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68話 たとえ遅くとも少しずつでも前へは進める! 後編

能力の説明が難しい……

 怠惰が一歩目を踏み出す、その挙動を見せたとき、ウァルマーは一歩目を走り始めていた。

 誰よりも速く走ることができる、それが『駆』の二つ目の能力である『駆ケヨ駆ケヨ誰ヨリモ』。

 ただ速いのではない、誰よりも速くなる能力だ。敵の速度の応じて自らの速度を上げる能力。どんなに速い人間もこの能力の前には速度で勝ることはできなくなる。

 ゆえに最速、ゆえに最強に近い能力であった。


「ふうん。情報通り速いなあ。でも僕に近づくことでその速さも無意味になるよ」


 ウァルマーが怠惰まであと20mといったところでその速度が落ちた。


「どういうことだ⁉」


 速度は落ちている。だがしかし足を止められたわけではない。止まることはないので進み続ける。

 だが、段々と、増々速度は落ち続ける。


「君は本当に速いねえ。普通の人間ならもう遅すぎて止まっているように見えるくらいなのに。これでようやく今の君は普通の人間と同じ歩みになったくらいだ」


 ウァルマーの今の速度は本来なら音速に迫ろうかという時速1000㎞である。

 しかし今動いているのは常人が歩く程度の速さ。それはおよそ時速にして4㎞。

 250分の1にまで速度を減らされている。


「僕は怠惰だ。そして能力は一定範囲以内の速度の減少。近づけば近づくほど速度は遅くなる。君、これ以上近づくと動けなくなるよ?」


 否、それは正しい説明ではない。

 怠惰の能力は一定範囲以内の体感速度の減少と身体の速度の減少だ。

 いくら高速で動くことができても、思考が高速で動くことを認識していなければ意味がない。時速15㎞で走ることができる人間が実は時速5㎞で走っていても気づかないということである。


 怠惰から20m離れたところでウァルマーの体感速度は250分の1となっている。

 これ以上近づけば常人以下、動きが止まるほどの速度減少が起きるはずだ。


「ならば!さらに速度を上げるのみ!」


 今もって使っていた能力『駆ケヨ駆ケヨ誰ヨリモ』を解除する。

 今までの能力は相手よりも速くなるためだけの能力であった。

 だがこれではこの敵には通用しない。

 ならば純粋な速さに切り替える。


「『千里之足』」


 ウァルマーの速度の質が変わった。

 怠惰に向けてその速度を上げる。現在は音速を超えている。


 『千里之足』は自分の思い通りの速度を得られる能力だ。千里を一瞬で移動もできる。

 どんなに遅い移動もできる。速度調整の能力である。


 ウァルマーは体感速度の減少が起きていることに気づいていなかったが、ここから先の速度に関しては関係はない。

 音速を超えた今、彼の思考速度では制御しきれない速度でもあるからだ。


 怠惰の能力により速度を落とされてもさらに速度を上げることで速度は変わらない。

 しかしその身に受ける衝撃は音速を超えた衝撃である。

 空気との摩擦で身体は削れ、足は限界を迎えるほどの負担がかかっている。


 しかしウァルマーの速度はさらに速くなる。

 現在は音を超え光と等しい速度である。時速にして10億km。

 ここでようやく怠惰の速度減少はウァルマーの速度に追い付けなくなった。


「念のためだ。確実に殺させてもらう」


 ウァルマーはその速度を持って怠惰の後ろに周りこむ。

 怠惰はただ無防備にその首を曝している。

 この首を斬るのは、この状況であれば誰にでも行える簡単な作業。

 ただ、ナイフを首に当て、引けばいい。

 首にナイフを刺してもいい。


「別にね、僕が直接君に攻撃する必要はないんだ」


 そう怠惰は言う。後ろにいるウァルマーを振り返ることもなく。


「君は勘違いしているのか分からないけど、僕に近づくことは僕に勝てることではないよ?むしろ僕に近づくほど僕に負ける条件が整うんだよ」


 ウァルマーは怠惰の首にナイフを当てようとして異変に気付く。


「これは……?」


 ナイフを持つ手が動かなかった。今まで足しか動かしていなかったウァルマーはようやくその能力に気づく。


「うん、僕の能力は何も足の速さを遅くするだけじゃないんだよ。君の行動すべてが遅くなっている。途中から君がその速度で体当たりでもしてきたらどうしようってヒヤヒヤしたよ」


 しかしもうその言葉はウァルマーには届いていなかった。

 現在のウァルマーと怠惰の距離は1mもない。

 怠惰に近づきすぎたことで手の動きどころか、血流、思考も遅くなっていた。


「こ……んな……こと……が……」


 思考が遅くなり、やがて血流が遅くなったことで心臓の動きも鈍くなる。


「……王……よ」


 そして心臓が完全に止まり、思考すらも止まるウァルマー。

 

 最後にその脳裏に映ったのはかつての思い出。

 ウァルマーが最初に王と出会ったときの場面である。


「何だ、腹が減っているのか?ならこれでも食べておけ。俺はさして腹は減っておらん」


 まだ幼く飢えて死にかけていたウァルマーに自らの食べ物を差し出す若き日の王。

 本当に満腹であったのかはわからない。だが、それで自分の命が助かったのは事実である。

 この時からウァルマーは王についていこうと心に誓った。

 決してこの時の恩を忘れぬようにと、どんなときでも裏切ることはしないと。

 



 そしてその忠誠心で生きてきたウァルマーの人生はここに閉じる。

 五芒星で最強であったはずの男はこの闘いにおいて敵を倒すこともなく、敵を消耗させることもなくその生涯を終える。

 敵を負傷すらさせていない点については五芒星の中でこの闘いでは最も役に立たなかったと言ってもいいだろう。


「実を言うとね、7人いるうちの『罪』で僕だけがこの国に来たのは君がいるからなんだ。君の速度に対抗するには『罪』の中でも僕くらい。だから誇ってもいいんだよ、他の『罪』は君と闘うには相性が悪い。僕だけが相性が良すぎたんだ」


 五芒星がそれぞれに特化しているように『罪』にもそれぞれの能力がある。

 ウァルマーの速度に対抗できるのは速度を減少し、直接的な攻撃しかできないウァルマーに触れずとも止めをさせる怠惰のみ。


「きっと僕以外の『罪』なら君も勝てたかもしれないけどね。それじゃ駄目なんだ」


 完全に心臓が止まりすでに死んでいるウァルマーに向け怠惰は言う。


「僕たち『罪』は負けちゃいけない。君がいかに忠誠心で動く偉い人間でも戦争をして迷惑している人はいる。その罪は僕たちには見逃せない。それが僕たち『罪』の存在意義だ」


 それだけ言い、怠惰は目指す。王の元へと。


「面倒くさいけど、王は僕自身が確実に殺さなきゃいけないからね。街全体の人間を少し遅くするか」


 それからしばらく街の時間は緩やかになった。

 だが誰もそのことには気づかない。

 だが、怠惰を見かけた者は怠惰が歩いているのにも関わらず歩いているのではあり得ない速さであったことに驚くだろう。

 しかしこれは怠惰が速いのではない。怠惰以外が遅くされているだけなのだ。





【神の語り】

「誰だこいつは」


「これは漢字の介入ですね~。『罪』と言ってましたから」


「ウァルマーとやらが全く足元にも及ばなかったではないか」


「まあ相性もありますけどね、ウァルマーはその速度を封じられたら何もできないっていう弱点があります。誰よりも速いがゆえに誰よりも他のことができないという人でした」


「『罪』はこのような者たちの集まりなのか?他にも同等の力を持っているのだとしたらこれは……」


「それぞれ主に相手を封じるような能力を持っています。もし全員を相手にするとなると……何もできなくなりそうですね~」


「呑気に言っている場合か!この国に来ているのは怠惰だけなのであろうな?」


「ええ、そもそも『罪』はその能力ゆえに『罪』同士もバラバラにならなければ闘えませんからね。レンガさんたちやアカツメさんたちが五芒星と闘っていて幸運でした。これで怠惰一人だけでも五芒星を相手にできるって判断されたのでしょうね」


「……味方と考えてよいのだろうな?」


「少なくとも王を倒そうという意思はあるので共闘できるんじゃないですかね~。では五芒星も四人が倒れ、残りは王だけです。レンガさんたちのところに再び視点を戻しましょうか」


はい、というわけで怠惰は前に進みました~

どこかのデスデス言っている怠惰担当とは違ってこっちはのんびり屋さんなイメージがあります

余裕があれば男の娘の設定を入れても良かったんですけどね

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