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70話 『龍』と『竜』と若者

はい、少し遅くなりましたが書きました。

PCがなかったのと、VRMMO書いてみたかったのが言い訳です。

 ある遠い場所にこの世界で最も標高の高いと言われている山があった。

 活火山あるいは死火山でもない。

 休火山に近いのかもしれない。


 その山はそこを支配するある漢字により統治され、穏やかな状態を保たれていた。

 

 その漢字がその山を選んだ理由はただ一つ。

 広いから。

 ただそれだけである。


 なぜ広くなければならなかったのか。

 それはその漢字が普通では考えられないような巨大な生物でもあったからである。


 それは『龍』。そして『龍』に付き従う『竜』である。


 『龍』は胴だけで人ひとりが立った状態と同じ。全長は頭を見るころには尾を見るのができないほど長い。

 『竜』は『龍』ほど大きくはないがそれでも人を丸かじりにできるほどの頭があり、七匹の群れでいた。


 『竜』は『龍』をその強さを称え、慕い、どこまででも付いていった。

 『龍』は『竜』たちを家族同然の思いを寄せ、害なすものを排除する勢いであった。


 そのような人にとっては危険極まりない存在である『龍』と『竜』ではあるが、自分からは、積極的には人を襲うようなことはしなかった。

 人と同じもしくはそれ以上に賢い生き物は平穏に暮らすためには関わらず何もしないことが一番だと知っていた。


 そしてそれは人間も同じ考えであった。少なくともそばの村や集落に住んでいた人間は。

 方々へその山の危険性を伝え、山に住み着いたドラゴンは大人しくさせておけばよいから手は出さないでくれと頼み、人々は神同然に扱った。


 こうしてその山――シダレ山は三大危険地帯へと加えられた。


 三大危険地帯――それは漢字の正体は分かってはいるのだが、手出しができないほど強力な存在であるためにそっとしておこうという人が勝手につけた名称の地域である。


 世界の中心よりも深いと言われている海を泳ぎ回る『鯨』。その巨体は生物上最大で『龍』であっても霞むほどのおおきさであろう。場所も海ということで闘える人間も限られ、力が半減する者もいる。

 世界一広いと言われている草原を我が物顔で走り回るのは『獣』。決まった生物ではないがその数がとにかく多い。時には象が、ときには虎が、はたまた兎や鹿もいる。だがその生物同士では決して争うことはない。そこに迷い込んだ獲物を容赦なく刈り取り、容赦なく貪り食うのである。

 そしてここに加えられたのが『龍』と『竜』が飛び交う山である。大きさは『鯨』ほどではない。数も『獣』以下である。だがその鱗、爪、牙、口から吐かれる炎などどれをとっても凶悪な武器となる。


 だが、それでも強欲な人間は一定数以上存在する。


 ドラゴンが棲みだした山には――当の本人たちはどうでもよいのか知らなかったのかは分からないが――手つかずの鉱石がたんまりと埋まっていたのである。

 それを山の付近の村人に教えられた貴族の者たちは王を唆して兵を送り込んだ。


 所詮漢字である。大勢で攻め入ればひとたまりもないだろう。もちろんこちらにも被害は出るだろうが、それ以上に手に入る鉱石やドラゴンの所有する財宝で十分な穴埋めができる。それどころか一気に勢力が拡大するに違いない。

 そう思い込んだ貴族や王は持ち得る兵の三割を送り込んだ。

 三割だけと見るか、はたまた三割もと見るかはその時の国があまり裕福でなかったこともありこれが精いっぱいであったのであろう。

 被害が出てもこれだけならまだ最小限に抑えられ、それでもかなりの数がいるのでドラゴンの八匹くらいなら倒せるだろう、と。


 しかし漢字であると同時にドラゴンである『龍』と『竜』だ。

 もしただの漢字、あるいはドラゴンであれば十分な戦力であったに違いない。

 

 結果、三割の兵は全滅した。

 それどころか怒り狂った『龍』は近隣の村を襲い始めた。

 

 『龍』は兵を送られたことに怒っているのではない。

 兵たちは奮闘し、善戦した。

 その結果、『竜』七匹すべてが重傷を負うこととなった。

 『竜』が傷つき、『龍』は我を失った。

 自分がついていながら、自分が悪い、だが最初に攻めてきたこいつらも悪い、いいや人間がいるからこの世界がいつまでも平和にならないのではないか、人間がいたら自分たちはいつまでも穏やかな日々を過ごせないのではないか。

 人間を殺す理由などいくらでもあった。

 世界のため、自然のため、自分たちのため、漢字の意志として……。


 三日三晩、暴れまわった『龍』はそのまま山へと戻っていった。

 『竜』はただその間に負傷した部位の治療に専念していた。

 ドラゴンの再生能力は高い。安静にしておけば手足すら生えてくるという。

 やがて疲れた『龍』は『竜』の様子を見て人間を殺すころを一時中断した。


 三日三晩の『龍』が暴れた爪痕は一つの国に取り返しのつかないほどの損害を与えた。

 強者がおらず、数だけがその国の戦力の自慢であったのが悪かった。

 誰もが『龍』の前ではただ怯え、逃げ惑うだけで攻撃しようとする意志すら見せなかったのだ。


 そして数年後、一つの国がその長い歴史の幕を閉じた。

 最後は自滅に近い終わりであったが、王は最後の良心からかほかの国々に自国の国民をそれなりの待遇で受け入れてもらえるよう頼み込んだという。




 

 誰もがあの三日を忘れようとしていた頃、あるパーティーがその山を訪れた。

 五人でありながら誰もが武者修行のために家を、国を飛び出した者ばかりで実力も王道で正道で覇道で邪道であった。


 実力がありながらも周りに認められないのはその性格ゆえか運の悪さゆえか名声はいらないからなのか……そのパーティーは知る人ぞ知るというパーティーであった。


 そしてそのパーティーはドラゴンの棲む山の話を聞き、実力試しに来ていた。


 『龍』は数年ぶりの人間を見てまたか、と思った。

 自分たちがこの山に棲むのはそれほどまでに駄目なのか。

 なればこそ滅ぼしきるほうがよいのであろうか、と。


 『竜』たちがどこに行くのかと尋ねる前に『龍』は飛び出していった。

 また『竜』が怪我をしてしまうことを恐れて。



「我に何用だ。このまま大人しく去るのなら我も追いはせぬ。だが、我に害をなそうとするのなら……我も牙をむこうぞ」


 『龍』は一応は忠告をした。

 もしかすると迷い込んだ人間かもしれない。

 それならば道を教えて帰そうと。


「俺たちはな、闘いを求めて、強くなりたくて住処を自分から無くしたんだ。色んな強いやつと闘って、そのうちここのドラゴンの話を聞いたんだが、お前が国を滅ぼしたってやつか?」


 『龍』はこれを聞き、ほう、と感心するようにその五人組を見た。

 ドラゴンは得てして強い者を好きになる性格が多い。

 それは『龍』とて例外ではない。

 強さを求めるために強い者と闘うなど昔の自分のようではないか。


「よかろう。その心意気に免じて我が貴様らを楽しませてくれよう。決して恐怖を抱くな、怯えを見せるな、足を止めるな、目を背けるな。その時こそが貴様らの最後と思え」


「「「「「おう‼」」」」」


 そして五人と『龍』の闘いが始まった。




 闘いは一日を過ぎても終わることはなかった。

 国を三日三晩で滅ぼそうとしてほどの『龍』の力でも、まだ五人は欠けることなく立っていた。


「貴様ら、人間か?よもや漢字ではないだろうな?」


 大盾を持った大男は常に『龍』の攻撃を真っ先に受け止めていた。

 『龍』の全力の力を持ってしてもわずかに後ろに押せるだけであった。

 『龍』の炎もその大盾で防がれ四散してしまう。


 弓使いの男はいつの間にか目を離すと見失っている。

 男から放たれる矢は『龍』に対して全くといっていいほど傷を負わせることはなかった。

 だが、何本、何十本と受け続けるうちに少しずつ体から力が抜けているように感じ始めた。


 魔法使いの女は属性という属性すべてを操る魔法を使ってきた。

 その姿は『竜』を思い出すほどの見事な魔法である。

 攻撃面でもサポートの面でも『龍』に対しては効果的なものしか行わなかった。


 魔法使いのそばにいる女は味方を回復することに長けていた。

 大盾の男も攻撃を受け続けるうちに少しずつ傷を負い、他の者たちも『龍』の攻撃の余波で少しずつ傷を負っていた。

 だが、その女が何やら能力を使うたびに傷が回復し、体力までもが戻っているようであった。


 そしてその四人を纏めるパーティーリーダである男は攻守ともに『龍』を寄せ付けなかった。

 『龍』が牙を、爪を、尾を、その体躯で持って攻撃するもその男にはまるで通じていなかった。

 通り抜けているようだ、そう錯覚するほどであった。

 それでいて男の指は容易く『龍』の皮膚を突き破り、拳を握れば内部へとダメージを送り込んだ。



 初めてであった。こんな者たちに出会ったのは。

 同時に焦燥感が『龍』にあった。


 負けるかもしれない。

 それは『龍』にとってはどうでもよい。

 だが、このまま闘い続るうちにこの五人のうちの誰かが欠ければそこから崩壊してくだろう。

 『龍』は次第に相手が死ぬことを恐れ始めていた。

 この人間たちはこれからさらに強くなっていくだろう。

 それを見てみたい。

 だが、自分が勝とうが負けようがこの五人のうち誰かは死ぬ。

 

 全員が生きる道は一つしかない。

 すなわち、『龍』が相手の強さに敬意を払い攻略されることである。


 『龍』の漢字としての攻略条件はその強さを示すこと。

 この五人はすでにその条件を満たしていた。

 だが、『龍』はまだ闘い足りないということでまだこの場に存在していた。

 

 もう良いか。これ以上は有益な闘いにはならない。自分にとっても、相手にとっても。


「その強さ、しかと我は理解した。ゆえに貴様らと共に行かせてはくれぬか?貴様らと生かさせてはくれぬか?」


 人間に頼みごとをするなど思いもよらなかった。

 それだけこの者たちに魅了されていた。


 リーダーである男はしばし考えこんだ後、


「ああ。お前は今までで一番強い敵だった。そんなやつが味方になってくれれば頼もしい」


「そして一つ、我が願いを聞いてほしい。決して我が貴様らとともにいることを口外しないでほしいのだ。この山には我以外にもドラゴンがおってな。我がいなくなったら人間がいつまた攻めてくるかわからぬ」


「もちろんだ」


「最後に一つ、貴様の名はなんという?」


「俺はハド。家を捨て、旅をし、闘いを求め、強さを探す人間らしい人間だ」

おそらくうん十年前の話

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