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53話 『辰』『巳』その3

ルナが一人で闘ったから今度はサンが一人で闘います

「勝者、ハド殿!」


 気絶による試合続行不可能とイチイは判断を下し、この試合は終了となった。


「では次、サン殿と『辰』殿。前へ出よ」


 サンが槍を、『辰』は素手を広げ構える。そういえば、『巳』も素手であったが、こいつらは武器はないのか?


「始め!」


 開始とともに『辰』がサンに手刀を向ける。サンは『辰』の手刀を槍で受けるが、当然のように、その手刀を弾いても『辰』の手には傷はない。


「あれは……ガラと同じような戦法か」


 ガラか……元鬼族族長だったか。ハド爺は内臓にダメージを与えて倒したようだが、サンにその技術はない。どうするのだろうか。


「次はこっちから行くよ!」


 サンが槍を突きだし、当たる寸前で引き戻し、別の箇所へと当てる。


「フェイントなぞ吾輩には効かぬ」


「じゃあこれなら!『矛ハ誰ノ為二貫キシ』」


 サンが創り出したいくつもの槍が『辰』目掛け飛んでいく。


「ふん、そんなもの効かぬわ!」


 『辰』の全方向から飛んできた槍はことごとく弾かれる。だが、弾いたはずなのに『辰』の耳や口からわずかだが、血が流れる。


「なに⁉」


「やっぱり、身体の中はそこまで硬くないんだね!小さい槍なら口や耳の中にも入るか試してみたんだ」


 なるほど、考えて闘っているんだな。


「ほう、ならちばこうすれば問題ない」


 『辰』は手で耳を塞ぎ、口を閉じ、サンの下へと駆ける。いや、手を使ったらお前も攻撃できないだろ。


「……?蹴るの?」


 ハド爺も手を使うかと思いきや足を使っていた。ならばこちらもそうなのか、とサンは足元を警戒する。


「吾輩はまだ全力ではないぞ」


 口を開いた『辰』を油断したと思ったのか、サンはまたも小さい槍を創り出し飛ばす。


「ガァッ‼」  


 だが、『辰』の口から出たのは言葉ではなく、火であった。


「っ‼『矛ハ誰ノ為二貫キシ』


 サンはとっさに前方に横幅の広い槍を創り出し盾代わりとする。


「防がれたか。だが、貴様の攻撃は吾輩がこうして耳と口を塞いでいるかぎり効かん」


「ううん、違うよ。だって、あなたまだ目を開いてるんだもん!」


 サンの創り出した槍が目を狙う。だが、『辰』目を閉じ、その瞼により槍は防がれる。


「吾輩に攻撃できる場所などない!」


 どうやったかわからないが、いつの間にか鼻の穴も塞がっている。呼吸できているんだろうか。時折口を小さく開いているからその辺は大丈夫なようだ。


「これを待ってたんだ!」


 現在、『辰』は聴覚、視覚、嗅覚を遮断している。だからサンが何をしているかわかっていないだろう。もし目を薄く開いていても視角が狭まっているこの状態ではおそらく見えていない。


「『矛ハ誰ノ為二貫キシ』」


 サンは『辰』の足の下に槍の柄の部分を創り出す。そしてそのまま槍を創り『辰』を空高く打ち出した。


「ぬぉっ」


 落ちるタイミングで再び槍を創りだし、さらに高く打ち上げ、それを繰り返す。

 『辰』がかなりの高さまで打ち上げられたところでサンは槍の生成を止めた。


「う、うおぉぉぉぉっ」


 かなりの高さから落とされた『辰』は傷こそないがその衝撃で内部にダメージがあったようだ。


「どうする?まだやるならまた同じことするけど」


 そう言ってサンはニッコリと太陽のような笑顔をつくった。


「こ、降参だ……」


「勝者、サン殿!」




 漢字故の回復力か、しばらくすると自力で動けるようになった『辰』と試合中に気絶から目覚めた『巳』は素直に負けを認め、『針』は俺たちに任せてくれると言った。


「しかし、どうするのじゃ?儂も倒すのが手っ取り早いと思っておったのじゃがな」


「えー。可哀想だよ」


「私も反対です」


 サンとルナも『針』を殺したくはないらしい。心優しい子に育ってくれてお兄さん嬉しいぞ。


「俺が一人で行ってくる。あんましたくさんいても怖がらせてしまうだけだしな」


「気を付けるのよ」


「ご主人様、せめてボクを……」


 アネモネの注意に頷き、着いていきたそうなジニアは押しとどめる。


「さて、すぐに終わらせたいものだがな」




 他のみんなは家の中に戻らせ、俺一人となる。俺はその場に座り込み、『針』がやってくるのを待つ。先ほどの試合の時はさすがにうるさすぎてどこかへ逃げていたようだ。


「……ギィ」


 ほどなくして『針』はやってきた。俺は慌てずまだ座り続ける。


「ギギギ……ニゲナイデ」


 どうやら俺にこの場を去ってほしくないらしい。


「ギギ……」


 『針』はそのまま俺にすり寄り、膝の上へと昇ってくる。俺の身体に針が触れ、痛みを我慢しようかと覚悟する。だが、針はそのままグニャンと曲がる。


「柔らかくなってる……?」


 どうやら『針』が針の硬さを調節しているみたいで、俺が手を伸ばして触ってみても針は柔らかいままだ。針に触れたときに『針』が一瞬ビクッと驚いたように震えたのは少し可愛いと思ってしまった。

 そのまま針から『針』の身体まで手を伸ばし『針』を撫でてやる。『針』は犬ほどの大きさなので本当にペットを撫でているようだ。しばらく撫でていると『針』は満足したのか飽きてしまったのか俺の膝から降りていく。


「ギィギィ……ナデテクレテ……アリガトウ……」


 『針』は満足そうにお礼を言い、そのまま光となって俺の身体の中へと入って行った。


「ふう……合ってたか」


 ハリネズミはその針ゆえに仲間をつくれないという話もある。だから俺が仲間のように振る舞ってみればどうかと思っていたがやはりこれが正解であったか。


「おめでとうございます!あなたは『針』を所有しました!」


 その声を聞きながら俺は仲間のところへと戻っていく。





「ほう、攻略できたのか。なれば次はベムについての話だな?それはすぐに終わる」


 『辰』は『針』を攻略したことに満足そうに頷き、


「ベムはお主らを完全に敵と見ている。無論、逃げることはせぬほうが良いな。そうなればそちらの国に本当に兵が攻めてくる」


「私が来ているが、それでも話に応じてはくれぬのか?」


 イチイがまだ話し合いの余地はないかと聞くが、『辰』は首を振る。


「無駄であろう。だが、貴様らの力ならあるいは五芒星を倒せるやもしれぬ。それに十二支も残りは半分。そいつらもできればやつの下から解放してやってほしい」


「やつ、とは?」


「五芒星の一人にしてベム国の王、ヴェルツルだ。あやつの所有する漢字はおそらく多くの者を配下にするような漢字だ。確固たる信念があれば効かぬ能力ではあるが、吾輩らのような漢字には効きやすい。それに多くの国民もその漢字に支配されておろう」


「国民すべてが敵ということなのか?」


「いや、確か反乱軍があるという噂を聞く。そいつらを見つけろ。力になってくれるはずだ」


 俺たちと反乱軍でベムを相手にするってわけか。反乱軍にはなるべく国民を抑えてもらいたい。その間に俺たちが一人一人五芒星を相手にするか、王に話をつける。五芒星もその一人がヒシバなら残りは四人のはずだ。それなら勝ち目もあるだろう。


「勝機が見えてきたか?ではそろそろ吾輩たちも行くとしよう」


「そうだな、『辰』よ」


「どこへ行くんだ?」


「言っただろう。吾輩たちは殺そうが倒そうが攻略の方法に違いはないと。吾輩たちは一度貴様らに倒された。ならば満足してここで消えるのみよ」


「爺さんまた闘おうな」


 十二支の中ではおそらくまともであっただろう『辰』と『巳』は笑顔で光となって消えていった。


次話で国に入ります

そしたらポンポンとバトルしてこの章も終わりたい

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