76話 『未』
どうやったら話を長く書けるんだろう
やっぱし描写かな
身体から少し力が抜けていくのを感じる。
フォルが闘い始めたようだ。
フォルの分裂は俺の精神力を使う。フォルは俺が支持しないと自分からは分裂しない。恐らくだが、俺から力を奪っていることにためらいを持っているのだろう。
だが、俺の闘い方はそこまで精神力を使うものはない。
剣がメインであり、漢字の能力は補助的な役割が多いからだ。
だからフォル、思う存分闘ってくれ。
そう心の中でフォルを応援した。
俺とフォルは『鼠』を通して繋がっている。きっと伝わったはずだ。
気を取り直して剣を構える。
右手に剣を持たせ、左手は空かせ、半身になり敵に向く。
敵は五芒星の一人のヴェルツルとそれを守るように十二支が二人。ヴェルツルは『竜』がいなくなった今、脅威ではないだろう。十二支は五芒星と呼ばれる者たちほどではないらしいが、油断はできない。
ヴェルツルが後ろに下がり、代わりに十二支たちが前へと出てくる。
「私は十二支が八人目、『未』である。能力は先ほど、そこの老人の攻撃を受けたのを見ただろう?私の身体はすべての衝撃を吸収する」
太った男――『未』は名乗り、能力すらも明かす。
自分の力に絶対の自信があるのか、それともそれが闘いの礼儀だとでも言うのか……。
「俺は十二支が九人目の『申』だ!そっちのかたっ苦しい『未』と違って能力は言わねえぜ?自分で見極めろや」
素手の男――『申』が名乗る。こちらは能力を明かさなかったが、これが普通だろう。
そしてこいつの言うことが本当なら『未』は闘いの礼儀を重んじているようなやつか。
しかし、十二支か。元いた世界での十二支と同じなら十二いるはずだ。
『子』『卯』『辰』『巳』『未』『申』はこれで確認できた。
『丑』『寅』『午』『酉』『戌』『亥』は見てはいない。半分はまだどこにいるのか不明なのだ。
「安心しろ。十二支はここにいる私たち三人で最後だ。他は貴様の仲間が倒し攻略している」
と、闘う前に『未』が教えてくれた。
「おい、『未』よ!なぜそやつに教えてしまうのだ!」
「お言葉ですが王よ。私はあの者と全力で闘いたいのです。まだ敵が残っているかもしれない、そう警戒して闘われても私は嬉しくない」
そうヴェルツルに『未』は言うが、それは逆効果であったようだ。
「貴様、それが王に向けて言うことか!闘いを楽しむのは勝つことが分かっているから楽しめるのだ。今の状況で敵に全力を出させるようなことをしてどうする!」
「いいから黙っとけよ」
そこで『申』がヴェルツルと『未』の会話に入る。
「いいじゃねえかよ、俺は『未』が言ってることが分かるぜ。勝ちゃいいんだろ?勝ちゃあ」
『申』は『未』に加勢しつつ、勝つということを前提におくことでヴェルツルの怒りを和らげた。
「む、勝つ算段があるのか?」
「おう!『未』が許せば俺は二人がかりでいくつもりだ。こいつの能力と俺の力があれば勝てるだろうよ」
「そうか、ならば勝て!あやつらの心を折って俺の新たな奴隷とさせよ!」
「「はっ!」」
そこでようやくヴェルツルは十二支二人に闘いを任せるつもりになったようだ。
「待たせたな。悪いが二人でいかせてもらうぞ」
……俺はいつも二人で一人の敵と闘うことが多かったからな。こうやって一人で複数の敵と闘うことはあまりない。
そして今回も、だ。
「悪いが『申』、お前には少しそこで大人しくしててもらうぞ」
俺とて負けるつもりはない。できることなら一対一で闘いたいのだ。
敵同士の会話をただ黙って見ていたわけではない。
「うぉっ!」
空いていた俺の左手にはいつの間に10㎝ほどの針が四本、指の間に挟まっていた。
それを『申』の足元に向けて投擲した。
『申』は反応できていなかったわけではないだろう。
ただ当たらないから、足元に向けたものだと分かっていたから避けずにその場に立っていた。
だがそれは間違いだ。足元に向けたのはそれが俺の新たな能力の発動条件であるからだ。
「『針縫』
「すまん、『未』」
「どうしたのだ?」
「う、動けねえ……」
『申』の足が地面と張り付いたかのごとく動くことは叶わなかった。
それが『針縫』の能力。針が貫いた対象を縫い付ける。
本来は何でも縫い付けることはできるのだが、針が短すぎるため貫けるものが少ない。
こうして地面と影を縫い付けるのだ主な使い道となるだろう。
ともあれ、これで『未』と一対一で闘うことができる。
こいつならそこまで恐ろしくない。
なぜならば、
「なるほど、防御しかできない私なら倒しやすいと踏んだのだろう」
縫い付けられる時間は針1本につき1分。
『未』を4分で倒さなければならないのだが、俺の考えではそれで十分のはずだ。
「だが、私がそこの『申』よりも弱いと思われていたなら、それは大きな間違いだ!」
『未』は腰から剣を抜く。細身の剣で、速度を重視しているようだが……この見た目で細身の剣か。何でさっきからこいつは見た目と違うことばかりしているんだろうな。
せめて鎧を着こめよ。まあその身体が打撃を無効化するなら邪魔になるって分かるけどさ。
見た目とは俊敏な動きで『未』は斬りかかってくる……と思いきや、見た目通りの、いや見た目以上の鈍足でドタドタと走りながら斬りかかってくる。
細身であるから俺の剣で受け止めることは可能だ。軽いゆえに速度と軌道の変更がしやすいのでそこに気をつければ良い。
だが、軽いということは弾きやすいということだ。
『未』の剣を弾き飛ばす。
あまり剣術はできていないのかタイミングを合わせれば楽に弾き飛ばすことができた。
『未』の身体を袈裟斬りにする。が、手ごたえは全くというほどなかった。
「打撃は無効化されるから斬撃で挑めば勝てるとでも思ったか?」
そこに立っていたのは傷一つない『未』。
「私の能力は打撃の無効化ではない。衝撃の無効化だ。斬撃もその衝撃を無効化すれば剣が触れただけなのと同様。どうやら浅い索であったようだな」
なるほど。確かにこちらの斬る、殴るが効かないなら攻撃手段は限られてしまうな。
それから何回か同じやり取りをして分かったことがある。
こいつは自分の能力に絶対の自信があるのか、俺の攻撃を避けようとはしない。
だから勝てる。
『申』解放まで残り1分か。
何度目になるか分からないがまたも『未』の剣を弾く。
そして、『未』の顔面目掛け、全力で殴りつけた。
手ごたえはない。だが、構わず拳を押し込む。……嫌だが『未』の歯に当たっても構わずだ。
「今度は私の腹部だけが衝撃無効化を行っているとでも思ったのか?残念ながら私の身体全てが衝撃を無効化する。少しは考えたようだが、貴様はもう終わりだ。気づいているぞ、1分ごとに『申』の足元の針が抜けていくのを」
……気づいていたか。
残り1分ということもこれじゃ分かっているんだろうな。
「なら次は『申』を倒せばいいか」
俺の言葉を受け『未』の顔は怒りに染まる。
「おい、貴様、よもや私を倒したような口ぶりを……」
「ああ、お前はもう倒されたんだよ。気づかないか?お前の口に入った俺の拳から出てきたものを」
「何を言って……ぐはっ」
『未』は吐血し倒れる。
「貴様……毒でも使ったのか」
そう言い残して『未』は光となって消えた。
俺の所有する漢字のうちの一つである『毒』。
『鬼』のときは溶解毒を使ったが、今回は普通に猛毒だ。
さすがに毒に衝撃なんてものはないからな。
「悪いな。だが、お前が二人がかりで闘うなんて言った時点で正々堂々なんてものはなくなったんだよ」
十二支も残り一体!