34話 鬼の棲まいし山その9
今回は前編です
後編は決着つけるだけなんで短くなりますが
んんっ、気を取り直してレンガの闘いを見ようか。……おいレアナ、さっさと正気に戻れ」
「な、なんですか。別に私はあの耳触りたいとかあの尻尾に顔をうずめたいとか思ってませんからね?」
「いいなそれ私もやりたい……。い、いやそれよりもレンガの闘いだ!」
「……じゃあさっさと見ましょうか。レンガさんと族長ブラハの闘いです」
「仮にも主人公なのにテンション低いな⁉」
【レンガVSブラハ】
「さあどうした?貴様のその能力、俺に通用するまであとどのくらいだ?」
俺がブラハが闘い始めて10分程、毒付きの剣で何回かブラハに斬りつけることはできたのだが、どうやら効いている様子はない。フォルも『毒鼠』となり何回か噛みつくが、それも効果はない。噛み傷もどうやら再生能力があるみたいで時間とともに再生している。
「どうした、言っておくが俺には毒が効かんぞ」
「フォル、一旦もどれ。ならば俺の新しい能力を試させてもらう」
「『窮鼠猫ヲ噛ミテ己ノ血肉トセヨ』」
これが俺が修行の中で新たに手に入れた『鼠』の力だ。その力は格上との闘いに長けている。というか、格上との闘いしかできない能力だ。
-窮鼠猫ヲ噛ミテ己ノ血肉トセヨ-
一定以上の保漢者と力が離れている対象にのみ効果を発揮する。攻撃した分を保漢者の力に変え、その分対象を弱体化させる。ただし、一日に対象は一人まで。対象が死ぬと効果は消える。
「フォルが使えなくなるのが難点だが、どうやらお前は手数が多くても意味がないようだしな。一対一でやらせてもらう!」
「ハハハ、いいぞ!これこそ闘いというものだぁ。さあ殺し合おうじゃないか!」
俺は剣を、ブラハは大剣を構える。
「行くぞ!」
俺はブラハに斬りかかる。ブラハはどうやら剣技はそこまでの腕ではないようだ。この間のヒジハのほうがもっと腕が良かった。だが、ヒジハが杖であったのに比べ、ブラハは大剣である。杖とは違い、掠っただけで俺の体には傷が増えていく。だが、それ以上にブラハの体には傷がある。
「ふむ?段々貴様が強くなっているのか?いや、俺が弱くなっている?」
その両方だ。『窮鼠猫ヲ噛ミテ己ノ血肉トセヨ』は斬れば斬るほどブラハの力を弱め、そしてその分を俺の力に変える。ブラハが力のうえでは俺を上回っているから使えた能力だ。剣の腕や立ち回りは俺の方が上回っているようではあるが。
「グハハ、俺の力を吸収したのか?いいぞ、対等の力になってこそ殺し合いは成立する」
ブラハはそう言うが、俺と力が同程度になってしまえばやつにはもう勝ち目はない。俺はブラハの剣を弾き飛ばし、そのままブラハを斬る。
「これで、終わりだ!」
だが、ブラハを斬った感触は鉄を斬ったソレと同じものだった。ブラハは右腕で俺の剣を防いだようだったが、先ほどまでと腕の形が違う。
「腕が……剣になっているのか?」
ブラハの右腕は剣に変化していた。それどころか左腕さえ剣になっている。
「俺の親父はなあ、体がものすごく硬くて誰の攻撃も通用しないんだ。俺はその力を完全に受け継げなかったが、その代りに全身を武器にできる能力に変わった。例えばこんなこともできるぞ?」
そう言ってやつは左腕を斧に変える。決して業物ではないが、俺の体なら容易く斬れるだろう。なにせ鬼の力なのだ。弱まっているからといって、人間よりは強いはずだ。
「むろん、俺の力が先ほどまでと同じだと思うなよ?武器にした部分は俺の身体であって身体じゃない。俺の右腕と左腕からは闘いの前と同じ強さがあるのがわかるぞ」
俺の強さはやつから奪ったものが上乗せされている。最初程力の差があるわけではない。
「そんなもの、武器を両手に持ってるのと同じだろ!」
俺は先ほどと同じようにブラハに斬りかかる。だが、近づいた瞬間、俺の頬を何かが掠めた。
「なにっ!」
ブラハの右腕はいつの間にか槍となっていた。
「言っただろう?武器にできるって。俺には距離なんて関係ない。離れれば弓矢を使い、近づいてくれば槍に変え、正面に来たら剣や斧で斬る。武器は壊れたら俺の身体も壊れてしまうが、この武器は俺の身体よりも丈夫だから関係ない。親父を超えることはできなかったが、俺はこの力で鬼族を束ねているんだ。むろん、三人衆も強い。俺らが貴様ら人間に殺されることはない。まあ死ぬ危険のない闘いはつまらんがなあ」
俺はいったん、やつから距離をとろうとするが、弓矢を使われると知り、離れられなくなってしまった。俺の剣は一本だ。二本の剣を相手にするのはきつい。それに剣と打ち合ってもブラハの力は削れないらしい。笑えるくらい俺の能力は通用していないな。『家』は戦闘向きではない、『毒』は効かない、『鼠』は効いているが、本体に届きづらくなった、後は『肝』だが、これ『毒』と闘ったときくらいにしか役に立ってないな。
「戦闘力は互角よりは少し下、耐久力はあっちが上、技術は俺が上か。武器は性能は俺のが上みたいだが、あっちは種類が多い。しかもヒシバとの闘いで剣の消耗がある。せめてこの闘いだけでもってくれよな」
これだけだと俺が勝っているのは技術だけだな。だが、やつの身体に剣が当たれば力を奪い取れるんだ。俺は小さい勝機にかけ、やつに再び斬りかかる。槍は致命傷でなければ、掠る程度ならかまわず無視する。剣と斧のときだけ受け、時には受け流し、奴の身体を斬る。だが、やつは一向に倒れる気配がしない。
「鬼の体力はどうなってんだよ。決して浅くはない傷を何回つけたと思ってんだ……」
「そうだなあ、俺の力はそろそろ半分ほどになるぞ。吸収した分をそのまま使えるんならもうとっくに貴様の方が強くなってるんじゃないのか?」
確かに力はもう変わらないはずが。だが、体力や能力は奪えない。俺は少し焦っていた。そしてその焦りを奴は見逃しはしなかった。
「ほら、左手が留守になってるぞ」
ブラハが俺の剣を弾き、無防備となった俺の左手を斧で斬り落とした。
「ぐあああっ⁉」
左腕が熱い。痛みは感じないが、熱した鉄の棒を当てられてようだ。
「ここまでのようだな。少しだが楽しめたぞ。死ね!」
……本当にここまでなのか?走馬灯のような中で必死に脳を動かす。俺の能力は強敵との闘いに向いているものが少ない。まだ、まだ使える能力は残ってないか?今までどういうふうに闘ってきた?チンピラと闘ったとき、『毒』と闘ったとき、ヒシバと闘ったとき。そうか、『毒』はあれがあったか。はやめに思い出していれば状況は違っていたかもしれないが今となってはもう遅いか。
まだ使っていないのは『家』と『肝』か。肝臓の特性はなにがあった?酒を分解する以外に、だ。思い出せ、確か医療ドラマで何かやっていたはずだ。切除された肝臓はどうなった?……そうだ!たしか8割くらいまでなら再生できていたはずだ!肝臓の特性が再生することなら、『肝』の能力に再生機能もあるはずだ!
「ようやく再生がでてきましたか。やれやれ、手のかかる人ですねえ」
俺の脳内に神の声が聞こえ、能力が強化された感覚があった。
-きも-『肝』
所有スキル:毒解除 死灰復燃 ???
-死灰復燃-
一定以上の身体の部位の欠損が起きたとき、精神力を消費し再生する。ただし、身体の8割以上の欠損は再生できない。血液も再生するが、そのぶん精神力を使用する。
俺の左手の感触が戻ってくる。ひとまずは助かった。それに試してみる価値がある索を思いついた。この策ならあの武器もどうにかできるだろう。
「レンガ、加勢にきたぞ!」
いざ行こうとしたときに背後から俺の名を呼ぶ声が聞こえた。ブラハを警戒しながら見ると、そこにいたのは槍使いのジヒトであった。
「ここまで見てきたが、入口のと、途中にいたでかい鬼は倒されていた。お前の妹たちも無事だ!」
「そうか、それなら気兼ねなく闘える」
「ここからは俺たちで闘うぞ!」
主人公に主人公らしいとこを見せないで他を主人公ぽくさせるスタイル
そういえば、傍狐耳の放送でサンとルナをイメージして絵を描いてくれた方がいましたね。ツイッターなどにのせていればリンク貼らしてもらってもよろしいでしょうか?
他、2、3人くらい描いてくれそうな人に心当たりあるなあ。楽しみにお待ちしています笑