52話 『辰』『巳』その2
区切りまくります
「察していると思うがあの生き物は漢字だ。その正体は『針』、つい最近この村に棲みついたんだが、大きな声を出したり近づくとああやって針で刺される。村の住人も何人かやられてな、今は光魔法を使えるやつが回復させているが、早くあの生き物をどうにかしたいって状況だ」
『針』だからハリネズミみたいなやつになってんのか。大きさは全然違うが……いや、ハリネズミもネズミじゃなくてモグラなんだっけか。まあそんなことは今はどうでもいいか。
「ふむ、では吾輩たちがどうにかしよう。村を困らせる悪は正義を信条とする吾輩が見過ごさない」
「俺は『辰』についていくだけだ」
正義ときたか。今までの十二支とやはり違うようだ。こいつらと何とか話をつけたいところだ。事情を説明すればわかってくれる気がする。
だがひとまずは『針』を優先するか。こいつらもやる気になっているようだし、共闘するとにしよう。
「『針』なんだが、こちらから何かしなければ針を飛ばしてこないのか?」
「そうだな。だが、あちらから近づいてくることはある。そのときは針は飛ばさないが何せあの針を見てしまったらな、みんな逃げ出してしまってるよ」
そりゃあ誰も刺されたくないものな。
「そんなこと聞く必要などなかろう。ようはあの『針』とやらをぶち殺してやればよいのだからな。次は油断するなよ、『巳』」
「わかってるさ」
そう言って『辰』と『巳』は家から出て先ほどの場所まで駆けていく。
いやまだ話終わってないじゃんか。それに殺すというか倒す結論速いだろ。死人は出てないようだし倒す以外の攻略法見つけようぜ。
やつらに追い付くとすでに『針』もその場にいた。『針』は威嚇の声を出しているが、『辰』と『巳』は意に介さない。
「ギィ……アッチイケ……」
「ふん、貴様のような悪を見逃すわけないだろう。どの道貴様の針なぞ吾輩の鱗に傷ひとつつけられぬ。その悪事、死をもって償え」
『辰』はゆっくりと、だが確実に『針』へと近づいている。『針』は全方向ではなく、『辰』に向け針を飛ばしているが『辰』の鱗に弾かれている。
「フハハ。今その息の根を止めてやる」
「いやだから待てって!」
針が途切れたので慌てて『辰』と『針』の間に入る。
「待て、とは?」
「殺す以外の攻略法があるはずだ。こいつだって好きで針を飛ばしているようには見えない。少し待ってくれ」
「どんな攻略をしようとも殺しても同じだろう?吾輩は漢字であるが、そのような違い、気にせんぞ?」
「お前とこいつは違うかもしれないだろ」
「どうしても、と言うなら吾輩たちに力を見せて見よ。そうだな、吾輩と『巳』にそれぞれ一人ずつ挑み両者とも勝てたらこの『針』を殺すのは待ってやろう」
「ああもう、それでいい!」
仲間が追い付いてきたので事情を説明し、誰が闘うか相談する。
「よし俺が決めさせてもらおう。俺はそこの爺さん、『辰』は金髪の獣人の子供だ」
相談している間に『巳』が勝手に決めてしまった。『巳』がハド爺と、『辰』はサンと闘うということか。明らかに見た目で弱そうなやつを選んだんだろう。こちらが待ってくれと言ったから対戦相手を変えろと言いづらい。アネモネやジニアにしなかったのは女だけと闘うとさすがに体裁が悪いからか?
ハド爺は問題ないだろう。俺も騙されたが、見た目と違ってかなり強いからな。だが、サンはどうだろうか。『矛』があるから攻撃はできるだろうが、あの鱗を突破できるだろうか。
「一応、ルールとしては殺しはなしだ。攻撃に殺意を乗せるのはいい。だが、遺恨に残るような闘いにはするな」
「わかっておるわ」
「おう!」
『辰』も『巳』も元から殺し合いをする気はなかったのかすぐに了承する。
「じゃあまずは爺さん、俺たちからやろうぜ」
「うむ」
「では私が審判を務めよう。騎士である私ならどちらに偏ることなく判決を下せると誓えるからな」
イチイの合図の下、ハド爺と『巳』は向き合う。
「始め!」
『巳』は開始とともに地面に伏せた。いきなり降伏か?とも思ったがどうやら違うようだ。そのまま伏せた状態で地面を凄まじい速さで動きまわる。
これは厄介だな。拳を使うハド爺にとって地面を這ってるやつは攻撃しづらいだろう。しかも、伏せることによって急所を隠している。かなり闘いづらいはずだ。
「ふむ、要は地面にいる獣と一緒じゃ。こういうときはこうするんじゃ」
ハド爺は拳を使わない攻撃、つまりは『巳』を蹴り飛ばした。しかも『巳』は伏せていたため顔面に直撃である。
「ついでに『流』で顔にダメージが集中するようにしておいた。これでも治せるのか?」
『巳』はうずくまりしばらく顔を抑えていたが、抑えていた手をどけるとそこには傷のない顔がでてきた。手には顔の皮を持っている。
「このくらい俺には何ともない。さあ、まだ俺は負けてないぞ」
『巳』は再び地面に伏せハド爺のもとへと這い寄っていく。
「同じことを」
ハド爺は再び顔面を蹴る。だが、今度は『巳』はその足をつかんだ。
「同じ手を食らうものかよ。捕まえたぞ」
「ふ、捕まったのはどちらじゃか」
ハド爺は捕まえられた足をそのまま高く蹴り上げる。『巳』は足をつかんでいたためそのまま上体を起こされ、思わず手を放してしまう。だが、むしろ放してしまったその勢いでより上体は起こされる。
「しまっ⁉」
「これで、終いじゃな」
ハド爺は『巳』の顎に拳を当てる。拳を当てられ『流』の力を使われたのだろう、そのまま『巳』は気絶し、そこで試合は終了となった。
次で『辰』『巳』は終わらせたいです。