61話 崩れぬ悪意と固める決意 前編
うおお、寝る前に投稿しようと思ったらブクマ増えてた
これは嬉しいぞぉ
スルドの三騎士――その三人はそれぞれ闘い方、得意とする相手は異なる。若くして三騎士となったとある10代の騎士は個人との1対1を得意とし、老練の騎士は軍を相手にするときにその真価を発揮する。
そしてイチイの最も得意とする相手、それは大型の魔物や城といった大きな一個であった。だが、現在の相手は人間である。イチイも騎士として一般人相手に遅れをとることはないが相手は国を挙げて探していた犯罪者だ。そう易々と勝てる相手ではない。
「その硬え体も何時までだろうな!ヒャハハ」
加えてインフォルトの武器である鞭はインフォルトの能力である『崩化』によって触れるものすべてを崩していく武器となっている。イチイとイチイの剣は『凝固』で何とか崩されずにすんでいるが、周りの家や地面は触れる先から原子を崩され分解されていっている。
「だが私も三騎士の一人として剣を持った闘いは負けられない。大人しく捕縛されてもらう」
イチイの目的はあくまでインフォルトを捕まえることであって殺すことではない。騎士として犯罪者を殺す権限は持ってはいるのだが、国に連れて帰り更生をさせる、もしくは被害者遺族の前で謝罪をさせるべきであるとイチイは考えているのだ。
「それにすでにその鞭の軌道も読み切った。あの将来有望な若手ならもっと早く読み切れたかもしれんが、私ではこんなにかかってしまうのだな」
イチイはインフォルトの飛ばす鞭を避け、インフォルトの懐へと入る。インフォルトは慌てて鞭を戻すが、本来鞭は近距離よりも中距離用として使うほうが向いている。近寄られすぎるとよほど上手く扱わなければ自分にも当たってしまう。
「悪いが手足の一本くらいは覚悟してもらうぞ。それが貴様が今まで傷つけてきた者たちへからの最初の報復だ」
イチイは胴への攻撃は致命傷になるかと思い、鞭を持つ方の腕を狙う。腕であれば適切な処置をすれば出血多量で死ぬということもない。いざとなれば『固』で血を固めるなりなんなりしてしまえばいいはずだ。
「ぬんっ!」
正しく剣を振りかぶり正しく剣を振り下ろす。その剣の角度は地面と真っすぐ垂直であり、わずかな乱れもなかった。もしこれを素人がやろうとしたら何千回やればいいのか、そのような剣筋であった。
振り下ろされる剣を感じ、これは斬れたとイチイは感じた。そして腕に当たる瞬間もわずかな乱れもないように力を込めるということをせずただ振り下ろす。
「ヒャハ、甘えんだよ」
腕に当たる瞬間、インフォルトの能力が発動する。剣はインフォルトの腕に確かに当たった。だが、斬れることはなかった。剣は当たると同時にぐにゃりと曲がりインフォルトの腕に巻き付く。それはインフォルトの武器である鞭と同じ動きのようだ。
イチイはすぐさま巻き付いている剣を引き離し、インフォルトから距離を取る。
「俺の鞭を避けるやつなんざたくさんいたぜ。あの国兵士どもや冒険者ども、他にも貴族にもいたなあ。だが、それで自信満々に俺の鞭を避けて斬ったときのあの油断した顔。そして斬った感触に違和感を覚えた顔。最後の訳が分からないまま崩されていった顔。どれも俺の飯を上手くさせるには十分だったぜ」
インフォルトに殺されたものはおそらく文字通り塵一つ残さず崩されるのだろう。
死体が残らないためインフォルトが一体何人殺したのかは分からない。だが、その口ぶりから数人やそこいらでは利かない数が犠牲となっているはずだ。
そして死んだ者よりも現在のイチイの戦闘状況であるが、インフォルトは新たな能力を使用したと見ていいだろう。剣は『凝固』によってかろうじて『崩化』の影響を受けなかったが、新たな能力を加えられるとさすがに保てなくなってしまったようだ。
「……私の剣は今確かに曲がった。現に今もこの通り、剣の形を成していない。刃が柔らかくなってしまっている。それも貴様の能力だな?」
「そうだぜ!どうせ分かっても防げやしねえのは『崩』と同じだから教えてやろう。俺のもう一つの漢字、それは『軟』だ。その能力の『軟化』は俺に触れたすべてをその剣みたく柔らかぁ~くしちまうのさ」
『崩』と『軟』、攻撃と防御をそれぞれ担当するこの二つの漢字は、両方が攻撃と防御のそれぞれで奇異な能力だ。
防御力を無視できる『崩』は相手の構造から分解して崩す『崩化』を使え、
攻撃力を無視できる『軟』は相手からの攻撃するものそのものを柔らかくする『軟化』を使う。
いずれも己の攻撃力や防御力を上昇させる類の能力ではない。奇異で異質な能力だ。
「俺の『軟化』は鞭に使うことはできないからこうして自分の身体に使って敵の攻撃に備えるだけになっちまってるが、それでも効果は最高よ。俺の最も闘いやすいやつがどんなやつか知ってるか?そうやって剣しか脳のない無様な騎士だよ。お前らは剣を使えなくなれば後は何もできない役立たずだからよ」
インフォルトの言う通り、イチイは剣以外の武器をほとんど使えない。素人よりは幾分かマシという程度であろう。
だが、言われっぱなしというわけにもいかない。特に、騎士を侮辱するこの若者には、躾が必要だ。
「騎士へのその暴言、撤回してもらおうか」
インフォルトが二つ目の漢字を使ったのだ。イチイもさらなる能力を使わなければなるまい。イチイは騎士道精神から相手が漢字を一つ使うなら自分も一つで勝とうと考えていた。だが、相手が二つ目を使ってきたなら話は別だ。
「私の二つ目の漢字である『断』、そして能力は『断絶』。この剣を受け止められるか?インフォルト!」
『断絶』――この能力は斬る威力の底上げである。だが、斬るという行為に対してのみに限定される能力であるこの『断絶』はたとえ相手がどのようなものであろうとも斬るという形をとっていれば何でも斬れる。
「むんっ!」
イチイの剣はすでに曲がっていてインフォルトを斬れそうにはない。だが、『断絶』がある今ならたとえ剣が曲がっていようと柔らかかろうと斬ることはできる。
イチイの剣はインフォルトの腕を通過した。そしてインフォルトの腕は地面へと落ちた。
「ぎ、ぎぃゃぁぁぁぁぁ⁉」
インフォルトの悲鳴が響き渡る。
「今まで殺してきた者たちの苦しみが少しでもわかったか?降参するんだ、すぐにでも腕の止血をしてやる」
もはや闘う気力すら残ってはいまい、とインフォルトに近づくイチイ。だが、やがてインフォルトの様子が痛みによる恐怖ではないことに気づく。
「イーヒッヒッヒ。ギヒヒヒヒ」
やがて悲鳴であったはずの声は笑い声へと変わっていく。
「気が触れたか」
イチイはその様子から痛みにより頭がおかしくなったと判断した。たまに見かけるのだが、まさか目の前の元から頭がおかしくなっていそうであった犯罪者がそうなるとは。
「いやいや、俺は最初からまともだよ。いや、まともだったら国から追い出されないか?それとも国がおかしいのか……。まあどっちでもいいや。騎士さんよぉ、俺の腕を見てみな」
「……?」
イチイは残されたインフォルトの腕を見るが特段変わった様子はない。斬り落としたのは右腕であったので、今残っているのは左腕だ。
「ああ、そっちじゃねえよ。あんたに見てほしいのはそっちの俺の右腕だ」
イチイは地面に落ちている右腕を見る。もちろん、相手が視線を外させようとしている可能性もあるので最低限の横目ではあるが。だが、それでもその異変はわかった、わかってしまった。
「なに…⁉」
インフォルトの右腕は斬り落とされたというのに動いているのだ。斬り落とされたばかりのトカゲの尻尾のごとく、モゾモゾと。やがてその右腕は形を崩し、ドロッと液状になるとインフォルトの右腕があった場所に飛びつき、しばらくすると完全な右腕が出来上がった。
完全に元通りになったインフォルトは続いて身体全体が液状となる。
「『軟』の能力がまさか敵の剣を柔らかくするだけだと思ったか?これが俺の『軟』の真の能力、『軟体粘液』だ」
次回でイチイvsインフォルトの闘いは決着させます(中編なんてやりません。そこまで書く技術は作者にはありませんので)
久しぶりにまともにサブタイトル考えました。十二支のときは楽で良かったですが少し味気ないと思ってました




