31話 鬼の棲まいし山その5
基本的には一つの闘いで一話にします
「さあ次は誰の闘いを見たいですか?」
「順当に行くならばハドとガラの闘いであろうな。だが、それは後での楽しみにもしたいところである。飛ばしてチンピラとザンガの闘いを聞かせてもらおうか」
「はーい!それではチンピラVSザンガの闘いいっきまーす!」
「そなたは何処を目指してそのテンションなのだ?」
【チンピラVSザンガ】
「お前、ざっぎ言っでだやづの言うごどは本当なのが?」
「ああ?何がだ?」
「お前が痩ぜで弱ぐなっだっで話だ」
「誰が弱くなっただ!確かに俺は痩せたように見えただろうな。レンガと闘ったとき俺は『倍』で体格すらも倍になっていたからな。だが、俺の今の姿は素だ!さっきお前のハンマーを弾いたのは能力を使う前の力だったんだぜ。そしてこれが『倍』の力だ!俺に与えよ、『倍化』!」
チンピラの体格、さらに筋肉は倍になっていく。今のチンピラの筋肉、速さ、体力は倍となり、以前はできなかった防御力まで倍となっている。
「以前の俺はただのヒョロイやつで倍にしていなければ何もできなかった。だが、レンガに負けた夜、俺が倍化できる項目に習熟度がでてきた。そっからはひたすらクエストに行ったさ。倍になっているおかでげ筋力はあのときと同じとはいかなかったが、ここまで増えた。すべてはレンガに勝つためにな。さっきレンガに何も言わなかったのは手の内をさらしたくなかったからだ。だが、お前は違う。俺の経験値になってくれよ?なあ!」
「確がにお前は強ぞうだ。ぞれに力だげでなぐ速さも倍になっでいるのならがなりのものだろう。だが、おらもまだ力を解放じでないんだぞ?」
「はっ!なら力比べと行こうじゃねえか!」
チンピラの斧とザンガのハンマーが打ち合う。始めは力が拮抗しているように見えたが、徐々にチンピラが押されていく。
「だがら言っだだろう。おらは鬼族で最も怪力なんだぞ。おらに敵うやづはいねえ」
「お前は以前の俺と一緒だな。俺も力を過信して武器を振り回していた。だが、それではレンガに勝てなかった。俺は力はお前に少しばかり負けているようだが、武器の技術はどうだ?言っただろう、習熟度が倍になったって」
チンピラの斧がザンガの斧を巻き返し、地面に叩きつかせる。その勢いでチンピラはザンガの肩から胴を袈裟斬りにした。斬り落とすほどに深くはなかったが、致命傷になっていることは間違いない。
「どうだ?俺は急ぐんでな。このまま死んでおけ」
チンピラはザンガに背を向け、レンガが行った方向へと歩き出した。だが、
「まだ、おらは死んでねえぞ」
死んだと思われていたザンガが立ち上がった。そのままハンマーを振り回し背を向けていたチンピラに直撃させる。
「なっ⁉ぐっ⁉」
そのままチンピラは広間の壁へと叩きつけられた。叩きつけられた衝撃で広間が揺れる。ザンガの能力は単純である。馬鹿げた怪力と馬鹿げた回復力である。無論、弱点はある。ドラゴンゾンビのときのように跡形もなく消し飛べばさすがに肉体の再生はできない。だが、チンピラにその手段はない。
「くそっ、痛ってえなあ。防御の倍化がなければ死んでたかもしれねえじゃねえか」
「お前はおらより弱え。いぐら攻撃しでもおらは少じの時間があれば傷が治る。お前はおらに勝でねえ」
「なら回復前に殺すだけだ!」
チンピラはザンガに斧を何度も叩きつける。だが、斧を叩きつけ、振り上げるときにはもう再生が終了している。チンピラは再生を止めようと、渾身の一振りを叩きつけるが、再生が終了したザンガの手が斧を受け止めた。
「無駄だあ。お前の攻撃はもうわがっだ。お前の攻撃はおらの回復力を上回っでねえ。おらはお前の攻撃を無視ずれば良いんだあ」
ザンガはチンピラの斧を受けながら前へ前へと進みハンマーを振り回す。チンピラは必死に避けるが、掠り少しずつ鎧が削られていく。先ほどの直撃でへこんでいる部分もある。
「なるほどな。だが、お前は間違っている。俺の攻撃力は足りているんだ。実際にお前は傷を負っている。それでも回復するのは俺の手数が足りていないからだ。」
「何を言っでるんだお前?その斧で手数なんが増やぜるわげがねえ」
「いいや、増やせる。俺の能力を忘れたのか?俺の能力は『倍』、増やせねえものはねえ!『等価倍々』!」
チンピラの『等価倍々』、それは己の能力をそのままにもう一人の自分を生み出す能力である。もちろん、力は倍化になった状態である。
「これで手数は増えた。そういえばお前は田舎丸出しの言葉をしゃべっているが、鬼の中でも馬鹿なほうなのか?俺が一人増えたら何人になるかわかってるか?」
「お、おらを馬鹿にずるな!一人増えだら二人になるに決まっでる!」
ザンガは馬鹿にされたことにより頭に血が上り、ハンマーをさらにめちゃくちゃに振り回す。もはや当たったら防御を倍にしているチンピラですら危うい勢いだ。
「だから馬鹿だっつうんだよ。いいか?俺は倍で二人分の力になってたんだぞ?それがさらに倍になったんだから、答えは四人だ!」
……チンピラも決して頭は良いほうではない。貧しい暮らしであったため満足な教養を受けられなかったどころか、勉強をしたことすらない。チンピラは己の計算法により、四人と言ったが、それまで闘っていたのがチンピラの言う二人分であったのだ。だからザンガが言ったように二人になるというほうが正しい。だが、ザンガも頭は良くない。
「ば、馬鹿な⁉四人だと⁉そんなに増えたらおらの回復力でもとても追いつかない!」
「「大人しく死ねや!」」
チンピラはザンガがひるんだすきに、斧を叩きこむ。片方のチンピラが斧を振り上げるともう片方のチンピラが斧を叩きこむ、まるで餅つきのように。ザンガは抵抗するが、腕を跳ね飛ばされ、足を斬られ、やがて頭を砕かれ、徐々に再生しなくなっていった。
「お前の敗因はその馬鹿なところだ!」
「俺を倒したければ頭を使うんだな、俺みたいに!」
この『等価倍々』という力、まだ使い慣れていないチンピラには反動が起きる。それは一定時間、己の能力すべての半減化である。能力を解除したチンピラは体格ですら元の半分になっていた。
「これじゃ今日はもう闘えそうにないか……。レンガ、お前にリベンジしに来たんだがな、また今度だ。死ぬんじゃねえぞ」
チンピラは洞窟の出口に向かい、仲間を探しに行った。
「お?お前はさっき会ったやつじゃねえか!」
入り口の方から走ってきたのは先ほどチンピラ達が山のふもとで出会った男だった。
「さっきのやつか。何か小さくなってないか?いやそれよりもまだ鬼は残っているのか?」
「ああ、この奥にいるはずだ」
「わかった、ありがとう」
男はチンピラに礼を言い、走って行った。
「あいつ誰だ?まあそんなことよりあいつらを探さねえと。こいつかなり強かったからな、けっこうな報酬期待できるんじゃねえか?これでしばらく飯に困らねえぞ」
頭脳戦をやれと言われたので最後等へんにやりました(なお低レベルの模様)