32話 鬼の棲まいし山その6
これで後二戦のみ
つ、つかれた
「チンピラはやはり馬鹿であったな……。だが、その力は本物だ」
「馬鹿ですけどねー。じゃあ次はサンちゃんとルナちゃんの闘いに行きましょうか!」
「そうだな。私もあの二人がどのくらい強いのかまだ知らないのだ。ゾンビは数はいたが強い敵ではなかったからな」
「では次、サン&ルナVSジブの闘いに行きますよ!」
【サン&ルナVSジブ】
「いつもどおり行くよ、ルナ」
「そうだね、サン」
サンとルナは魔物を狩るとき、攻撃はサン、防御はルナと担当を分けているわけではなかった。ハドとの特訓によりルナは足止め程度の攻撃なら行えるようになっていた。また、サンは槍を用いてハド譲りの受け流しを積極的に使うことによりルナの防御に頼るだけにならないようになっていた。
ジブは火、雷、土の魔法を使う。それぞれ、拳大の火、水、土の魔法を打ち出し、二人に攻撃してくる。それを二人は槍と盾で弾き、あるいは受け止めている。
「ほう、どうやら私の魔法をうまく凌いでいるようですね」
「こんなのいくら来たって私たちには効かないよ!」
「サン、次の攻撃は全部私が受けるから、サンはその隙に!」
「わかったルナ!」
ジブの打ち出してきた火魔法をルナが盾で受け止め、サンが走り出す。ジブは自分に向かってくるサンに必死に魔法を使うが、サンは避け、ルナが受け止める。そしてサンがジブの目の前に着き、槍を突く。
「ダーク・エンチャント」
闇魔法の初歩であるダーク・エンチャントは己の攻撃力を上げるものである。魔法により一時的に攻撃力が上がったサンの槍は容易くジブの胸を貫いた。
「ルナ、これで兄ちゃんの加勢に行けるよ!この鬼、思ったよりも強くなかったから、兄ちゃんが闘ってる鬼もそんなに強くないのかな」
「そうだといいんだけどね……」
「どうしたの?」
「んー。上手く言えないんだけど……。思ったよりも強くなくて、これなら私たちの前に挑んだ人たちでも倒せたんじゃないのかなって」
そう、ジブは三人衆にしてはあまりにも弱すぎた。アネモネの能力を完全に打ち消し鬼たちの能力を上げるゼラ、倍になっているチンピラ以上の力と馬鹿げた回復力のあるザンガ、それに並ぶ三人衆にしてはジブは余りにも弱かった。
「私の気のせいなのかな。それとも、私たちが強くなりすぎたとか……、いやでも、さっきの大きい鬼は私でも攻撃を防げなかったし……」
「ルナ、きっと相性が良かったんだよ!さあ、兄ちゃんのところに行こう!」
ルナがサンに促されレンガと族長が闘っている場所に向かおうとしたとき、
「残念ながら、あななたちを行かせるわけにはいきませんなあ。それに私はまだここにいますよ?」
「「えぇ⁉」
死んだはずのジブの声が聞こえた。だが、それ以上に不可解であったのがジブの声があちこちから聞こえてきたことであった。
「いやー。お二人はお強いですねぇ。まさか私の一人が倒されてしまうとは。後で補充しておかなければ。さて、先ほどは私がご挨拶したと思いますが、再度ご挨拶させていただきます」
見渡す限りに広間にいるジブが腰を折る。
「「「「「「「「「「三人衆が一人、ジブと申します。少しの間ですが、お付き合いください」」」」」」」」」」
数えると30はいるだろう。それだけの数がサンとルナを取り囲むようにしていた。
「種明かしをしましょうか。私の能力は鑑定と魔法だと言いましたが、実はそれだけじゃないんですよ。そんなのはあくまで私が積極的に使っているだけの能力です。私の能力、それは人を喰い、吸収し、己とする能力です。もちろん限界はありますがね。だいたい30ほどで打ち止めです。しかし、それぞれが鑑定と魔法が使えるので、こうしてあなたたちを狙い撃ちにできます!」
30体のジブはそれぞれ火、水、土の魔法を放つ。
「そういえば先ほどいくら来ても効かないとおっしゃっていましたね。それが本当かどうか試してみてくださいよ!」
盾は正面からの攻撃は防げる。だが、背後から、左右から来た攻撃には何もできない。拳大の魔法が30、全方向から打ち出されてくる。
「ルナ、後ろの攻撃は私が弾くから、背中は任せ……うっ‼」
「サン……キャァッ‼」
サンが正面から来た攻撃を弾く間に横からの攻撃が当たってしまう。それに伴い、背中からの魔法の一つがルナにも命中する。
「どうです?痛いでしょう?私はこれ以上の魔法は使えませんが、この威力だと簡単に死ねないから逆に満足しているんですよ。ああ、あなたたちが死ぬまでにどれだけの悲鳴を聞かせてくれるのでしょう」
ならば、サンとルナは一体ずつ倒すために、端にいるジブに狙いを定めた。魔法を可能な限り避ける。何度か魔法が当たってしまうが、ジブの言う通り死ぬほどではない。我慢すれば耐えられる攻撃であった。また、ルナは光魔法で回復ができる。
「サン、ヒール・ダブル!
魔法使用者と対象を回復する光魔法を使い、サンとルナはジブの一人までたどり着いた。
「やあっ!」
最初のジブと同じく二人目のジブも容易く貫く。だが、まだ30から一人倒しても残りは29人残っている。
「あと29回がんばるよ、サン」
「うん、回復よろしくねルナ!」
ジブの一人一人は弱い。これなら倒せると二人は勢いづく。だが、ジブの能力はこれですべてではなかった。
「いやあ怖い怖い。私が一人死んでしまったじゃないですか。これは補充しないと」
ジブはそう言うと、自身の体の皮を剥ぐように脱ぎ始める。
「な、何あれ⁉」
「ひっ‼」
それは異様な光景であった。脱ぎ捨てられたジブの皮はみるみるうちに膨らみ、やがて川がジブと同じ大きさに膨らむと口をひらいた。
「こんにちは。まだまだご挨拶が必要でしょうか?」
「私は一度に存在できるのは30人ですが、ストックはその限るではありませんよ?」
「さあ、まだまだ頑張ってくださいね?」
「くっくっくっ」
二人の戦況は最悪であった。魔法を何とか避け、傷を負い、癒し、倒したとしても再び新しいジブは出てくる。
「あと何体倒せばっ!」
「きりがないっ!」
何体倒しただろうか。辺りには10体ほどのジブが胸を貫かれ倒れている。
「サービスです。あと何人私が残っているか教えてさしあげましょう。今12人殺されましたからね、ちょうど80人残ってます。おお、これは大変だ、あと80人殺されたら私はお終いですよ。いやだあ、死にたくないよー」
ジブの一人はそう言い、30人のジブ笑う。
「しかし、あなたたちも可哀想ですね。たとえ私を倒せてもあなたたちのお義兄さんが闘っているのは族長ですよ?私よりお圧倒的に強いですからね。今頃死んでるんじゃなですかね」
「誰か族長を見てきてくださいよ。視界は共有できているんですから」
「嫌ですよ。それを知ったら族長は私を全員殺しますよ」
「闘いを邪魔されるの本当に嫌いますからね」
「どうせ死んでるんですから見る意味ないですよ」
「違いないですね」
ジブは己の勝利を確信していた。故にこの双子をどういたぶろうか考え、まずは心から折ってやろうと結論をだした。だが、それはサンとルナの心を折るどころか火をつけるものとなってしまった。
「兄ちゃんは負けない!」
「それに私たちも!」
兄ちゃん(お兄さん)の妹ならこの程度の敵は二人で倒さなくてはならない。そしてもし族長が手ごわいというのなら二人が助けに行かなければならない。レンガは自分たちを妹と言ってくれたのだ。なら妹は兄の後についていくのみ。
「ルナ、師匠に族長との闘いに取っておけって言われてたけど使うよ!」
「うん、お兄さんを悪く言うこの鬼だけは許せない!」
「矛はすべてが攻撃に!」
「盾はすべてを守り!」
「『矛ハ誰ノ為二貫キシ』!」
「『盾ハ誰ノ事ヲ守リシ』!」
-矛ハ誰ノ為二貫キシ-
精神力を使い、無数の矛を創り出し操る。矛の一本一本に精神力を使うので、創りすぎると保漢者への負担が大きくなる。矛の形状は込めた精神力の分だけ、大きくなり、様々な形にできる。
-盾ハ誰ノ事ヲ守リシ-
精神力を使い、無数の盾を創り出し操る。盾の一枚一枚に精神力を使うので、創りすぎると保漢者への負担が大きくなる。盾の形状は込めた精神力の分だけ、大きくなり、様々な形にできる。
「今更何をやっても遅いんですよ!私の残りは80人!この戦力差はひっくり返せない!さらにまだ私の魔法は全力ではない!」
ジブが一斉に魔法を放つ。先ほどはそれぞれのジブが一つずつしか魔法を使っていなかったが、今度は火、水、土を使う合計90である。
「盾よ!すべてを防げ!」
サンとルナの周囲にジブが放った魔法と同じ数の90の盾が創り出される。盾は砕かれるが、魔法はすべて盾に防がれる。
「なに⁉だが、防いだところで……」
「矛よ!すべてを貫け!」
次いでサンとルナの周囲に創り出されたのはジブと同じ数の30の矛や槍であった。
「全方向、発射!」
サンの合図で30人のジブすべてに矛と槍が向かう。
「な!ぐぁぁっ」
矛はすべてジブを貫き、殺していく。
「だ、だが土魔法を集中して一人にかければおけばこのくらい……。そして一人が残れば私は増える!」
しかし、ジブは増えていく先から貫かれていく。
「こ、この獣の小娘どもがぁ!数がだめなら圧倒的な力で相手してやるよ!」
ジブの体が膨れ上がり、元の5倍ほどの大きさになる。
「ストックを30体以上出すことはできないが、残り50人を一人に集中することはできる。魔法の威力も上がり、そのちんけな盾では防げまいし、俺の体も槍では貫けまい!」
ジブの前に人間と同じ大きさの火魔法が現れる。
「貴様らの盾じゃこれは防げないだろ!もはやいっぺんに殺してやるよ!」
ジブの放った魔法は先ほどの火魔法よりも大きいだけでなく、その熱量も桁違いであった。火傷程度の温度であった魔法は生物が触れた瞬間蒸発する温度になっていた。
「それを待っていたんだ!私たちはもともと強い敵と闘うことを予想していたから」
「たくさんの敵よりも強い敵一体のほうが闘いやすい!盾よ!ありったけの力を!」
サンとルナの前方に大盾が創り出される。先ほど大量に創り出されていたものより大きく、分厚い。いかにジブの火魔法が強力であろうとその盾を燃やし尽くすことはできなかった。
「矛よ!鋭く、長く、強くなれ!ダーク・エンチャント!」
サンの残りの精神力をつぎ込んだ大槍が創り出され、闇魔法で強化される。
「私たちは兄ちゃんのところに行くんだ!貫けぇぇぇ!」
大槍がジブの体を貫き、50の命を削り取った。
「や、やった……。ルナごめん、私もう……」
「私ももう駄目……」
精神力を限界まで使った二人は倒れ、そのまま眠ってしまう。これで倒した、そう安心して気が抜けてしまったのだが、天井からジブが降ってくる。
「奥の手はぁ、最後まで残しておくから奥の手なんだよ!全員を一人に集めるわけねえだろぉがよ!」
30人のジブが貫かれていたとき、即死していないジブがもう一人いた。そのジブは死ぬ直前、さらに一人増やし、天井に土魔法で張り付いていたのだった。
「てめえらのせいで本当に残り一人になっちまったじゃねえか。てめえらを喰ったところで三人にしか増えねえが、仕方ねえ。またそこらの人間を喰って増やすとするか」
ジブはサンとルナに近づき口を大きくあける
「そんじゃあ、いただきまぁ……ぐぎゃっ」
ジブがまさにサンに噛みつこうとした瞬間、突然投擲された槍がジブを貫いた。
「な、なんでだ。このガキは意識がねえはずなのに……」
ジブはそう言い残し、今度こそ一人残さず死んだ。
「今度こそ守れたぞ。村にいたときの俺とはもう違う。だがまだこの奥にもいるようだな。サン、ルナ、お前たちのご主人様は良いやつだ。お前たちの代わりに俺が助けてくる」
槍を投擲した男-ジヒト-はジブから槍を引き抜きレンガの闘う広間へと走って行った。
次は明日書けたらいいなー