27話 鬼の棲まいし山その1
ついにジニア登場!(前からいました)
ヒシバによって被害がでた村は周辺にいくつかあったようだ。被害といっても、生き返ったと思われていた死人が全てあの村でゾンビとなり暴れていたというもので、その村々での直接な被害はなかったようだ。俺たちはアネモネの能力でその村にギルドの職員が向かうよう手配をした。生き返ったと思われていた家族が突然消え、それがゾンビとなっていたというのだから村人の混乱は俺の想像以上のものだろう。死体は焼却してしまったので遺骨のみが返却されるようだ。……とはいえ、遺骨なので誰が誰なのか分からないため、その多くは共同墓地へと埋葬される予定らしい。
その日の夜、ようやくジニアの意識が戻った。
「ご主人様、今までご迷惑をおかけしました」
ご主人様?
いやまあ、奴隷として買っているのだから正しいかもしれないけど、サンやルナ、アネモネのことを考えるとなぁ……。
いや、今はそれより、だ。
「ジニア、俺のことがわかるのか?」
「はい、ボクは意識が体から離れているだけで周りの状況は見えていました。ご主人様たちがこんなボクに優しくしてくれたことも、これからオソレ山に向かっていることも……」
「そのことだ、オソレ山には何がある? 異形の一族というのは何なのだ?」
「ボクが知っていることはすべて説明しますすべては10年前、あの山に『鬼』が住み着いたのが始まりでした――」
【ジニア語り】
――『鬼』は一人の鬼を族長に一族すべてが鬼で構成されている集団型の漢字です。
集団型の漢字。ええ、ご主人様の『鼠』のように複数体の漢字が表す生物が出現しています。ご主人様の『鼠』と違うのは鬼の一人一人が普通の人間よりも強いこと、一族から離れることはなく常に一緒に行動していることです。
問題なのはやつらが男しかいないことです。やつらは異種族の女を攫い、鬼の子を産ませます。幸か不幸か鬼の子を産むのには相当な体力を使うらしくそのまま死んでしまうそうです。ボクの友達もそれで……。
やつらは毎月一人各村から女を要求してきました。ボクたちが逆らえないのをいいことに最近はそれ以外にも女を攫うようになって……。
これ以上のやつらの悪逆に耐えられなくなったボクたちは付近の村の人たち、それにギルドで雇ったDランクの冒険者たちと討伐体を組みました。全員男性です。ボクは女ですが保漢者ということで特別に参加させてもらいました。
いくら鬼の1人1人が強いとは言っても数で攻めれば大丈夫だろうと、しかも闘いに慣れた冒険者がいるのです。勝てると思っていました。しかし……やつらの数は想像以上に多く、さらに強いものでした。
特に強いのが族長とその幹部の鬼族三人衆です。始めは何とか善戦できていたのですが、やつらが戦場に出てきた途端に戦況は一変しました。あっという間に仲間は殺され、ボクも捕まるところでした。なんとか、『運』の能力である『運開放』で逃れるところまではできましたが、その反動で意識を消失し奴隷にされました……
【レンガ視点】
「ご主人様、やつらははっきり言ってボクたちだけでは敵いません! ここまで来ていただいたことはありがたいのですが、もう引き返してください!」
「そうだな、その話をきくと俺たちに勝ち目はなさそうだ。だが、こちらの戦力がどのくらいか知っているか?」
そういう俺もはっきり言って俺もよく知らない。だが、ドラゴンゾンビを倒すほどの強さを持つハド爺、大量の数のゾンビを三人で対処したサン、ルナ、アネモネがいる。特に、アネモネは集団戦には強い『別』がある。俺だって『鼠』や『毒』があるし、ジニアも『狼』が今はあるから前回の闘いよりは強くなっているはずだ。
「そういえば、ハド爺は冒険者としての強さはどのくらいなんだ?」
「そうじゃのう、昔はSランクまでいっとったが、今は年齢のせいでAランクまで下がってしまったのう。全力で闘えばS相当の強さは発揮できるが長期戦には向いておらん」
Sランクって国の命運を分けるくらい強いんじゃなかったっけ? この人そんな重要人物だったのか。
「Sランクって、ハドさんそんなに強かったんですの⁉ 私は師匠に雷魔法だけならせいぜいBの上くらいだと言われくらいなのに……他の魔法がないからC止まりだろうと言われたわ」
いや、十分すごいと思うけどな。俺は今Dだっけ? 『毒』の件で一つ上がったんだよな。
「サンとルナも二人合わせればCランクほどには強くなっておる。以前の闘いのメンバーよりも強いと思う」
え? 俺あの二人よりも弱いの⁉ いや、ランクだけが強さのすべてじゃない。そんなことを誰かが言ってた気がする。誰だっけ? チンピラだっけか?
「で、では……『鬼』を討伐してくれるのですか?」
「ああ、任せろ。まずはジニアの産まれた村に向かおう。それまでに他の知っていることはすべて話してくれ」
ハド爺を始めとした皆が頷いた。
ジニアから聞いたことをまとめると、
・鬼一族は2か月以内(残り三週間ほどだ)に村すべての女を差し出せと要求してきた。断れば村人すべて殺されるらしい。これが討伐体を結成した理由だな。
・鬼族の幹部である三人衆はザンガ、ジブ、ゼラという名前らしい。ザンガは非常に頭が悪いが怪力で討伐体の誰一人としてその攻撃を止められなかったらしい。ジブは頭が良く、討伐体の要であった者たちの弱点を知っておりそのせいで討伐隊が崩れたそうだ。また、魔法の適性が低い鬼族なのにも関わらず魔術使いらしい。ゼラは能力は平均なのだが鬼族を指揮することに長け、崩れかけた鬼族の戦線を何度も立て直したらしい。
・族長の詳細は不明であるが、間違いなく鬼族三人衆よりは強いらしい。族長は鬼族の中で最も強いものがなるらしい。
この情報を手に入れられたのは『隠』の保管者が長年に渡り調査してくれたらしい。残念ながら討伐体とともに死んでしまったらしくこれ以上のことは聞けないという。
「各個撃破が理想だな。族長は俺とサン、ルナで当たりたい。ザンガは相性的にハド爺、任せられるか? いくら攻撃が強くても受け流せば問題ないだろう?」
「うむ、わかった」
「ジブはジニアに任せる。『狼』は俺たちですらまだ能力がわかっていない。前回挑んだからジニアの力は知られてるかもしれないけど、油断したところを新しい力で倒すことができるんじゃないか? 未知数なのはどっちも同じだ。だけど、ジニア、お前は強くなっているはずだ」
「そうですね……ボクの持てる限りの力で闘います!」
「ゼラはアネモネだな。アネモネの対集団戦の能力はかなりのもののはずだ。頼んだぞ」
「任せて!」
「サン、ルナ、お前たちは俺と一緒に族長を担当するぞ。サンが主な攻撃でルナがしっかり守ってくれ。俺は攻撃も防御も特別上手くない。やつの攻撃を引き付ける遊撃役をするから連携してくれ」
「わかった!」
「お兄さんを守ります!」
「他の鬼たちは他の冒険者たちにも協力してもらおう。村に数名はいるはずだ。あの闘いを生き残った冒険者が何人かいると良いんだが……」
さすがに数が多い。族長と三人衆の相手をしているときに他の鬼に攻められてはたまらない。
「それならゾンビを倒しに加勢しにきてくれた冒険者を呼んだらどうかしら。馬車と違って馬を飛ばせば私たちに追い付くと思うわよ」
「そうだな、いい考えだ。そうだアネモネ、シダたちを呼べないか? シダは『行』を所有している。このまま行くよりもっと早くオソレ山に着くはずだ」
「わかったわ。シダさんたち含めて冒険者を呼んでおくわね」
「俺たちは次の村で待機しておくと言っておいてくれ。ジニア、これで早くやつらを倒しにいけるぞ」
「ご主人様……アネモネ……皆……ありがとうございます!」
ジニアは俺に抱き着き、安心したのかそのまま寝始めた。緊張の糸が切れたんだろうな。そのまま俺は馬車の二階にジニアを運び、さらに鬼退治の作戦をハド爺とアネモネと練った
登場人物の名前いつか被らないか心配