54話 突入と言う名の別れ道
スマホでうったため誤字脱字のオンパレードかもしれません。ありましたらぜひともご報告を。
『辰』と『巳』との別れの次の日、俺たちはベム国の門のそば、壁の外まで来ていた。
「ついに来たか。長かったようで数日だったんだよな、ここまで」
「そうじゃの。儂も良い準備運動となったわい」
ここまで闘ったのは『子』、『卯』、『辰』、『巳』の四人だが、『辰』は残り半分と言っていた。十二支だから十二人いると思ったんだが、順番で言うと『丑』と『寅』か?その二人はどうしたんだろう。順番に来ないとしても誰か、反乱軍の誰かが倒したのだろうか。それほどの強さの人間がいるなら頼もしいことだ。
「ねえねえ、私寝てたからわからないけどもうベム国に着いたの?」
どこからベム国に侵入しようかと思っていたらようやくカルミアが起きてきた。こいつ、昨日はずっと寝てたんだよな。『針』がいる村に入ってからそういえば見てないなと思っていたらずっと馬車で寝ていたらしい。何で誰も起こさないんだよ。
「ええ、ここがベムです。待ちわびていましたよ」
突如、俺たちの前に紳士姿の老人が現れる。来た、ではなく文字通り出現した。
「そして、さようなら」
老人は持っていた杖を地面にトンと突く。その杖から斑模様の魔法陣みたいなものが広がる。
「しまっ⁉みんな、逃げろ‼」
「いいえ、もう遅いです」
魔法陣が光り、俺たちは光に包まれた。そしてその光が消えたとき、その場に残ったのはたったの二人のみであった。
【神視点】
「おや、やはり私の能力は不完全ですね。一人残ってしまうとは」
「ご主人様は……、みんなはどこ‼」
魔法陣が消えた後に残っていたのは老人とジニアであった。
「ご安心を。今のはただの転移系の能力ですので。皆様はベム国のどこかへと転移されました。私にもどこへ行ったのかはわかりませんが。ですがこれで皆様はバラバラになってしまったことでしょう」
バラバラになる、それはレンガたちにとって避けたいことであった。一つの国の中、孤立してしまうことは死と同意である。
「ああ、もう一つ、あなたが安心できることを教えて差し上げましょう。別にベム国すべてに転移したわけではありません。ベム国の中でもこの門を超えた街、ベム国の中心とも言えるこの街の中だけでの転移です」
それが本当ならば確かにジニアにとっては朗報だ。だが、それを教えることでのこの老人のメリットがわからない。
「ええ、不思議でしょう、なぜこんなことを教えられているのか。あなたのお仲間がこの街にいるのと同様、我々の仲間もこの街にいます」
老人はそこで笑顔を見せる。口の端には鋭い歯、犬歯が覗く。
「あなたのお仲間が一人でも我々の仲間の集団の中に転移されたら、どうなるでしょうね?」
「っ⁉そんなこと⁉」
ジニアは頭の中でそんなことは起きないと自分に言い聞かせる。きっと、みんなどこかで合流できる、と。
「まあでもまずはあなたがここから生きてベム国に入れるかどうかですけどね」
老人の姿は突如縮み、次の瞬間には犬となっていた。そして、
「私は十二支の十一人目、『戌』です。この牙はとても鋭い」
ジニアの後ろに転移し、ジニアの首筋にその鋭い牙を突き立てる。
俺とハド爺は同じ場所へと転移されていた。あの老人の魔法陣は転移系の能力だったのか……迂闊だった。ここがどこかはわからない。だが、街道ではあることはわかる。
「みんなと別れてしまった……」
「そうじゃの……じゃが、目指すべき場所は同じじゃ。見えるじゃろ?あの城じゃ」
街の奥には城が建っていた。距離ははっきりとはわからない。だが、これなら街のどこからでも見えそうだ。
「あそこを目指すしかないか」
もしみんながバラバラにされてしまっているのならば俺たちが一番強い組み合わせであるに違いない。ハド爺がいる時点でな。ならば一番に辿りついて俺たちに少しでも有利な状況をつくるとしよう。
「ここ……どこよ。汚すぎ……」
カルミアは街の中……ではなく、街の下、下水道へと転移されていた。光はわずかにどこからか漏れ出る明かりのみ。
たっぷりと寝ていたカルミアにとっては最悪の目覚めとなる、そう思いきや、
「懐かしいわねー。20年だったっけ?こんなところで生活してたのは」
街の中を隠れながら生活をしていたカルミアにとっては下水道など慣れたものであった。
「とりあえずはここから出ないとね」
下水道など、どこの街も同じであろう。そう思いカルミアは地上へと繋がる場所を探す。
だが、かつていた街とは違うところがある、それはここが敵地であるということだ。
アネモネは当初の目的である、反乱軍の集団の中に転移された。だが、当然のごとく突如現れた人間を信用してもらえるはずがない。
「敵か?俺たちは女でも子供でも容赦はしない。もう俺たちにそんな余裕はないんだ」
「だから、話を聞いてくださいまし!」
反乱軍は誰もが殺気立っていた。なぜならば、近いうちについに王国に対し、闘いを挑もうとしていたからだ。
「まあ待てよお前ら」
アネモネを捕らえ、殺しはしなくてもしばらくは縄でしばっておこう、そんな考えを止めたのはある男の言葉であった。
「リーダー!来てたんですか!」
リーダーと呼ばれた男はまだ20代の男であった。それが40歳ほどの男に敬語を使われている。
「この人は大丈夫そうだ。俺が保証する」
「リーダーがそう言うなら……」
「すまないね、俺はここの反乱軍のリーダーをやってるアカツメだ」
反乱軍に協力をしてもらう、その役はアネモネがすることとなった。
サンとルナはとある家に転移された。
「まあまあ、なんて可愛い子達なのかしら!」
「まるで孫ができたようじゃ」
ベム国の中でも外れのほうの裕福な家の老夫婦の家に二人はいる。
この老夫婦、結婚してからは幸せな生活を送っていたが、子供は一向に出来なかった。歳をとり、老後を少し退屈に過ごしていた。年齢のせいか兵士として戦場に赴くこともなく、毎日これといって変化のある生活ではなかった。
今日も変わらず終わるのか、何か生活に刺激はないのかと思っていた矢先に庭が光った。恐る恐る庭を覗くとそこには可愛らしい猫の耳を持った女の子が二人いたのだ。たまに街の子供たちを見て自分らにも子供や孫がいたらなと思っていた夫婦にとっては天からの贈り物だと思った。
どこから来たのかと聞いてもただ兄を捜しているとしか答えないが、どうやらこの腐りかけた国をどうにかしようとしているらしい。だが、こんな子供たちがどうにかできる国ではない。夫婦は必死に子供たちをこの場にいさせるためにまずは作りかけておいた昼食を出す。二人も食欲に負け、テーブルについてしまう。
「さあさ、ご飯ができましたよ」
今日の昼食は妻特製の肉を煮込んだ料理である。前日から煮込むため柔らかくなっている肉のため噛み切らなくても肉はほぐれてゆく。これならば猫の獣人であろう子供たちも喜んでくれるだろう、そう老人は考える。
「うわーい!頂きます!」
「頂きます。……すごくおいしいです!」
どうやら喜んでくれているみたいである。二人が望むならまだまだ料理は出せる。いつまでもここにいてほしい。
それになによりこの二人の子供たちは可愛いだけでなくとても良い子なのだ。
子供たちが兄を捜すため出て行くと行ったときに夫婦が悲しそうな顔をしたのを見て、まだ少しならいれる、そう言ってくれたのだ。
出来るならば養子になってほしい。兄と一緒がいいならば、兄も養子に迎え入れる、そう思うほどに老夫婦は二人を気に入っていた。
イチイは路地裏に転移されていた。そこはスラム街のような場所で道端には貧しく家のない者たちが寝ているような場所であった。
「私としたことが油断するとは……」
恐らくあの中でもハドの次に戦闘経験が長いのがイチイであろう。それなのに敵の存在を感知できず、さらには敵の攻撃を許してしまった。
気の緩みであろうか。その能力ゆえか普段は一人で闘うことが多いイチイには誰かと行動することが滅多にない。大勢の仲間といることで気を張ることを忘れてしまっていた。
「私の責任だ。皆を見つけなくては」
この転移能力がどのようなものなのかはわからない。だが、目指すべきは城であろう。城に着く途中で一人でも多く合流しなくては。そう思いイチイは城を目指す。
さっき見たらブクマ少し増えてました。ありがとうございます。
……ブクマ外さないでね?