30話 鬼の棲まいし山その4
ブックマークがたてつづけに2件ふえてうれしいぞぉー
今回からしばらく神視点です
【神視点】
「ここからは、すべてが見えるこの私、神がお送りしまーす!昔から個々での闘いは好きなんですよねー」
「真面目にやれ。そういえば、そなたはまだ名前をつけられていない神だったな。良い機会だ私がつけてやろう」
「ああ、そういえば。可愛いのお願いしますよ?」
「可愛くしては人間に箔がつかないだろうが。そうだな……、レアナというのはどうだ?うむ、我ながら良い名前だ。優雅さがあり人々に慕われる名前となるだろう」
「もうちょっと可愛いのが良いんですけどね……。でもかっこいいから私にピッタリです!」
「……名前負けするなよ?そういえば私の名前は覚えているのか?」
「覚えていますよ!えーと……ヨシダさん」
「誰だ、そいつは!私の名前はヨスガだ!ええい、次は間違えるなよ。それで、各闘いのほうはどうなっている?私もそれなりに気になっているんだ」
「現在の状況は、
アネモネ&ジニア&チンピラの仲間二人VS三人衆が一人ゼラ
ハドVS元族長ガラ
チンピラVS三人衆が一人ザンガ
サン&ルナVS三人衆が一人ジブ
レンガVS族長ジブラ
という組み合わせになってますね」
「彼らの勝率はどのくらいなんだ?」
「それは言えませんねー。かなり高いところもあれば限りなく0に近い組み合わせもありますけどね。三人衆はそれぞれBランク程度の強さがありますし、族長はA相当です。レンガさんは新技があるみたいですけど、それだけで倒せるかどうか……」
「ふむ、だが0ではないのだろう?それに彼には『肝』があるではないか。まだ一つ目の能力しかないようだが、体を模す漢字は強い。多くが身体強化であるから発現すれば勝率が増すのではないか?」
「そうですね!はやく気づいてくれればいいんですが……。では、順に闘いを見ていきますか!」
「本当に人の前では神らしい態度をとっているのだな?そなたよりも新人の神のほうが神らしく見えるときがあるのだが……」
【アネモネ&ジニア&チンピラの仲間二人VSゼラ】
ゼラの咆哮には三つの効果がある。一つ目は咆哮により鬼に恐怖を与え魅了や混乱などの精神状態異常を治すことである。これがアネモネの能力を封じている。二つ目は鬼の能力の向上である。鬼の士気を向上させ体力、攻撃力を上昇させる。これにより倒されていた鬼も生きている限りは時間をおけば立ち上がる。三つめは陣形の指示である。言葉を必要とせず、咆哮のみで鬼の一匹一匹に攻めるべき場所、引き際を伝える。この三つの能力でゼラは今までオソレ山のみならずこれまでの棲み処で敵である人間が攻めてきたとき、相手の数が多くとも対処してきた。
アネモネの能力である『別』は対軍として闘うときにのみその真価を発揮する。だが、今はゼラの咆哮によりその効果は打ち消されていた。
「なら、『伝』の第2の能力、『以心伝心』!」
以心伝心はアネモネが十日間の修行の最終日に獲得した力である。まだ戦闘で使うには不慣れであったため、戦力にはできないと周りには伝えていなかった。だが、『別』が通用しない今、使うしかない。
-でん-『伝』
所有スキル:伝達 以心伝心
-伝達-
遠く離れた者との会話ができる。面識のあるものとなら会話ができるが、相手に意思疎通の承諾がなければならない。心を閉ざしているものには使用不可。
-以心伝心-
一定以内の範囲の生物と痛みを共有する。傷は共有しなく、死ぬこともないが、大きな痛みによるショック死が起きる可能性はある。保漢者の任意により範囲は変更できるが、最大範囲は保漢者の強さに応じる。
「みなさん、私から10m以内には近づかないでください!私の痛みがみなさんに伝わってしまいます!」
「わかったわ」
「「了解です!姐さん!」」
ジニアとチンピラの仲間であるヤエムとセンダンはアネモネから距離をとる。アネモネが『以心伝心』を発動すると、まわりの鬼たちがそれぞれ抱えていた傷が伝わり始める。アネモネもそれに漏れず、全身に痛みが走る。鬼たちの手足、顔といった箇所に攻撃していたのがすべて自分に跳ね返ってきたようなものなのだ。この後の攻撃にまで支障がでるような痛みである。だが、アネモネは覚悟の上で能力を発動していた。人より頑丈な鬼たちが負った痛みを受けるという覚悟を、だ。だが、鬼たちは違う。突然わけもなく全身に痛みが走る。周りを見渡すとどうやら他の鬼が負った傷と同じ個所が痛いようである。
「続けて、『決裂』!」
『以心伝心』によって伝わった仲間の痛みが『決裂』によって恨み憎しみ果ては怒りへと変化する。そのまま仲間うちで攻撃し合い、さらに痛みを共有し合う。これにより何匹かの鬼が倒れる。この時点でアネモネの精神力は限界を迎えていた。アネモネによって倒れた鬼は全体の1割にも満たない。あと何回この痛みを受ければいいのか、想像もしたくなかった。さらにまだ殴り合って居る鬼に向かって
「グガァァァァッ!」
ゼラの咆哮が鳴り響き、殴り合っていた鬼たちが正気に戻る。
「くっ!あと何匹倒せば……。せめてゼラのもとに辿り着ければ……」
アネモネは仕方なく能力の発動をとめる。鬼たちは痛みはあるようだが、それをもう気にしていないようだ。そうなれば自分だけ痛みに苦しむことになる。能力を使った代償か、アネモネは一人になってしまっていた。
「アネモネちゃん!狼に背に乗って!」
そこにジニアの『狼』によって呼び出された狼の配下の一匹が現れ、アネモネを背に乗せる。
「助かるわ!」
「姐さん方、とりあえず俺の後ろに!『土壁』よ、でてこい!」
ヤエムが『壁』の能力である『土壁』を使う。この能力は地面を掘り起こし壁をつくる。土が豊富にあるこの山では使い放題の能力である。
「そこを俺が!『礫弾』!」
センダンの『礫』の『礫弾』により壁から土の弾が発射される。壁は礫の分だけ消費されていくが、すかさずヤエムが補充していく。『礫弾』は実の周りの物質を弾とし発射する。素材は硬ければ硬いほどいいのだが、使ったのは土である。鬼たちへの牽制にはなるが、とても致命的といえるダメージは与えられない。
「今のうちに親玉を討つ作戦を考えてください!ここは食い止めておきますから!」
ヤエムとセンダンはかつてチンピラとともに悪事を働いていたが、根っからの悪人であったわけではない。彼らはチンピラ含め全員貧しい家に育ち生活するのにも困っていた。『倍』の力で金を巻き上げていたが、すべて借金返済や生活費に当てていた。横暴な態度をとっていたのは周りに舐められるわけにはいかないからであった。だが、『倍』を過信しすぎ、レンガに負ける直前までは歯止めが効かない状態であった。三人はレンガに負け、一からやり直すことを決意した。その結果、この場で闘っている。
「アネモネちゃん、ゼラへのとどめは任せられる?そこまでの道は私がつくるから」
「わかったわ!」
「「俺たちも手伝いますぜ!」」
「『土壁』よ、でてこい!」
ヤエムはゼラまでの直線状に土壁を二枚つくりだした。
「礫よ、上方に発射!」
壁を壊そうとする鬼はセンダンの礫が目にあたり視界を奪われる。
「ガー!鬼たちをどかして!」
さらに壁の内側にいた鬼たちは『狼』で呼び出されたガ―とその群れが鬼に噛みつきそのまま壁の外まで飛び越える。しかし、それでも鬼はまだ壁の内側に存在する。ここからはアネモネ一人で抜けるしかない。
「もう一度!『以心伝心』!『決裂』!」
アネモネは再び鬼を混乱に導く。ゼラの咆哮は確かにアネモネの能力を打ち消している。だが、永続的に打ち消せるわけではない。再び能力を使えばまた混乱させられる。ゼラが咆哮を放つために息を吸い込むのが数秒、アネモネにはそれで十分だった。壁の内側に残った鬼はすべて混乱した。残るはゼラ一人である。
「残るは俺だけか。だが、俺は三人衆のなかでは弱いが、それでもそこらの雑魚と一緒にするなよ!女一人殺すには俺一人で十分だ!」
ゼラは持っていた大剣を振りかぶった。確かにアネモネの能力はゼラ本人には効かないだろう。一対一の闘いにはアネモネは向いていない。アネモネが持っているのは『別』、『伝』、そして、雷魔法である。アネモネが唯一鍛え、己の強さとしていた雷魔法である。師匠がこれのみならBランク相当になるといった雷魔法である。
「セービング・ライトニング!」
ゼラの大剣に雷が落ちた。その後、轟音が響き渡る。
アネモネは闘いが始まってから一度も雷魔法を使っていなかった。セービング・ライトニングは魔法を溜め、放つ雷魔法である。闘いが始まってからアネモネはゼラを倒すためにはこの魔法しかないと考えていた。中途半端な威力ではいけない、確実に仕留める攻撃をしなければならなかった。その威力はゼラの体組織を一瞬で焼き焦がし、剣は溶けるほどである。雷が落ちた場所には黒い塊が残り、それが何であったかは見た目ではもはやわからない。
「これでっ!もうっ!混乱は打ち消されない!」
雷が落ち、ゼラが死んだのは一瞬であったため、その痛みはアネモネには共有されなかった。だが、先ほどまで痛みで限界を迎え、精神力のほとんどを雷魔法につかったため、アネモネはいつ倒れてもおかしくない状態であった。アネモネは倒れる寸前まで『決裂』を発動し続けた。『以心伝心』を使ってしまうと意識を失うまでの時間を短くするだけなので使えなかった。だが、アネモネの周りには仲間がいた。『以心伝心』がなくとも少しの混乱で十分だった。
「土壁よ!鬼の四方を囲め!」
「礫よ、限りなく圧縮せよ!発射!」
ゼラの指揮がなくなった今、鬼の制圧は簡単であった。混乱している鬼は互いに殺し合っているため、止めをさすのみであった。アネモネが倒れるのと最後の鬼が倒れるのは同時であった。
「アネモネちゃん、あとはボクたちに任せてゆっくり休んでね。じゃあ、二人とも、作戦通り、正面の鬼を倒しに行こう!」
「「りょ、了解です!」」
「しかし、あなたたち三人が遅れてくる冒険者でよかったよ。ひとり強そうな人が洞窟に向かったからボクたちは安心して雑魚の鬼退治に迎えるね」
「そのことなんですが……。実は俺たちは二人扱いだったんです。うっかりヤエムを頭数に入れるのを忘れてて……」
「え?じゃあ、なんで三人って伝わってたの?」
「もう一人いるみたいなんです。俺たちが山を登ろうとしたときにそいつは現れたんですが、山の入り口の場所だけきいてすぐに走っていったんで俺たちも詳しくは……」
ともあれ、敵ではなく、味方が増えるのだ。不安材料ではないだろう。そう考えたジニアはアネモネを狼に乗せ、正面にいるシダたちに合流しに行った。
かなり長くなってしまいました(私としてはですが)
最後の一人はもう誰かわかりますよね……