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78話 解放と暗転

マウスの調子がおかしいぞ……なんで動かないんだ?

 溶解毒を纏わせた剣が木の枝ごと『申』の身体を二つにする。

 鉄の剣であればもう少し溶かすのに手間取っていたかもしれないが、所詮は木の枝。鉄と同じ切れ味があったのに耐久面では全く変わっていなかった。使い物にならなくなったらまた次の木の枝を使えば良いと考えていたのだろうか。

 何はともあれ、これで『申』は倒した。

 左右で二つに分かれた『申』は光となって消えていく。


「次はお前だ。闘う準備はできているか?」


 槍を持った男はフォルにかかりきりとなっている。

 ヴェルツルを助けに行く暇はないだろう。


「ま、待て!今『隷属』の力で俺の支配下の奴隷たちをここに呼び寄せ……」


「やっぱり殺すしかないようだな!」


 ヴェルツルが掲げた右手を迷わず斬り落とす。

 『竜』を呼び出した魔法陣は右手から発せられた。

 右手が能力発動の鍵であるなら使えなくするのは必須であろう。


「な⁉ぐっ!俺の手が……」


 ヴェルツルは手首から先が無くなった右腕の出血を抑え、恨めしそうに俺を睨みつける。

 だが、俺たちにやったことに比べるとこれだけじゃすまないぞ。

 俺たちにやったこと……あれ?何をやったんだ、こいつは俺たちに。


 ヒシバを殺した俺たちにベムまで来いと命じた。来なければ今いる街に兵を送り付けると脅して。

 向かったら今度は十二支の『子』が命を狙ってきた。他の十二支も同様だな。

 和解、という考えはここまではまだあった。だから逃げ出さずにベムへと目指してきたのだ。

 だがいつからだ?闘うという選択肢しか頭に浮かばなくなったのは?

 ベムから立ち去ってもらえばそれで済む話なのではないのだろうか。

 殺さなくてもよいなら俺だって殺したくはない。だが、今も闘え、殺せと頭の中で声がする。


「お前、俺に何か能力でもかけているのか?」


 ヴェルツルは操作系の漢字を所有している。

 いつの間にか俺にその能力をかけていてもおかしくはない。


「……?そ、そうか⁉あいつが」


 始めは疑問を受けべていたヴェルツルであるが、心当たりがあったようだ。

 と、そこで俺の精神力が大きく削られたのを感じた。

 敵の能力によるものではない。


「……フォルか」


 見ると、いつもは百ほどで分裂をやめてフォルが好き勝手に分裂し、さらには『毒』や『針』の能力を使っていた。傷が再生しているものもいるので『肝』も使っているのだろうか。

 考えなしにこんなことをやるようなやつではない。きっと何かあってのことなのだろう。

 槍を持った男は大量のフォルに群がられ、姿が見えなくなり、光がそこから生まれた。

 倒したんだな、そう思った瞬間、頭の靄が晴れたかのように考えという考えが頭の中に浮かんでくる。

 ヴェルツルを弱体化させる、無力化させる、味方にする、和解するといった殺す以外の選択肢が。


「……『亥』が消えたか」


 先ほどまで暴れていたヴェルツルが大人しくなり、そう呟くと、語り始める。


「『亥』の能力により貴様らに闘う以外の選択肢を無くしていたのだが、どうやら倒されたことによりその効果も消えたようだな。そして俺も……」


 『亥』っていうのはフォルが倒した槍の男のようだが、それよりも


「お前も?」


「いつの間にか俺もその能力がかけられていたようだ。戦争という考えが俺の頭にこびりついていたのはそのせいだったか……。あいつだけは、『亥』だけは俺の支配下になかったらしい」


 支配下にしていたと思っていたやつが逆に自分に能力をかけていたってことか。

 実際、俺も気づかなかったし、仲間も誰も気づいていなかった。

 洗脳系の能力としてはかなり優秀な能力だったのだろう。

 そしてそれはフォルに倒されたことにより解けた、ヴェルツルはそう言っているのだが……


「な、なあ!俺は操られていたんだ。だから、見逃してはくれないか?もうこの国には手を出さないと誓う!この通りだ!」


 右腕を抑えたままヴェルツルはしきりに頭を下げまくる。

 ……何だろう、この気持ちは。一気に小物感が出てしまった残念さは。


「駄目だ。お前の言うことは信用できないからな。かと言って、殺すなんてことはしない。おそらくその腕じゃ能力は使えないみたいだしな。俺の仲間に騎士がいるから牢まで連れて行ってもらう」


 正直、信用はできない。

 確かに能力にかけられていたのかもしれない。

 だが、この男からはずる賢さというものを感じる。

 まだ最後まで闘おうという気持ちがあれば見逃すという気持ちにもなったかもしれないが……。


「くっ……まあ死なないならば」


 ほら、自分の命が最優先というような考えをしている。

 闘いに誇りはなく、勝機があれば威張り散らし、いざ負けるときはすぐさま逃げるような男なのだろう。

 和解ではなく、もはやヴェルツルから自由を無くすという終わりになったが、後はイチイに任せよう。

 あいつならきっとこれ以上悪化するような結末にすることはないだろう。


「困るなあ。勝手にそんな感じでこの闘いを締められても」


 これで終わり、そう安堵したときであった。背後から声が聞こえたのは。

 20に届かない、そう思えるくらいの年齢の男が現れた。いつからいたのか分からない。

 気づいたらそこにいたのである。


「この男は死ぬって僕たちが決めたんだから、生かすなんて困るんだよ。ほら、ちゃんとこういうふうに」


 ヴェルツルまでは俺を挟んでいたはずの男はまたも気づかぬうちにヴェルツルへと近づき、触れた。

 触れられたヴェルツルはそのまま崩れ落ちる。


「……何をした⁉」


「何って、だから殺したんだよ。知ってるでしょ?こいつは戦争を起こしていくつかの国を滅ぼした張本人なんだよ。まあなんか操られてたみたいだけど、それでも罪は罪。そしてその罪を僕たち『罪』は見逃せない。それだけさ」


「『罪』?いや、それでも、だ!改心させ、やり直させることだって……」


「五月蠅いなあ。僕たちを邪魔するのって、これも罪だよね?」


 気づけないほどの速さ、それがこいつの能力なのだろうか。

 それがこの男に触れられて、目の前が暗闇に包まれていくときに最後に思ったことであった……。


これでこの章も終わりです

しばらく修正作業をした後、新章に移らさせてもらいます~

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