46話 ベム国
久しぶりです
案内されたのはガマラという領主の邸宅であった。
応接室に案内され、お茶とお茶菓子がでてくる。サンとルナ、カルミアはお茶菓子をむぐむぐと食べている。しばらくして、執事を連れた男が部屋に入ってきた。
「話はどこまで聞いているかね?ああ、敬語とかはいらない。そんな煩わしいものよりも会話を優先したい」
ガマラは40代ほどの男で、よく鍛えられた体をしていた。領主でも闘うことはあるのだろうか。
「ベムという国が俺たちに来てほしいってことくらいだな。行かなきゃこの国に兵が来るんだろ?」
「そうだ。だが、ただベムに従って君達を向かわせるのは我々の立場がない。ベムに屈したことになるからな。だから、君たちには護衛をつけることにした。おい、イチイ殿をここに」
ガマラは控えていた執事に誰かを連れてこさせた。
しばらくして連れてこられたのは豪華ではなく傷がついているが丈夫そうな鎧を着て、大剣を背負った男であった。
「彼はこの国が誇る三騎士の一人でな。ちょうどこの街に来ていたので、君たちの護衛を頼んだのだよ」
「イチイという。よろしく頼む」
イチイが名乗り、俺たちも各自、自己紹介する。イチイが俺たちの中で反応したのはハド爺であった。元Sランクの冒険者なだけあって知ってる人は知っているようだ。Aランクに下がったのは10年ほど前だから若い人はあまり知らないそうだが、イチイは知っている年齢のようだ。
「もともと私が騎士を目指したのはハド殿が王の警護をしたことがきっかけだからな。昔からハド殿を目標に鍛えたよ。どこまで近づけたのか、試していただきたいところだ」
「それは嬉しいのお。じゃが、儂がAランクになったのは年齢のせいで弱くなってきたからじゃなからな。もう昔のようには闘えんよ」
「それは残念なことだ……。そういえば、貴殿の名も聞いたことがあるのだが、ラザー国の貴族の娘ではなかったか?」
イチイは今度はアネモネに話しかける。
「ええ、そうですわよ。と言っても、もうラザーもないのですが」
「ならばベムは君にとって無関係ではなかろう。知らないようだが、ラザーはベムと戦争をして滅んだのだぞ」
「……そうでしたか。それは知りませんでしたわ」
確かアネモネの国が戦争を仕掛けたんだったっけ。だから一概にベムが悪いとは言いづらいが、それでもアネモネは良くは思わないだろう。
「まあそのおかげでレンガさんに出会えましたからね。私はこれでよかったとも思っていますわ」
「そうであったか。貴殿の未来がこれからも幸あることを願おう」
「ありがとうございます」
イチイはそのまま全員と軽く挨拶をかわし、みんなと打ち解けてきているようだ。
「それでは話に戻るぞ。まずはベム国の説明をしようか。そもそもベム国はそこまで規模の大きくない国であった。だが、数年前に五芒星という連中がベムを乗っ取ったのだ。それからは毎年どこかの国に戦争を仕掛けて領土を広げている。今回も五芒星のやつらが君たちを呼んでいると考えていいだろう」
五芒星というやつらが原因なのか。そいつらと話ができればいいんだが、行って即捕まったりはしないよな?お茶菓子を食べ終えた子供たちがまだ食べたそうな顔をしているので俺の分を渡す。
「幸いなことに国民は脅されて戦争をしているだけでもはや忠国心はない。君たちに危害を加えるとしても国の中枢の者たちだけだろう」
「そして万が一のことを考えて私がついていく。いざとなれば貴殿らを逃がすくらいはできる。最も、『鬼』を倒した実力者の貴殿らには必要ないかもしれないが」
「そんなことはない。あの時は俺たちみんなギリギリの闘いだったからな。余裕の勝利はハド爺だけだった。イチイはどのくらい強いんだ?イチイの三騎士というのも知らないんだが」
「そうだな……三騎士というのはこの国に勤めていた兵士から選ばれた騎士だ。冒険者とは違う観点から評価されているのでランク付けはできない。私以外にも二人いるが、強いぞ。私もここまでなるのに苦労したものだ」
ランク付けできないと言っているが、要は国で最も強い三人の一人ってことだろ。ハド爺が増えたってことか。頼もしい。
「隣国と言っても、ベム国まで道はある。君たちは馬車は持っているのかね?」
「ああ。俺の能力で馬車を出すことができる。イチイ一人なら乗せることくらい大丈夫だ」
「そうか、便利な能力を持っているな。ならば準備でき次第向かって貰えるか?国の者が逃げ出さないか不安がっていてな」
「わかった。イチイが大丈夫なら明日、出発しようと思う」
「私も大丈夫だ。いつでも闘えるようにしてあるからな」
この場はお開きとなり、明日の朝にまたガマラの邸宅に集合となった。
まだ時間はあるので今日は旅支度をする。と言っても必需品はまだ残っていたのでそこまでのことではない。
「そろったな。では向かうとしよう」
俺たちより先に邸宅で待っていたイチイは俺たちが着くとさっそく馬車に乗り込む。
「運転も途中で私が代わろう。それまでは五芒星の話をしておく」
五芒星は強いというだけで詳しくは知らない。まだベムまでの道はあるからじっくり聞かなくては。
難しい話はできません