49話 『丑』『寅』
何とか連日書けた……
【神視点】ベム国にて
チンピラとシダはベムへと『行』の能力で辿り着いた。能力で一瞬で移動したため、レンガたちを追い越しての到着である。
レンガたちがベムに来ていない今、彼らはただ待つしかできない。いいや、ひとつだけある。それはレンガの敵となりそうな存在の排除だ。レンガたちは『子』を倒してしまったため五芒星はレンガに刺客となる十二支を差し向けていた。五芒星にもはやレンガたちと話し合う余地などなかった。
「ここがベムか。それにしてもお前の女たち……いつもあんなにうるさいのか?」
「いや、まさか俺もあんなに反対されるとは……。そんなに俺は頼りなく思われてるのかな」
シダは勘違いしているが彼の仲間は頼りにしていないわけではない。単にシダから離れたくなかっただけだ。シダを慕い集まったからこそシダのパーティーは成り立っていた。シダがいないところでは案外牽制し合うことが多いパーティーであった。
いきなり街に移動するのもまずいと思い、シダたちは街の門の近くに来ていたのだが、そこの門から二人組がでてきた。一人は鎧を着こんだ大男、もう一人は強面の男である。
「お前がのんびりしてるから置いてかれちまったじゃねえか」
「うぅ……ごめんよ。僕が準備に手間取っていたばかりに」
「お前は準備もそうだが、なんでもトロいんだよ!どうせ今頃は『子』のやつが標的に辿り着いているだろうぜ」
「標的……何て言ったっけかなあ。大人数なんだよね。『子』は大丈夫かなあ」
「あいつは単純ながら俺らの中でも一位二位を争うほどの力量の持ち主だ。そうそう簡単にやられはしねえよ。それと名前くらい覚えとけ。レンガっつう名前だ。『子』が取りこぼした敵がいればそいつらでも構わねえから殺っとくぞ」
レンガ、強面の男がそう言ったのを確かにチンピラは聞き取った。会話はよく聞こえなかったが、この地で聞くのだ、敵の可能性が高い。
「おい、今レンガと言ったか?どこにいるか知ってんのか?」
チンピラが強面の男に聞く。強面の男はチンピラの方を見るが、特になにも言うこともなく大男と会話を続ける。
「おい、聞いてんだろ!」
チンピラが男の肩を掴む。そうするとようやく男は反応を見せた。
「人間風情が俺の肩に触るんじゃねえよ。レンガを知ってるかだって?ああ、知ってるさ。それがどうした?」
「レンガの場所を教えてくれよ。俺も探してるんだ」
「あ?お前もレンガの関係者か。おい、どうする?こいつも殺っとくか?」
強面の男は大男と相談を始める。殺るという言葉に反応したのは今度はシダであった。
「おいおい待ってくれよ。俺たちはベム国にレンガが連れていかれたって聞いて連れ戻しに来ただけなんだ。場所を教えてもらえればすぐにどっかに行くからさ」
なるべく争いをしたくない。シダらしい返し方であった。だが、それは彼らにとっては逆効果となった。
「連れ戻すってことはどうやら仲間みたいだな。おい、いつまでそこに突っ立ってんだ。てめえもとっとと来い!」
強面の男が大男を急かす。
「さあて、久しぶりに楽しませてくれよ、俺は『寅』、十二支の三人目だ」
「僕は『丑』、十二支の二人目だよ。あまり痛くないように殺すからね?」
二人が殺気を出し、チンピラとシダも戦闘態勢を取る。チンピラは斧を、シダは大盾と片手剣を構える。
「てめえはトロそうだからよ、『丑』の相手でもしてろや。おい、てめえは俺とだ」
『寅』はシダを、『丑』はチンピラに向き合う。
「よろしくね」
「トロそうか、それは俺の攻撃を見てからいいな!」
チンピラは『倍化』を使い、己の能力すべてを強化する。その中には速さも含まれており、それは『丑』の予想を超えていた。
チンピラの斧が『丑』の身体に刺さる。だが、鎧で衝撃を軽減され、さらには『丑』自身の筋肉で止められた刃は『丑』の身体に刺さったまま抜けなくなった。
「これは痛いね。こんなものはあっちに捨てるよ」
己の身体から『丑』は斧を抜き、明後日の方へと投げ捨ててしまう。そしてそのまま拳を構える。
「今度は僕から行くね?」
そのまま固めた拳を突き出す。だがその拳の速さは倍化されたチンピラには遅かった。いや、倍化していなくても避けられる速さであった。
当然のごとくチンピラはその拳を避ける。だが、避けたはずの拳はありえない方向へと曲がりチンピラへと突き刺さる。
「がっ⁉何⁉」
拳を速さに比べ重く、あのザンガに匹敵するかと思われる力であった。
「これが僕の能力だよ。要は後出しだね。僕は君より先に攻撃できないけど、その後で出した僕の攻撃は絶対に君に当たるんだ」
その能力は『子』とは真逆、後手であるからこそ絶対に攻撃できる能力であり、耐久を前提とした戦闘スタイルである。
「だが、それでも俺の攻撃は食らわなきゃいけないわけだ」
今の攻撃からチンピラは自信の倍化された力と『丑』の力はほぼ同じだと推察する。そうなればどちらの耐久力が上であるかで、同じであるならば先に攻撃できる自分のほうに勝機はある。
しばし二人は無言で殴り合う。先にチンピラが殴り、『丑』がその後に殴り返す。共にダメージに差はほとんどない。そのはずであった。
「痛みを感じないのか?」
痛みに耐えるチンピラに対し、『丑』は最初から表情は変わらなかった。痛みに耐える様子もなくまるで痛くないのだと思えるほどだ。
「あっちもやっているな。どれ、俺たちも」
『寅』は鉤爪のような武器を構える。そのまま速さを生かした攻撃を繰り広げる。
シダは大盾で鉤爪を受け止め、片手剣で斬り返す。だが、その時には『寅』は距離を取っている。ヒットアンドウェイの戦法を取って闘う敵のようである。
しばらく同じように闘うが、どちらも決定打になるような攻撃にはならずシダに疲れがたまり始める。だが、『寅』にはそのような様子はない。
「結構、体力があるんだな。そんな涼しい顔で闘い続けられるだなんて」
シダには疲れがあり、『寅』には疲れが見えない。これはチンピラと『丑』との闘いに似ていた。痛みがあるチンピラに対し痛みを感じていないような『丑』。どちらも我慢強い、もしくは彼らよりも強いのか。答えは否、である。これは『寅』の能力であった。
『寅』の能力、それは平常である。何があろうとも敵に動揺を見せず、まるで余裕があるかのように振る舞う。敵はそれで自分よりも遥かに強い者と闘っていると錯覚する。実際はそこまで強さに差はないのに、だ。
後手故に攻撃を食らってしまう『丑』の能力と攻撃を食らっても痛みなどないかのように振る舞える『寅』の能力は嚙み合っており、この二つの能力で格上の存在とでも互角に戦ってきた。
だが、チンピラとシダ、この二人は『鬼』との闘いを乗り越えてきている。そこいらの冒険者とは格が違う。
「俺よりも強い敵か。だが、それでも俺が増えれば問題ねえ!『等価倍々』」
チンピラは二人になりそれぞれ『丑』に対し攻撃する。『丑』も二人同時には攻撃できず、一方の攻撃は反撃できずにただ食らってしまうのみとなってしまう。
「俺はタンクの役割だ。ただ攻撃を耐えるだけなら今まだってやってきた!」
一方、シダのほうも粘りを見せ、とりあえず大盾で鉤爪を防ぐ方法を取った。時折できる隙を狙う作戦である。
「い、痛いよぉ」
「ちっ!うざってぇ事しやがって」
『寅』の能力は表面上を誤魔化すのみの能力である。中身の強さは変わらない。そのため徐々にだが、『丑』と『寅』は押し返されていく。
「『丑』、あれをやるぞ!」
「う、うん。このままじゃ負けちゃうもんね」
このままでは負けるかもしれない、そう考えた『寅』は突如『丑』のもとへと走り出す。
「あ、おい!」
シダは大盾を持っていたため止めることはできない。
「どけ!」
素手であったため『寅』の鉤爪を避けるチンピラを尻目に『寅』は『丑』に噛みつく。『丑』も『寅』に噛みつき返し、チンピラとシダは仲間割れか?と混乱する。
「見せてあげるよ、『丑』と『寅』の真の姿を」
「古くから『丑』と『寅』は鬼を象徴してきた。鬼の力、恐れ慄くがいい!」
『丑』と『寅』がそのまま混ざり合い牛の角、虎の体躯を持つ怪物がそこに現れた。なるほど、鬼に見えるかもしれない。
「この姿になったからにはお前らは何もできずに死ぬだけだ。何も考えられずに死ね!」
鬼のような怪物の拳が振るわれる。
だが、この場にはもう一人、『鬼』がいる。
「鬼がそんなもんだっていつ決められた?見せてやるよ、本当の鬼を!『鬼化』」
『鬼』を倒しその力を得たチンピラ、その能力である『鬼化』は鬼の力を己に宿すものである。チンピラの身体はみるみるうちに鬼の身体に変化する。牛ではなく鬼の角、虎ではなく鬼の身体である。
「シダ、少し離れておけ。『鬼化』すると理性を抑えるのに苦労するんだ」
鬼もどきの怪物の拳をチンピラは片手で止める。だが、チンピラの力が強すぎたためか鬼もどきの身体はそのまま浮き上がる。
「さっきレンガを殺すとか言ってたな?それなら俺くらいには圧勝できなきゃ無理だぞ!」
チンピラは鬼もどきを放り投げる。その着地地点は先ほど『丑』が投げ捨てた斧のある場所であった。
「ま、待て。そこは⁉」
斧の一端が鬼もどきに刺さり、そこへチンピラの止めの拳が顔に入る。鬼の力で殴られた鬼もどきの顔はひしゃげ、骨も砕け散っているようだ。そのまま二つの光となりどこかへと消え去ってしまった。
「『鬼化』解除。ふぅ、少し休ませてくれ」
能力を解除し、二人はその場に座り込む。やはり能力の反動はあったようだ。
「ああ、だがやつらが敵の中でどこまでの強さだったのか気になるな」
「これが一兵士だったて……レンガを連れ戻すのはかなり大変なことになるな」
しばしの休憩をし、二人はまた動き出す。
次はクリスマスですかねー
本編の方はしばらく順番に十二支をやりたいなー