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77話 『申』

これで十二支も終わり!

 『未』を倒したところで『申』が動き出した。

 どうやら4分経ち、『針縫』から解放されたようだ。

 ここまで『針』と『毒』を使ったが、そこまでの精神力を消費した感じはない。

 消耗は少ない。『申』と闘うのに支障はなさそうだ。


「ありゃ、『未』は消えちまったか。まあいいや」


「お、おい!『未』がいなくても大丈夫なのか?」


 ヴェルツルが不安げに『申』に向かって叫ぶ。

 ちなみにかなり遠い。たぶんすぐに逃げられるように距離をとっているのだろう。

 部下にすべてを任せ、自分は逃げて生き残るってことか?

 ……せめて闘う姿勢くらいは見せろよ。


「大丈夫大丈夫。さっきのであいつの力量も分かったしな」


「……それなら良いのだ」


 そう言ってヴェルツルは少し近づいてくる。

 まさか戦況により前進後退するわけじゃないよな?




「今度は時間制限を気にしないでいいから、全力を出してくれよ?」


 『申』はそう言うが、さっきまでだって全力出してたんだよな。

 能力は出し惜しみしたんじゃなくて、『毒』くらいしか効きそうになかったから使わなかった。

 だけど今闘う『申』に対しては今度こそ出し惜しみなく能力をフルに使ってやる。


「俺の能力は分かったら言ってみな。正解だったら教えてやるよ!」


 『申』はそう言うと、足元の石を拾い投げてきた。


「そいつは親切なことで!」


 剣で石を打ち落としながら答える。

 石は正確に俺の眉間、喉、鳩尾と急所を狙ってくるが、正確であるがゆえにまっすぐ剣を振り下ろすことで容易に打ち落とせた。


 次に『申』は右手に細長い瓦礫、左手に木の枝を持ち接近戦を仕掛けてきた。

 俺の剣を瓦礫で受け、木の枝で目や喉など柔らかい部位を狙ってくる。

 瓦礫を防ぐのに精いっぱいで木の枝はかろうじて避けているが、それもいつまでもつだろうか。

 『申』は純粋に強いのだ。騎士などの闘いそのものに礼儀を重んじるような闘い方ではない。勝てればいいという闘い方だ。だから、何でもやってくる。どんな汚い闘い方でも。


「っ⁉」


 右足に痛みがあり、見るといつのまにか『申』に踏まれていた。それもただ踏まれたわけではない。靴に鉄でも仕込まれていたのだろう、骨が砕けているような痛みだ。

 

「痛いか?痛いだろう!まずは足を封じた。次は手だ」


 『申』の口から何かが飛んでくる。同時に瓦礫も飛んできたのでそれを受け止めている間に針が右手に刺さってしまった。

 チクリという痛みと、ピリッとした感覚が手から伝わる。

 

「手も封じたら、その腕ごともらってやるぜ!」


 木の枝が振り下ろされる。

 右腕は動かないため左腕一本で剣を持っている。

だから振り下ろされた木の枝を無理やり右腕を動かして受け止める。

 木の枝だ。目に突かれればそれなりに傷を負うが、剣のような切れ味はない。


「俺はすでに能力を使ってるんだぜ?気づいているか?」


 振り下ろされる枝。先は鋭く尖っており、柔らかい枝らしく,しなった先の速度は『申』の手元から伝わる速度は先端の速度を何倍にも変えている。

 だが所詮は木の枝、そう思ってはいけなかった。

 木の枝が俺の腕に当たる直前、木の枝の速度と質は変わった。

 木の枝はより速く、より硬くなったのだ。さらにあろうことか、腕に当たる面、下面の形が変化し、まるで剣のような形へとなった。

 剣となった木の枝を受けた俺の右腕は当たり前のように斬り落とされる。


「ぐっ⁉」


 すぐに『死海復燃』で再生するが、精神力をあまり無駄には使えない。

 フォルへの供給しかり、この後、ヴェルツルがまだ何か仕掛けてくる可能性を考えてだ。

 そして、今の攻防から察するに『申』の能力は……。


「武器の強化か?お前の能力は」


 木の枝で腕を斬るなんて芸当、明らかに能力を使わなきゃできないはずだ。

 武器の強化、あるいは武器そのものを別のものへと変える能力だと考えられる。

 ちなみに一応だが、『申』という名前がこの考えを後押ししている。

 『申』とはつまり猿。最も人間に近いと言われる動物である。

 そして人間の祖先。つまりは猿が進化して人間になったと言われている。

 この進化、という言葉。これが能力ではないだろうか?

 木の枝を進化させて金属にしたと俺は考えたんだが、答えはどうなのだろう。


「ほお?まあ遠からず近からずだが良いだろう、教えてやるよ。俺の能力はこの器用さだ。石を投げたときに寸分たがわずお前の急所目掛けたのも、瓦礫と木の枝を同時に扱えたのも、口から針を出したのもな!すべての武器を最良にして最高に扱う。木の枝も俺が使えば剣に負けないほどの質になる。石も硬度は鉄並み、針はより鋭く刺さりやすく。純粋な戦いにおいて俺の能力の右に出る者はいねえ!」


 武器を強化してその武器を上手く扱えるってことか?

 それなら、


「それなら大したことないな」


「あん?」


「だってそうだろ?そもそも敵の武器に当たらないようにするのは当然だし、お前がいくら武器の扱いに長けているって言ってもせいぜい同時に使えるのは二つだ。性能が良い武器を二つ扱えるやつなんてそこらにいくらでもいる。要はお前はそこそこ強いやつってことだ」


 俺が漢字、または保漢者を相手にするときに気を付けなくてはいけないのは能力に場を支配されることだ。

 『毒』のときは毒と溶解毒を使われ、味方が全滅しかけた。俺の攻撃も通用しなかった。

 『鬼』は大量の鬼と突出した鬼に圧倒されかけた。

 十二支もそうだ。『子』は常に攻撃を先制することで俺たちの攻撃を封じた。

 『卯』は俺たちを分断し、闘わされた。あの場に闘えない者がいたら危なかっただろう。

 『辰』も『巳』も攻撃を受けない、されても再生するという能力はああいう形でなかったら苦戦していたであろう。

 先ほど倒した『未』もそうだ。打撃も斬撃も無効化する相手に打撃と斬撃しかできない者が挑んだら負けるだろう。

 皆、何かしらの能力があり、それを頼って闘っている。それが無ければ闘えないほどに。

 

 だが、この『申』の能力は万能だ。

 どんな状況でも闘えるであろう能力であるが、対応できる能力であるがゆえに、決して固有の闘い方ができないのだ。

 木の枝を剣のように強くしてそれを上手く扱える能力?そんなもの剣で闘ってなおかつ剣を上手く扱えるやつらと同じじゃないか。


「……ちっ!だから何だって言うんだよ!そのそこそこ強いやつにお前は守るのに必死だったじゃねえか!」


「ああ、さっきまではな。お前の能力が分からないから下手に攻撃できなかったんだ。だが、今からは違う」


 漢字の能力を使った闘いは固有の能力を使った闘い。

 万能は固有にその分野では勝つことはできない。


 『申』は両手に木の枝を持つ。すでにその輝きは鉄以上。おそらく触れれば斬れるのであろう。

 だが、俺の剣と打ち合っただけで木の枝はあっさりと溶かされ崩れ落ちていく。

 溶解毒、本当に便利な能力だ。敵の武器に腐食耐性が無ければ溶かしていく。


 武器を封じる溶解毒、止めにもなる『毒』。

 動きを封じられる『針』。

 敵が強いほどその強さを奪う『鼠』。


 俺の固有の能力は集団戦でも対人でも闘える上では万能なのかもしれない。

 だが、それは固有を集めて万能に見せているだけであって、できないこともたくさんある。

 魔法はろくに使えない、圧倒的な力で抑えられれば何もできない、さらには一人で闘ったことなどほとんどない。仲間と闘って、仲間に頼ってここまで生き残ってきた。


「一人で万能になる必要はない。特化した能力を集めて万能になればいいんだよ」


 ハド爺が『竜』を倒し、『未』を倒せなかったように、俺は『未』を倒せるが『竜』なんて一生勝てないかもしれない。

 だが、それでいいんだろう。仲間が勝てない敵に自分が挑み、自分が勝てない敵は仲間に闘ってもらえば。


「お前は十二支という仲間がいるんだ。固有の能力を持った仲間が。それですべての武器を使えるなんて能力に意味あるのか?」


 ネズミを使ったもの、魔法を使ったもの、己の身体を使ったもの、剣を使ったものなど十二支には様々な武器を使うものがいた。だが、誰一人としていくつもの武器を使うものなんていなかった。


「うるせえ!」


 『申』はそう言うと口から針を飛ばす。

 その針は俺への右腕へと当たると、おそらく何かしらの液体を塗っていたのであろう、その液体が俺の体内へと入っていく。


「今度はさっきまでの麻痺毒じゃねえ。体内に入ったが最後、大型の生き物でさえ殺す猛毒だ!うざってえ事言ってたがとっとと死にやがれ」


 猛毒が俺の体内を巡り、身体から力が抜ける――そのときに俺の能力が発動する。

 『解毒』――『肝』の能力であるそれはあらゆる毒を解除する。


「悪いが、俺に毒は効かない。動きを止めるような毒ならまだしも、死ぬような毒はな」


 俺は溶解毒をまとったまま剣を振り下ろし、防ごうとした木の枝ごと『申』を溶かし叩き切った。


あと一話でこの章も終わりです

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