勝2敗1分けとなる。

 それでどうなるか分からないが、延長戦でも始まるのだろうか。


「……」


 カナリアは自分が能力を使う番になっても何の動作も起こさない。

 ただ立っているだけだ。


「早くしろ!……いや待て、すでに能力を使っているのか?」


「……」


 カナリアは何も答えない。目を閉じ、口を閉じ、ただ立っている。


「……『立』か?」


 恐る恐る答えるゲッテだが、それに対する返答は無残なものであった。


「不正解です。カナリアさん、ご自分で説明されますか?」


「……うん。……私は保漢者じゃない。……私が使えるのは魔法だけ。……ちなみに100歳をこないだ超えた」


「おい、それはずるくないか⁉」


「いいえ。ゲッテさん、あなたがカナリアさんには所有している漢字がないと答えていればあなたの勝ちでしたよ?」


「くっそおおおおおお」


 打ちひしがれ、ゲッテは地面に拳を打ちつける。


「では、5戦目に行く前に先に3回勝利したチームが出ました。これによりティミドさん、ガーベラさん、レンガさん、カナリアさん、ブレゴリオさんは次の闘いまで休んでいてください。残念ながら負けてしまったみなさんにはこの世界の住人となってもらいます」


 5人の顔が蒼白に染まる。

 死なない、と言えば聞こえは良いが、意思もなくただの人形みたいな存在に成り果てるのは耐えられないだろう。


「な、なあ。せめて死なせてくれよ!こんなとこで生きるなんて嫌だ!」


「駄目です。それがルールですから」


「嫌よ!私は生きたいのよ、元の世界で!」


「駄目です。それはルールですから」


 取り付く島もないな。

 5人の顔は絶望的なものに変わり、蒼白した顔は青白くなり、色が薄くなっていく。


「え?ちょっ」


「俺の身体が⁉」


 それはまるでこのドームの外にいた青ぞろい人影のようだ。

 このまま彼らはこの世界の住人になっていくのだろう。


「まあ待つがよい」


 ドームから出ようとする『冥』を呼び止める声が響く。


「……何ですか?ブレゴリオさん」


「その方たち、余がもらい受けよう。この世界の住人はたくさんいるのだ。少しばかり余が頂いても文句はあるまい?」


 丸太のような太い腕を組み、ブレゴリオは能力を使う。


「『王庭ニ休ム近衛兵』」


 ブレゴリオの背後の空間がひび割れ、扉が現れる。

 扉が開かれると、そこには城と草木が生え、花が咲き乱れる庭があった。


「余はいつでも配下を欲している。それは超人でも達人でも凡人でも天才でも賢者でも愚者でもよい。余は『冥』に抗おうとする貴様らの姿を見てぜひとも欲しくなった。この世界では貴様らが望むことなら大抵は叶うであろう。余が貴様らの力を欲したときにだけ、その力を貸してほしい。余に付いてくる者がおればこの扉をくぐれ。この世界の住人となりたければ残るのだ」


 最初は躊躇っていた。敵であるはずのブレゴリオの言葉を信じられないからか。罠であることを疑ってか。

 だが彼らには選択肢などない。残れば否が応でもこの世界の住人となる。それだけは避けなければならない。

 一人がくぐり、他も続く。


「……あなたは私にとって最大の敵になりそうです」


 『冥』はため息とともに敵意とむき出しにする。


「はっはっは。貴様は漢字であろう?攻略される前であればもとより貴様を味方と思うておらんわ」


 ブレゴリオは『冥』の敵意を気にせず笑い飛ばす。

 

「いずれ貴様も余の配下となれ。余はいつでも歓迎しておる」


うん、はやく闘いたいから纏めすぎました


ああ~

しばらく違うの書いてたからこっち書けてないです

もうちょとだけ待っててくださいね(7/3)

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