45話 開戦の危機
カルミアが俺たちの仲間になってから六日間、その間は仲間それぞれと情報収取も兼ねて街を歩き回きまわった。
一日目はサン、ルナ、カルミアと料理店を巡った。。カルミアがおすすめしてくれた店はレバーや魚介類などの鉄分が多そうな料理のある店であった。サンとルナは喜んで食べていたが、カルミアよ、そんなに俺に血を増やしてほしいか?確かにおいしかったがそんなに期待した目で俺を見ないでほしいものだ。
「ねえ、血は増えた?次はもう少し吸いたいのだけれどいいかしら‼」
「俺は能力で血を増やせるからそんなに食べ物で増やすことはしなくてもいいんだがな。それよりカルミアは野菜も食べろよ、ほら」
そう言って俺はカルミアの口にほうれん草のような野菜の炒め物を突っ込む。さっきから肉と魚しか食べていないのをちゃんと見ていたぞ。
「んぐっ⁉ごほっごほっ……おいしいわねこれも」
「だろ?これもおいしいぞ」
俺はカルミアの前に他の野菜料理も持っていく。だが、カルミアは料理に手を付けずに口を開けたままでいる。
「何してるの?早く食べさせなさいよ」
「子供かよ!自分で食べられるだろ!」
「いいの‼それにレンガだって私のこと子供扱いするじゃない。だから食べさせて‼」
やれやれ今日だけだぞ、と仕方なくカルミアの口に次々と料理を運ぶ。カルミアはそれを嬉しそうに食べる。ん?サンとルナがこっちを見ているな。
「ずるい!私にも食べさせて!」
「お兄さんには私が食べさせてあげますね。はい、あーん!」
「恥ずかしい……」
俺がカルミアとサンに食べさせ、ルナが俺に食べさせるという奇妙な食事風景がここに完成したのであった。周りの客のやけに暖かかった目を俺は忘れることはないだろう。
二日目はジニアと街歩きを楽しんだ。露天商を見つけ掘り出し物はないかと探したり、屋台で食べ物を買って食べ歩きをした。
人通りは少ないが広い道に出たので、あまり顔合わせもできていなかったガ―を召喚してもらった。ガーはフォルと同様にこちらの言葉を理解しているようなので了承を得てモフらせてもらう。
「いや、本当に柔らかくて良い毛並みだ」
「グルゥゥ」
ガーも俺の手櫛で気持ちよさそうにしている。そういえば『狼』の能力で群れを出せるんだったな。辺り一面この毛並みで埋もれたら……幸せだ。
昼食の時間になったためジニアとパン屋に入る。ジニアが一昨日、アネモネと街を巡った時に見つけた店らしい。注文を受けてからパンを焼くため時間はかかるが、焼きたてのパンはその分おいしいらしい。その時間も話していればすぐであろう。
「あ、あの!ご主人様、よろしければボクの髪もご主人様の手で梳いてもらえませんか‼ガーだけずるいです……」
ジニアが何かしてほしいなんて珍しいな。だけど人前でやるのも恥ずかしい。
「……今はこれくらいで許してくれよ」
とジニアの頭を撫でてやった。
「あ、ありがとうございます!えへへ……」
ジニアの満足そうな顔を見ながら焼きあがったパンを食べる。おお!確かにこれは美味い!ジニアもパンが来てからはそちらに夢中になり再度二人であれこれと注文をした。ついでにみんなへのお土産として冷めてもおいしいというパンも注文し、ジニアとの話を楽しんだ。
三日目はアネモネと買い物をした。どうやらジニアと買い物行ったときはジニアの服を中心に買ったようなので今日はアネモネの欲しいものを見て行く。前回アネモネと出かけたときは服を見たので今回はアクセサリーを見る。昨日ジニアと見た露天商の一つにアクセサリーを売っている店があったからだ。俺が金を出すということで何か一つ勝ってやることにした。
「アネモネ、この腕輪はどうだ?中々良いデザインをしていると思うんだが」
「嫌よ、そんなドクロのついた腕輪なんて!呪われてそうだし」
かっこいいだろ、ドクロ。未だ俺のセンスを受け入れてくれる者は現れないな。
「それよりこっちのネックレスはどう?この宝石がとても綺麗だわ!」
「確かに良さそうなものだが……かなり高いな」
値段を見ると50万エンとなっている。ギルドからの報奨金のうち俺の分がすべて吹っ飛んでも足りない。何か代わりのものはないかな、と……おおこれなんて良いじゃないか。
「アネモネ、この指輪なんていいんじゃないか?お前の雷魔法も強化されるみたいだし」
その指輪はネックレスについていたのよりも一回りほど小さい金色の宝石がついていた。値段も20万エンとこれなら買えそうだ。
「え?指輪って⁉レンガさんが私に……」
「ん?嫌か?それなら別のでもいいけど。あっちにも似た性能の腕輪があったからそっちにしてもいいけど」
「いえ‼指輪がいいわ‼レンガさんは私に指輪を買うべきなのよ‼」
アネモネの畳み掛けるような言葉に俺はコクコクと頷いてしまう。そんなに指輪が良かったのか。それとも腕輪のデザインが気に入らなかったのか。
「じゃ、じゃあこの指輪でいいんだな。……すまない、この指輪を一つくれ」
「ありがとう、レンガさん……」
露天商の男から買った指輪を渡すとアネモネは嬉しそうに手に握りしめていた。
四日目はハド爺との特訓であった。特にこれといったこともなかった。
五日目、六日目は少し退屈気味になってきたので街の外に出かけたりして遊んだ。
念願の『狼群』で呼び出した狼たちは大変気持ちが良かったです。あまりに狼に夢中になってサンとルナが拗ねてしまったのは計算外であったが、二人とも撫でてやったらすぐに、にへらと笑ってくれた。
そしてギルドでクエストを受けて一週間が過ぎた。進展なしと報告をするためにギルドに向かうと職員がすごい形相でこっちにやってきた。
「レンガさん、ちょうど良いところに!あなた方はヒシバという男を覚えていますか?」
ヒシバか、確か『屍』を所有していたやつだな。俺が『毒』で止めをさしたんだった。
「ああ、俺が殺した。だが、それはやつを殺さなければゾンビが増え続けるから仕方なくということでそっちにも伝わっていると思うが?」
「それに関しては私どももレンガさんに特に処罰を下すということもなくむしろ報酬を出すか検討中でした。しかし今朝、隣国であるベム国が、レンガという男を連れて来い。ついでにその仲間もだ。さもなくばそちらの街に兵を送り付けるという文書が届いたのです。ご存知かはわかりませんが、ベム国は戦争に優れていて、兵を送り付けられたらこの街など一夜で……」
つまりは俺たちのやったことでベムという国に何か不都合なことがあったのか?兵を送りつけるんなんて言うくらいだ、ヒシバを殺してくれてありがとうなんてことはないだろう。
「ひとまずこの街の領主様のところに向かっていただけますか?これからのことはそちらで話し合うということで」
「ちなみに俺たちが逃げたらどうなるんだ?」
「そうしますと……言いにくいのですが指名手配の扱いとなります。ベム国はレンガさん達を連れて来いと言っているだけなので断りづらくて。それならレンガさん達を捕まえたほうがこの国のダメージも少ないというのが上の判断になってしまいます……」
つまりは行く以外の道はないわけだな。仲間たちにもベム国に行くことの了承を得て、ギルドにそのことを伝える。いざとなったらハド爺もいるしな。
「わかった。ベム国のほうにも俺が行くことを伝えておいてくれ。そのほうがあんたらも安心なんだろ?」
「はい。その、申し訳ありません。私たちにあなた方を守れる力があればこのようなことには……」
「気にするなよ。むしろ俺たちのせいなのかもしれないしな」
「いいえ!ヒシバを殺さなければあの村だけでなくその周辺、もしくはこの国にゾンビが広がっていた可能性もあります。レンガさん達のは感謝してもしきれないくらいです」
それから執拗に頭を下げてくる職員にどうにか頭を上げさせ、俺たちは領主のもとへと向かった。
次回より新章かな