50話 『卯』
やはり今日はクリぼっちでしたよ…
もしかすると今年最後の投稿かもしれないです。
今週は実家に帰るし、冬コミもあるので。
時間があればスマホでポチポチうつかもしれないですが
「む?少し馬車を止めるぞ」
現在、馬車の手綱を操っているのはイチイである。ハド爺はまだ怪我のため安静にさせ、俺とアネモネが最初は操っていたのだが、まだ慣れない手つきであったため、イチイに交代してもらったのだ。俺とアネモネは後ろのほうでその手綱さばきを勉強中である。
「どうしたんだ?」
「あそこを見てくれ。人が倒れている」
道沿いにはイチイの言う通り人が倒れていた。よく見ると女性のようだ。このまま馬車を走らせていたらきっと轢いていただろう。
「私が見てくる。二人はここにいてくれ」
「大丈夫か?十二支のこともある。気を付けてくれ」
倒れてるのが罠ってこともありえるからな。
「では『凝固』を使っていく。これならばそうそう私に傷を負わせることはできないだろう」
イチイは能力を使い防御を固めて倒れている女性に近づいた。何やら女性を抱き起し、少し会話をしている。そして俺のほうへ手招きをする。
「俺を呼んでいるみたいだな。アネモネ、お前はここで待っていてくれ。何かあったらみんなを呼ぶんだ」
「ええ、わかったわ
アネモネを馬車で待たせ、俺は女性の方へと近づく。近づくにつれ女性がよく見えてきた。結構な美人だ。スタイルも良い。どこか放っておけないようなか弱そうなイメージを持たされる。
「ん……」
女性の口から声が漏れる。どうやら気が付いたようだ。
「ここは……あなたたちは誰ですか?」
女性はよろめきながらも立ち上がる。俺とイチイは女性に手を貸してあげる。
「私たちは旅の者だ。この道を通った時に貴殿を見つけたのだが、何かあったのか?」
「体調が悪いのか?」
「ええ、少し悪いみたいです。すぐに良くなるとは思うのですが……」
俺たちの身元は明かさない。ベム国が国民や周辺の村に俺たちをどのような存在だと伝えているのかわからないうちは下手に名前を言わないほうがいいと『子』を倒したあとに決められた。
故に、自分たちの名前は言わない。なるべくベム国につながりがありそうな人間とは関わらない、そう決めた。そのはずだったのだが……。
「貴殿は一人であるのか?」
「この先にある村に用事があったのですが、向かっている途中でめまいがしてそのまま意識を失ってしまったみたいです」
「よければ体調が戻るまで俺たちと一緒にいないか?また倒れたときにそばに誰かいないと不安だろ?」
「でも……」
ああ、男二人に一緒にどうだ?と誘われても不安になるよな。
「俺たちの仲間には女性もいる。世話ならそいつらにさせるから心配しないでくれ」
「それなら……。少しの間ですがよろしくお願いします」
なぜかこの女性は放っておけない。それはイチイも同じのようで馬車まで女性を連れていく間、常にそばで支えていた。反対側を支えていたのは俺であるが……。
馬車の二階のベッドのある部屋に女性を連れて行き、アネモネとジニアに事情を説明する。
「ご主人様はさすが、お優しいですね!」
「そういうことならしょうがないわね。私とジニアがこの人を見ておくわ。ええっと……?」
そういえばまだ名前を聞いていなかった。
「俺たちも連れてきただけでまだ名前を知らなかったな。名前はなんて言うんだ?」
「そうですね……ラビと呼んでください」
女性は一瞬、考えるように黙った後、名乗った。まだ意識がはっきりしていないんだろうか?
「よろしくな、ラビ」
アネモネとジニアも了承してくれた。次の村までと言っていたし、明日にはお別れだが、それまでに良くなってもらおう。
「お姉さん、大丈夫?」
「何かあったら言ってくださいね」
サンとルナも具合が悪そうなラビを見て何かしたいみたいだ。ちょこちょこと様子を見に行っている。カルミアはまだ隣のベッドで寝ている。後で起こしておかないと。
一息つき、再び馬車が走り出したところでハド爺が話しかけてきた。
「レンガよ、あまり知らぬ者に気を許すな。どこに敵がおるのかわからぬのじゃからな」
「わかっている。俺たちで彼女の世話をするからハド爺は怪しい行動をしていないか観察してくれ」
「うむ、わかった」
実際はそこまでラビに対して不信感はなかった。こんな見るからに闘えなさそうな女性が敵のはずがない。
「……。まあよい、儂はあまり近づかずに見ておる」
夜になり、俺は家を出す。突如でてきた家にイチイとラビが驚く。そういえばまだイチイにも見せてなかったな。
「すごいですね!私もこんな能力があればゆっくり休めたんですけど」
「今日はここで休んでいいだからしっかり良くなるのよ!」
「はい、ありがとうございます」
カルミアが自分の能力のように言い出す。というか、今まで寝てたくせにすぐに仲良くなりだしたな。俺と最初に会ったときもそうだが、カルミアはコミュニケーション能力が高そうだ。
夕飯はアネモネとジニアが体力の付くような料理と病人食に近い消化の良さそうな料理をつくってくれた。
「これを食べて良くなるのよ。しっかり噛んでね」
アネモネはジニアの面倒を見ていたこともありラビの世話をよくしてくれている。
ジニアも時折俺を気にするようにしているが、ラビの世話に影響をすることはない。まあ、世話と言ってもそんなに重病でもないから大げさにしなくてもいいのだが、どうもな。
夕食時ということでハド爺はラビと顔を初めて合わせる。ラビは今まで見なかった老人に戸惑っていたが、すぐに笑顔で挨拶をする。
「こんばんわ、ラビと言います。お世話になっています」
ラビは手を差し出す。
「うむ、儂のことはあまり気にせんでいてくれ」
ハド爺はあまり気のない返事をし、手を握り返す。仲良くしてほしいんだけどな、そう思ったとき、ラビの笑顔の質が変わった。今までは元気を振り絞るような笑顔だったのだが、今はニヤリと笑っている。
「ようやく、ようやく全員と触れられた……」
「ん?ラビ、どうしたんだ?」
「黙れ、私はラビではない。私は十二支の四人目『卯』だ」
「なっ⁉」
「レンガよ、だから言ったじゃろう。そもそも、か弱い女が一人で旅に出れると思うか?」
……考えてみればそうだ。だが、なんでこんなことすら考えなかったんだ?
「苦労したよ、ここまで来るのに。だが、条件は整った。今こそ貴様らを殺す」
突如、家にいたはずが森の中へと変わった。周りには誰もいない。
「サン、ルナ!誰もいないのか?」
叫んでみるが、誰の返事はない。
「無駄よ。ここは私の能力で創り出した固有結界。私とあなたの二人以外は誰もここにいない」
ラビが森の奥から現れる。
「十二支の『卯』だったか?まさかあんたが十二支だったなんてな」
「それも私の能力よ。私の能力は二つ。一つは相手からの敵愾心の軽減。無条件に信頼度が高くなるのよ。二つ目はこの固有結界よ。私が触れた生物をそれぞれの結界に閉じ込め、それに応じて増えた私が、ここで殺す!」
「全員、あんたと一対一で闘うってことか?」
「ええ、あんたたちに固まって闘われても困るからね。どうせ今までもそうやって敵と闘ってきたんでしょうけど私の能力の前ではそれも不可能よ」
全員をバラバラにさせる能力か。だが、俺たちがいつ敵に対し全員で挑んだ?
「俺たちはそれぞれで闘える力はちゃんとある。それを今から教えてやるよ」
「はっ!言ってなさい!」
ラビ-『卯』-は手の前に火をつくりだす。こいつ、魔法使いか⁉
『卯』は火魔法を打ち込みそのまま俺の方へ走りだす。いや、走りだすというよりも跳躍している。俺の前に来るまで一回も足をつけていない。
俺が火魔法を剣で弾き飛ばす間に『卯』自身も俺に蹴りを加えてくる。あの跳躍力だ。まともに蹴りを食らうわけにはいかない。何とか剣が間に合い、蹴りを止める。だが、止めたのにも関わらず、俺の身体は後ろに押される。
「すごい力だな。だが、剣に触れている今がチャンスだ。『溶解毒』」
剣に溶解毒が付与され、『卯』の足が溶かされる。
「ぐぅっ‼」
『卯』は俺から距離をとり、足をかばう。
「もうその足は使い物になりそうにないようだぞ。諦めろ」
「ふん、もう片方の足であんたなんかじゅうぶんよ」
片足だけで俺のほうまで再び跳んでくる。だが、先ほどよりも明らかに速さが劣っている。
「そのくらいなら、俺にも見える!」
『卯』を剣で斬り下ろすと倒れ、起き上がることはなかった。
「みんな強いわね……。私もみんなやられてしまったようだわ。残るは一人だけ。だけどあの盾を持った子はどうかしら?私の見た感じだとあの子が一番独りでは闘えないように見えたわよ」
ルナのことか。確かに今までサンと共に闘っていたから攻撃ではなく防御に専念していた。
「それは俺もハド爺もわかっていたさ。あいつは闘う手段はほとんどない。防御に秀でてるからな。だが、全く攻撃できないわけではないぞ」
旅に出る前、ハド爺の修行のもとでルナは攻撃法も学ばされていた。だがそれは盾で直接殴ったるするもので、どうしても遅くなっていた。だから先日、『鬼』攻略の後に新たな能力がでていいたので俺が使い方を教えた。あまりこの世界にはその存在は知られていないようでハド爺も聞いたことくらいしかなかったようだ。
「まさか盾が一般に使われているのにアレはないなんてな……」
「?何を言ってるの?」
俺が言いたいこと、それは
「ルナがあんたに勝つってことだよ」
【神視点】ルナVS『卯』
「その盾で何ができるっていうのよ。いくら防ぐことができても私に攻撃できなければ勝てないわよ?」
『卯』は火魔法を打ち出す。先ほどからルナは近づくと盾を振り回しているのでなるべく近づかないようにしている。盾での攻撃は遅いので当たることはないが、それでも用心のためである。
「盾で何ができる、ですか。私はお兄さんから色々な使い方を教えてもらいましたよ」
ルナは少し怒っていた。レンガが女の人を連れてきたのもそうだが、そのレンガの優しさを裏切ったのだ。レンガが女の人に優しいのはいつものことだ。裏切るならラビに向けられた優しさを自分に欲しかった。無駄となったレンガと自分の時間を返してほしい。
「『盾ハ誰ノ事ヲ守リシ』
能力により創り出したいくつもの盾を斜めにする。『卯』の放った火魔法は盾で弾き飛ばさる。火魔法を真正面から受ければ消滅するが、今は受け流すように弾く。弾かれた火魔法はまた別の盾に当たり弾き飛ばされ、それが繰り返され巡り巡って『卯』自身のもとへと返される。
「なに⁉グゥッ」
盾で少しずつ火の勢いが小さくなっていたこともありそこまでのダメージはないが、これで火魔法は迂闊に使えなくなってしまった。
「ならば、私の蹴りで仕留めるのみ!」
『卯』は辺りの木々やルナの創り出した盾を足場として蹴りだしさらにそのスピードを速める。
「そういえばあなたはウサギでしたね。私もウサギは好きですよ」
ルナは呟くように言う。空中にいる『卯』には聞こえていないようだ。
「いくら盾を創ろうとも、私の速さについて来れなければ意味がない!」
およそ自分の出せる速さの限界まで跳躍した『卯』はルナに向かって飛び込む。
「盾の使い方はいくつもあります。先ほどのだけではありません」
ルナは盾を自分の周囲に創り出す。
「あなたがどこから来ようともこうして周りを覆えば別に見えなくても構いません」
「そんな軽そうな盾、私の蹴りで弾き飛ばしてやるわ!」
『卯』はいくつか勘違いしていた。まず、盾を創りだしそれを地面に埋めてしまえばルナが持たなくてもある程度は固定されているということ。
そして二つ目、その盾は今まで創り出していた盾とは違うこと。その盾の表面には大きな棘が付いていた。
「お兄さんに教えてもらいました。スパイクシールドと言うらしいです」
「え、ちょ、止まれない⁉」
限界まで高められた『卯』の速度は自分の力ではもう止められないものへとなっていた。そのまま棘の付いた盾へと突っ込んでいく。
「ギャアアアアッ」
まず足が棘に刺さり、次に身体が自分の跳躍によってできた勢いにより串刺しとなる。
棘の一つ一つは大きく、刺すというよりも貫いている。全身が貫かれた『卯』は息絶え、そのまま光となり消える。
「私、本当にウサギは好きなんですよ?だって焼くととってもおいしいんですから」
ルナはきっと一人だとテンションが上がってしまう子なんでしょう。
ルナが一人称の話とか書いたらどうなってしまうんだろう(書くとは言ってない)