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番外編 聖なる贈り物

明日起きたくないよぉ

起きたらクリぼっちという現実が……

 それは街から出て草原で遊んでいたときにやってきた。

 突然、雪が降りだした。街の方を見ると雪は降っていない。俺たちの上の雲だけから雪が降っているようだ。そしてどこからかシャンシャンシャンと音が聞こえる。


「む、やつが来おったか」

  

 雪と音にハド爺が何かを察したようだ。


「やつ?ハド爺は何が起こっているのかわかるのか?」


「ああ。これは『聖』じゃ。儂が昔から挑んで勝てない数少ない漢字じゃな」


 ハド爺でも勝てないのか⁉『聖』って別に悪そうな漢字じゃなさそうだけどな。

 そのまましばらく待つと角の生えた馬のような生き物が牽いたソリのような乗り物に乗った老人がやってきた。その老人は長い白髭を蓄え、赤いコートを着ている。ソリには白い大きな袋が置いてある。 

 ……これはひょっとしなくても。


「サンタじゃねーか‼」


 俺の叫びは雪にかき消されたようだ。みんな老人に警戒している。ハド爺が勝てないという言葉を聞いてのことだろう。


「なに、心配せんでよい。こやつは基本的には無害じゃ。それに贈り物をくれるときもあるぞ」


 やっぱサンタだな。異世界だからあっちの世界と違うかと思ったけどたまに似たようなことが起きるんだよな。


「ホッホッホ。今から君たちには勝負をしてもらう。勝てば良い物を、負ければ良くない物を贈ろう。」


「良い物!食べ物かなぁ」


「勝ちたいです!」


 贈り物と聞いてサンとルナがやる気を見せている。勝負をしてもらうって俺たちでやるのか。これだけやる気を見せているのだ、サンとルナが勝てるようにしてやりたいな。


「では、競技の説明をしよう。今回の競技は二人三脚じゃ。ハドは後で儂と勝負を闘うから抜かすぞ。残る六人でペアを組んでもらい、一位と二位には良い物をあげよう。この線から200m走って向こうに辿りつくのじゃ」


 サンタの足元に白線が、そして200m先には旗と紐が空中に浮いている。あれがゴールテープってことか。

サンタがハド爺を知っているってことはやっぱ闘ったことがあるみたいだな。


「ペアはサンとルナ、ジニアとカルミア、レンガとアネモネじゃ。ハンデとして子供のサン、ルナ、カルミアは漢字の能力を使ってもよいぞ」


 俺たちのことも知っているのか。まあその辺は突っ込んじゃいけないとこか。


「私は150歳だから子供じゃないわよ!……まあやるからには全力でいくけどね」


 カルミアもやる気のようだ。それなら俺とアネモネで三位を狙うべきなんだろうな。


「アネモネ、子供たちが勝てるように協力してもらえるか?」


「ええ、いいわよ。それに私にはレンガさんから素敵なものをもらったしね」


 そう言って指に嵌めている指輪を見せる。俺が買ってあげた魔法強化の効果のある指輪か。左手の薬指につけているが、その意味をわかっているのか?


「さっそくつけてくれてるのは嬉しいが、違う指につけてくれ……」


「あらそう?ふふっ、レンガさんもそういうこと気にするのね」


 アネモネは笑いながら人差し指につけ変えてくれた。


「これでいいかしら。私たちは遅く走ればいいのよね?でもあのペアは…」


 アネモネはジニアとカルミアのペアを見て言う。ジニアは背はそんなに高いほうではない。だが、カルミアと比べると15㎝ほどの差がある。少し走りづらそうだな。


「俺たちもあのくらいの差はあるから大丈夫だろ。あんまし遅すぎても手を抜いてると思われそうだから、接戦になるくらいの速さで走るぞ」


「わかったわ!」


「それと、サンとルナとカルミアは漢字の使用が有りだから、妨害をしてくる可能性もある。気を付けような」


「そうね。頑張って避けましょ」



 サンとルナは問題なく足を縄で結んでいる。仲良くえっちらおっちらと走っていて可愛いものだ。

ジニアとカルミアも縄は結べたが、肩を組むのに苦労しているな。あ、転んだ。

俺たちも練習してみるが、問題なく走れそうだ。問題なく走れたのが逆に問題有りだな……。あの二人にどうやって負けようか。

 サンタがみんなを集める。二人三脚を開始するようだ。


「それでは、位置について」


 サンタがクラッカーを構える。スターターピストルの代わりか。こういうところでクリスマスっぽくしてもな……。

 サンタの合図で全員走る用意をする。


「よーい」


 最初は少し速めに走って後から逆転される予定だ。そのためには一番に走りださないとな。


「ドン!」


 サンタの合図で二人三脚が始まり、一斉に走り出す。

 俺たちが一番か。二番手はジニアとカルミアのペアだな。サンとルナはどうしてるんだ?そう思って俺は後ろを振り向いた。


「じゃあ、行っくよー」


「うん!」


「『矛ハ誰ノ為二貫キシ』」


 サンとルナは横ではなく、縦にならんでいた。サンが能力を発動すると、二人の足元に巨大な槍が出現する。もはや破城槌と思えるほどの大きさである。二人はそのまま槍の上に立つ。


「「しゅっぱーつ!!」」


 二人の掛け声とともに二人が乗った槍がゴール目掛け飛んでいく。うーん、どっかで見た光景だな。背中で手を組むとまさにそれっぽくなりそう。俺たちがポカンとしている間に二人はゴールした。

 そうだよな、漢字の使用有りって言っても、別に攻撃だけに使うわけじゃないよな。仲間を信頼しなくてはな。疑ったりしてごめんよ、そう思ってジニアをカルミアの方を見る。

 ……カルミアの周囲には赤い剣が浮いていた。血で作った剣か?


「……」


「……」


「……なあ、その剣」


「あ、そういう使い方をするのね!『血液操作』」


 ジニアとカルミアの足元に赤い板が出現する。


「じゃ、じゃあ先に行くね」


「すみませんご主人様……。お先に」


 ジニアとカルミアを乗せた板はゴールまで飛んでいく。カルミアは後で少しお話だな。

色々予想外であったけどこれで終わりか。みんな、良い物もらえると良いんだけどな。そう思っていると、


「何をしておるんじゃ。二人も早く走るのじゃ」


 と、サンタに急かされた。もう順位決まったから終わりじゃないのか⁉


「兄ちゃんもっと速くー」


「お兄さん頑張ってくださいねー」


「二人とも頑張りなさいよ!」


「ご主人様、アネモネちゃん、ファイトですよ!」


 俺とアネモネはみんなに応援されながらゴールした。小学校の運動会みたいな恥ずかしさを覚えたぞ。


「みんな走り終えたな。では、順位の発表じゃ」


 いや、わかりきってるんだけど…


「ではまず、二位から!二位は……ジニア、カルミアのペアじゃ!おめでとう、君達にはこれをあげよう」


 サンタは無駄に溜めたあと、二位を発表した。まあ当然ながら二位はジニアとカルミアか。サンタが差し出したのはペンと水筒であった。

 サンタはジニアのほうに向き、ペンを差し出す。


「このペンは全語のペンと言っての。どんな存在でも意思疎通が成り立つ相手ならばこのペンで書いた言葉は相手にも伝わるものじゃ」


 ジニアはサンタからペンを受け取った。

 

「ありがとうございます!」


 狼相手に使うつもりなのかな?群れ相手はガーを通さないと命令できないみたいだし。


「この水筒は無限の水筒じゃ。液体ならいくらでも入るし、中身は劣化しない。アイテムボックスと原理は一緒じゃな」


 水筒はカルミアが受け取った。


「ありがとう!これで……えへへ」


 カルミアは笑いながらこっちを見る。あの笑顔は限界まで血を抜き取るつもりだ。気を付けないと・


「それでは、一位の発表じゃ!……一位はサン、ルナのペアじゃ!……最下位はレンガ、アネモネのペアじゃな」


 何の意外性もない発表がされていく。誰の目にも一位も二位も明らかだったじゃないか!ついでにビリも!

 サンタは二つのネックレスを取り出した。


「このネックレスは親愛のネックレスというものじゃ。これをつけた者どうしが信頼し合うことで互いの力を高め合うことができる」


 なるほど。二人三脚で連携力を試していたってわけか。二人ならこのネックレスも使いこなしそうだ。


「わあい!ありがとう!」


「大事にしますね!」


「二人とも良かったな。俺がつけてやろうか?」


 二人は嬉しそうに俺に背中を見せる。ネックレスを受け取り、つけてやると嬉しそうにその場でくるくると回り始めた。


「さて、最下位の二人にもこれをあげよう」


 サンタは背中に背負っていた袋を逆さにし、中身をぶちまけた。袋から出てきたのは大量の炭と芋であった。旅には必要であるから、良くないものではないが、量が多すぎる。

少しだけもらっておこう。そう思ったが、自動的に俺のアイテムボックスに収納されていく。


「全部使うんじゃぞ。ちなみに売ることはできんし、二人以外は食べることができないからな。炭も二人以外は使うことはできん」


「……しばらく芋料理が続くのか」


「…頑張って食べましょ」


 非常食ができたと思ってあきらめよう。

 次いでサンタはハド爺のほうを向く。


「さてハドよ、待たせたな」


「うむ、準備運動はばっちりじゃぞ」


 ハド爺は先ほどまで俺たちから離れて何やら走り込みや正拳突きを行っていた。

 ついにハド爺とサンタの闘いが始まった。


「ちなみに何でハド爺は『聖』と闘うんだ?」


 最初から闘うことは決まっていたみたいだオし。


「それはじゃな……。それが儂のもらった良い物だからじゃよ」


「ハドが若いときにな、贈り物をあげたら、そんなものより強敵が欲しいと言ってきての。それ以来儂が来るたびに闘っておるのじゃよ」


「あの時は儂も若かったからの」


 恥ずかしそうに頭をかくハド爺。どんだけ敵に飢えてたんだよ。


「じゃあそろそろいくぞ」


「いつでも来るがよい」


 そうしてハド爺とサンタの闘いが始まった。一時間ほど経過したところで、サンタの不意をついた頭突きがハド爺の腹に入りハド爺は倒れ、勝負は決まった。


「どうやらここまでのようじゃな。またいずれ来るぞ」


「うぐ……次は勝つからの……」


 気絶こそしなかったもののしばらく立ち上がれそうにないハド爺に別れを告げ、サンタはソリらしきものに乗り去って行った。



 ちなみにだが、一週間、火おこしは俺とアネモネの仕事となり、料理も俺たちだけ芋料理となった。まあネックレスやらペンやら水筒やらをもらって嬉しそうにしている面々がいるから良いだろう。カルミアはしばらく毎日俺の血をねだってきたが……。


それではみなさん、メリークリスマス!

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