63話 修羅と苦しむ鬼 前編
もはやチンピラと言えば『鬼』になってますが『倍』と『村』もあることをお忘れなく!
まあ『村』とかどうすればいいんだ!って感じですが……
何も考えずに闘っている。こいつは誰かが舵を取らないと上手く闘うことはできないやつだ――『丑』『寅』との戦闘が終わりその後もなぜか自分らを捕まえようとするベム国の兵士との闘いを経てシダはそう思った。
「チンピラ、少しは周りを見ろ。『石』を所有してた兵士はまだしも、『迷』の兵士はあのままじゃ危なかったぞ。俺が『行』でお前を見つけなきゃあのまま迷っていたかもしれない」
『石』を所有する兵士は無尽蔵に石を撃ち出す能力を使ってきたが、シダが盾で耐えている間にチンピラが倒した。
だが、別の兵士の『迷』の能力はチンピラのような戦闘のみにしか力を発揮しない者には相性が悪かった。迷路を創られ、チンピラはシダと分断されしばらく彷徨った。苛立つチンピラの迷路を壊す破壊音が聞こえたシダは当たりをつけて『行』でチンピラの元へ合流し、そのまま迷路の外までへも脱出することができた。
「うるせえ、あのまま迷路を壊していればいつかは外に出れたんだ。あの兵士だってすぐそばにいたじゃねえか」
「……あれは迷路から脱出できたからだろ。どうやら空間を広げて迷路を創っていたようだが、いくら壊してもまた迷路を創られたんじゃないのか」
迷路を無尽蔵に創れるとしてもその外に出てしまえば、新たに創られる前に保漢者を見つけてしまえば何とかなるものであった。まさか脱出されるとは思っていなかったのか兵士は動揺し、シダによりあっけなく気絶させられた。
「それにしてもレンガはどこにいるんだ!」
チンピラは唐突に叫ぶ。シダもそれには同感する。
重なる戦闘が神経をすり減らしているのか余り余裕はない。しかも一人一人がやっかい
だ。休めるときはとことん休んでいるが、それでも数日ここでうろついている。
早くレンガと合流したい。 というか何で自分たちは兵士と闘っているんだ?そんな考
えも頭をよぎるがすぐに掻き消えた。
新たな敵が現れたのだ。それもこれまでとは異なる強敵が。
「貴様らがここらで暴れているという異国の者か?なぜ暴れているか、それはどうでもいい。敵足りえる強さは持っているようだな。俺はジェド、お前らに闘いを挑ませてもらう」
五芒星のジェド――チンピラやシダは知らないが、レンガたちをこの国に呼び寄せる敵と言える集団の一人である。
「先ほどレンガがどうとか言っていたな?俺はよく知らぬがその男は俺ら五芒星の王が呼んだらしい。お前らが俺と闘う理由はないというくらい俺にも分かる。だから、こうしよう。俺に勝てればレンガという男のことを教えてやる、と」
ジェドはレンガのことを大して知っているわけではない。だが、王に聞けばいくらでも教えてもらえると思っていた。性別や能力、仲間のことなど詳しく調べているだろうから。
だがここでチンピラとシダは勘違いをした。ジェドも勘違いをしていたのだからしょうがないわけではあるが……。
チンピラとシダはレンガの居場所を聞きたいだけであって、レンガの強さや仲間などどうでもよかった。むしろ直に強さを体験し仲間とも交流している二人のほうがよく知っているだろう。だが、それに気づくほどにはチンピラもシダも元気というわけでもなかった。
「面白れぇ、俺の力見せてやるよ」
「チンピラ、あまり前に出すぎるなよ。まずは相手の能力を知ることからだ」
両手で斧を持つチンピラ、盾を片手剣を持つシダは拳を構えるジェドに向け己が得物を向けた。
「……結局闘うことには変わらないのか」
レンガたちは見つけたが、何やら急いでいるようであった。そしてレンガたちにもジェドは闘いを挑もうとしていた。目的を一応は果たしたチンピラたちが次にやることはただ一つ。この男の意識をレンガたちに向けさせないことだろう。
「俺は構わねえぜ。このまま力比べといきたいところだ」
力比べとチンピラは言ったが、実際はチンピラが振り回す斧はすべてジェドに避けられている。
ジェドが拳を構えているのを見てチンピラは最初は楽だと考えた。相手は自分の攻撃を防ぐ術はないのだ。一撃、当ててしまえば勝てると考えた。
その当てれば勝てる一撃は未だ一度も当たらなかった。
ジェドの拳は恐ろしいものである。一度チンピラに向け放たれた拳は何とか避けることはできたが掠っただけで鎧を一部壊された。チンピラは能力ゆえに前に出て相手の攻撃を受け相手を攻撃することが多い。そのため金属鎧を身に着ける。金属鎧と拳、どちらが硬いかは普通は前者であろう。だが、ジェドは拳で金属鎧を殴ったことをまるで何でもないというふうであった。チンピラの力でさえ少しは痛がる素振りを見せるというのに。
そしてジェドの拳以上にチンピラたちを追い詰めているもの、それはジェドの足であった。単純に速いわけではない。足が速いのはまた別の五芒星である。
ジェドの闘う様をレンガが見たらボクシングだとでも言うだろうか。相手の攻撃をフットワークで避け、懐に入り拳を放つ。すべて避けている時点でボクシング以上のものではあるが。
「チンピラ、あの『倍化』とか『鬼化』とかいうやつは使えないのか?」
シダが言う。あの力を使わないとチンピラが一撃でやられてしまう。今は何とか避けたりその辺の家を壊した端材で防いでいる。だがそれもいつまで持つか。端材は段々と壊されなくなっていく。
無論シダもただ見ているわけにもいかなかった。だがまず最初の一撃をシダが防いだときにはシダの盾はなくなってしまっていたのだ。ただの一撃、それでシダの盾は壊された。
「もうとっくに使っている!」
よく見ればチンピラは最初よりも大きくなっていた。そのことに気づかないほどシダは視野が狭まり敵のことしか考えなくなっていた。
「(何が何も考えずにだ、前に出すぎるなだ。俺のほうが駄目じゃないか)」
チンピラは常にジェドに張り付き闘っていた。それはシダが盾を失い防御性に欠けたため自分のほうがまだ防げるかもしれないと思ったからだろう。
「俺の拳は硬く握るほど、同じ相手を殴るほど強くなる。出し惜しむなよ、そんなことをすると死ぬぞ」
「ちくしょお、『鬼化』!」
チンピラは再度『鬼化』を使う。それは今までの姿と違っていた。
今までその身に宿していた鬼はレンガたちが雑魚と呼んでいた普通の鬼だ。人よりも強いが冒険者にはまとめて倒されていた。
だが今の姿は違う。これはチンピラが倒した鬼、ザンガを宿す。
「これはやりだぐはながったんだぁ。かなりぃ頭が働がなくなっぢまうがらなあ」
かつての脅威の再生能力を持っていたザンガはしゃべり方がおかしかった。今のチンピラはザンガの影響により少し口調が乱れる。
「少し強くなったか?だが思考は放棄されたか」
ジェドはチンピラの姿を見て、だが冷静に分析をする。
「うぐらぁぁぁうらぁ」
思考を完全に制御できなくなりただ鬼に飲まれてしまうチンピラを少し悲しそうにジェドは拳を構える。
「『堅拳』」
強く握った拳はチンピラの頭を完全に吹き飛ばした。
「チンピラ⁉」
チンピラはゆっくりとその巨体を倒す。
「次は貴様の番か」
「くそっ。チンピラ、敵はとってやるからな」
盾を失い、片手剣のみをシダは構える。だが、シダの方を向いたジェドの肩を掴む手があった。
「危ねえじゃねえか。危うく死んじまうとこだったぞ」
そう言って掴んだ肩をチンピラは思いっきり振り回し投げた。
頭を吹き飛ばされる、それでもザンガは再生する。ザンガの力は完全に再生しなくなるまで殺し続けなければならないのだ。
「だがこれで『鬼化』も解けちまったな」
「チンピラ……良かった、生きてたか。だが、すっかり化け物みたいになっちまったな」
「はっ‼化け物上等だ。だがまずはあっちの化け物を倒さなきゃいけないぜ?」
当たらない化け物、当たれば即死の化け物である。二人に遠距離攻撃ができればまだ良かったのだが生憎とそんな手段はない。
「俺に考えがあるが……チンピラ、痛いのは平気か?」
「……?さっき頭吹き飛ばされたんだぜ。今更痛みなんか気にしてられねえよ」
「そうか。なら勝つ力をお前にやる。だが、一分だけだ。一分だけの力でなおかつその一分は激痛が全身に走る。それでもいいか?」
「構わねえ!あるなら俺に力をくれよ!」
「……恨むなよ。『苦行ガアッテ修行ノ成果トナス』」
シダが『行』の二つ目の能力を使う。
シダは自分には力がないことを痛感していた。パーティー内であってもシダはただ囮として敵を引き付け、止めはサクヤが行っている。周りはそれでいいと言っていた。だがそれでは駄目なのだ。リーダーとして、男として強くならなければならなかった。
『苦行ガアッテ修行ノ成果トナス』は一分間の激痛の中、その者が将来得るであろう能力を前借りする能力だ。例えば魔法を将来も使えない者はこの能力でも魔法は使えるようにはならない。だが、魔法を使える者ならば魔法を一分間だけ極められる……ただし激痛の中で。
チンピラが得た力は鬼の力。
鬼を率いるは鬼の族長である。
何よりも戦闘を好み、父親を目指した鬼。
武器を自在に身体から出し操った鬼。
「『百鬼夜行』」
合計100匹の鬼が召喚される。
そして召喚された鬼はただの鬼だけではない。あの三匹も、あの元族長も、そして族長ですらも。
幾百の鬼を従わせ自身も強くあろうとし、三匹の強大な鬼を配下にしていた鬼――ブラハをチンピラはその身に宿らせた。
ではこの話も次回で決着を~