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55話 『戌』

すいません、前回ので『戌』と書きたかったのですが、『亥』となってました笑

直したのでもう大丈夫ですが

 ジニアの首筋に『戌』の牙が突き立てられ、その牙が閉じられる。その寸前、『戌』の身体に食い込む別の牙があった。


「ふむ……?」


 一瞬だが、『戌』の動きが止まりその瞬間を逃さず一匹の動物がジニアを攫って行った。

その動物は狼、ジニアの所有する漢字の一つである『狼』が召喚する狼の群れの一匹が『戌』の身体に噛みつき、別の一匹がジニアを安全な場所へ退避させていた。

 ジニアに『狼』を使った感覚はなかった。無意識に使ったのか、はたまた『狼』たるガーが意思を持ってジニアを助けたのかはわからない。だが、事実としてジニアは助かり、辺りにはガーを始めとした狼の群れ20匹ほどががあちこちに召喚された。


「これならどこへ転移しようが、狼があなたを逃がさない‼」


 いかにジニアの死角から攻撃しようとしても何匹かの狼がそれを止めるだろう。地道にだが少しづつ追い詰めれば倒せる、そうジニアは確信する。


「いやはや、どうやら地力が違うようですね……」


「……?」


 地力が違うとはどういうことだろう。『戌』よりも自分が強すぎたゆえの発言だろうか。だがジニア自身これでようやく互角に近くなったこそ思ったが、圧倒的な両者の実力差があるとは思っていなかった。


「こんな狼どもに」


 『戌』が一匹の狼の首元に口が重なるように転移する。


「私が止められるとでも?」


「ギャウンッ」


 狼は気づくがそのときには『戌』にその首を嚙みちぎられる。


「グルラウウ‼」


 ガーが狼たちに指示を送り、2.3匹ほどで固まる。


「誰かが噛まれたら他の狼たちで噛み返して!」


 一匹の狼を『戌』が噛み殺している間に他の狼で噛みつく。だが、『戌』はそのような噛みつきは効かないとばかりに気にせず悠々と狼を殺し、果ては周りの狼も殺しまた転移していく。

 やはり地力の差は存在した。『戌』とジニアの間ではなく、『戌』と狼一匹一匹との間にである。漢字そのものである『戌』と『狼』が生み出した一匹である狼では強さの次元が違う。唯一対抗できそうであるのはガーであるが、そのガーでさえ、目では追えているが身体は付いていけてない。走り出したとたんには別の場所へと転移しているのだ。

 これ以上殺されない、または殺されてもただでは死なないためにどの狼も自分または他の狼の首に注意を払う。だが、それこそ『戌』の策略であった。

みな自分のことしか注意を払わない、だからこそジニアに向けられる注意が減っていた。『戌』はジニアの死角に転移し、再び首に喰らいつく。それに反応できた者はジニアとガーのみ。ジニアは反応こそすれ動くことはできなかった。そしてガーは……。


「ほう、身を挺して主人を守りましたか。その忠犬魂、見事です。いや狼でしたな。その負け犬の姿でも。クックック」


 『戌』に対して噛みついても恐らくその牙は主人を嚙み殺すだろう。最初に主人から離れさせることができたのは相手が驚いてくれたからであって、その噛みつき自体にはダメージはなかった。ならば胴体は狙わない。狙うは、その牙がある口。

そう考えたガ―の行動はジニアを救えた代わりに己の身体を犠牲にした。


「ガー……その足……」


 『戌』の口の中に無理やり己の右前足をねじ込んだガ―はそのままジニアを弾き飛ばした。弾き飛ばされたジニアはもちろん他の狼たちが受け止める。ガーの右前足はそのままちぎられ、根元からは足の代わりに血が流れる。致命傷ではないが、出血多量でこのままでは死に、再び召喚するにはしばらく時間がかかるだろう。

ガーのような動物を召喚する漢字の能力は死なない限りは召喚はいくらでもできるが、死んでしまうと回復するのに時間がかかる。ちなみにフォルは分裂するため全滅しない限りは一匹でも残っていればすぐにでも召喚し直せる。


「どうやらその狼がリーダー各のようですな。そしてその狼が死ねばこの鬱陶しい狼も消える、と」


 『戌』は見せつけるかのようにガーの足をしゃぶり血をすする。

その足はすでに離されているにも関わらず『戌』が足を食らうたびにガーは少しずつ身体を傾け、ついには倒れてしまう。


「ガー‼」


 ジニアは慌てて駆け寄るが、すでにガーは色が薄くなり消えかかっている。流れていた血や『戌』が咥えている足も含めてだ。ジニアは少しでも長く召喚を維持してくれと言うように消えゆくガ―を抱きしめる。

 ガーはグルゥと弱々しく、何かを伝えるようにジニアの耳元で泣く。

 『戌』はニヤニヤと笑うかのように口元を歪め、その様子を見ている。


「他の狼もそろそろ消えるようです。あとは残ったあなたをゆっくりと生きたまま味わうとしましょうかね」


 やはり雑魚は雑魚である。こうして頭を叩いてしまえば、ほらもう動けなくなる。圧勝、そう『戌』は考えたとき、ジニアが立ち上がった。


「ガー、わかったよ。私一人で闘う。だけど、あなたたちも闘う!」


 そこでフッとガーの姿が消え、それに連れられて狼の群れすべてが消えた。

これでこの小娘も終わりだ、そう『戌』は思う。だが、ガー含め狼たちはなにもガーが死んだことで消えたわけではなかった。


「『哀ヲ知ッテ愛ヲ知レ』」


 そうジニアは呟く。

 狼たちが消えそこには狼の形をした煙が残る。いや、煙ではなくこの場合は霊、であろうか。狼の霊はジニアの元へと吸い込まれるように流れていく。すべての霊がジニアに吸い込まれたとき、ジニアの姿は狼のそれに近いものとなっていた。ジニアの頭には狼の耳が、臀部には狼の尻尾が生えている。


「雑魚が雑魚と合体しましたか」

 

先ほどまでの狼の性能をそのままジニアが持ったところでたかが知れている。『戌』の転移にはついていけないだろう。

『戌』はジニアの死角となる後ろ、ではなく真上に転移する。『戌』は重力に逆らうことなくそのままジニアの頭を丸かじりするかのごとく大きく口を開く。

そのままかじられる、ジニアの頭に触れるかどうかまで『戌』が近づいたとき、ジニアはその口を見もせずに横に移動し、避ける。


「避けた……だと⁉」


 『戌』は驚く。身体能力が上がり見てから避けたのならばまだ分かる。だが、今の動作は確実に見ていない。


「嗅覚で私を捕らえたのですか?」


 犬である『戌』は嗅覚に優れている。そして狼も当然のごとく嗅覚は優れている。だが、これまでの狼たちは『戌』を嗅覚で捕らえきれていなかった。だが、今のジニアの嗅覚、身体能力は狼と同等ではない。狼たちの合計、である。


『哀ヲ知ッテ愛ヲ知レ』

 この能力は狼の群れすべてを憑依させる、そういう能力である。ジニアの全ての身体能力は憑依させた狼分だけ上昇する。少なければ上がらず、多ければ大きく上がる能力である。

 

 

 狼は群れで暮らすが、時にははぐれる者もいる。そういう狼は一匹オオカミとなるが、果たしてその狼は群れへの感情は無くしてしまったのだろうか。飽きた、嫌いになった、怖い、波長が合わない……様々あるだろう。中には理由なく出ていく狼もいるかもしれない。そして残された群れも同様の感情なのかもしれない。

だが、仕方なく出ていく、あえて強くなるために出ていく、そういう狼がいてもおかしくはない。そのような狼に託される群れの想い、または狼から群れへの想い。それは愛情以外にはあるまい。

一匹に向けられた愛情を受け止めるのはただ一匹の狼-ジニアである。


「一匹は群れにして群れは一匹……ガー、みんな行くよ!」


 今のジニアはジニアだけではない。その中にはガー含め10匹以上が入っている。


「なるほど。雑魚が集まったというわけですね。いくら雑魚でも集まればそれなりの力を発揮する、と。ですが」


 『戌』は転移を繰り返す。ジニアの真上、真正面、真後ろ、右、左、右左正面真後ろ右斜め前右左斜め後ろ……。

 もはや目で追うことなど不可能。そして嗅覚で追ってもすぐに違う場所へ転移する。

しばらく転移を繰り返し、


「もはやわからないとは思いますが」


 ジニアの足元に喰らいつく。今まで首など急所を狙っていたのがまるで布石であったかのように。

 だが、


「ここ‼」


 ジニアの振るった爪が的確に『戌』の喉を切り裂いた。


「な、なぜ……?」


 致命傷を負ったことで『戌』は光となり消えていった。


「言ったはずだよ。ボクは一人じゃない」


 『哀ヲ知ッテ愛ヲ知レ』は狼を合体させて憑依させる能力ではない。憑依させて狼の能力を合体させる能力である。つまり、狼の意識はジニアの中に生きている。ジニアの耳に、鼻に、目に、爪に……すべてに狼が存在している。誰かが補い群れで分担している。

ゆえにいくら転移を繰り返そうともすべての狼の鼻が『戌』を追っていた。そしてそのうちの一匹が追い付ければ問題はない。すぐさまジニアもそれを感知し反応できる。


 しかし、ジニアも状態が良好とは言えない。ガーが死んではいないとは言えしばらくは回復させないといけない。それが数時間となるか一日となるかはわからないが。


「ご主人様、みんな、今行きます!」


 未だ門に入らずだったジニアもこうしてベムへと入っていく。


少し『戌』が強すぎたかな

そしてそれ倒しちゃうジニアも強すぎた


他の十二支そこまで強くないかも…というか、『戌』はバラバラにさせるだけで非戦闘員の予定でした


ボツ案として、ジニアの能力で『多頭双頭狼』というものがありました。基本的には同じでしたが、吸収した狼の分だけ頭を増やすという不気味な能力になるのでやめました

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