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23話 蘇りし村その2

「今、死んだ人を蘇らせると言ったが、それは所謂、医療による蘇生術か?」


「違うわよ。それならただの腕の良い医者じゃない。私が言ったのは完全に死んだ死者の蘇生のほうよ。さあさあ、はやくおいで、もう始まる時間だよ」



 女性に案内された場所は教会であった。もとは村長の家であったらしいが、大司教が村長の娘を生き返らせてくれたお礼に、と改築し教会にしたそうだ。生き返った人間は1ヶ月ほど安静にする必要があるらしくまだベッドに寝たきりらしい。

 3日以内に死んだ人間限定で、それ以上は肉体の腐敗で難しいらしい。一日に蘇生できるのは10人までらしく、この付近の村を周って今までに200人以上を蘇生してきたらしい。


「まだ大司教がこの村に来てまだ20日程度なのか?」


「そうだよ。1ヶ月前に蘇生の力を手に入れたらしくてね。まずこの村に来ていただいたのさ。そのときに村長の娘を生き返らせてもらってね。そのときの村長の嬉しそうな顔といったら、私まで思わず泣いてしまったほどだよ。村長はその日には教会を立てる指示をだしてね。それだけ感謝しているのさ」


「大司教は何か見返りを求めているのか? それだけの力だ。高額な礼を求められてもおかしくないじゃろ」


「それが、何もいらないと言ってるんだよ。私らもそりゃあお礼を渡そうとしたさ。村長のとこの娘は小さいころから面倒を見てきたからね。私の娘みたいなもんさ。でもあの人は食べ物と泊まる場所があればいいって受け取ろうとしなかったんだ。まさに聖人だよ」


 本当にそんなやつがいるのか? まあ俺たちは明日にはここをでる。怪しいやつなら村に一言いうくらいしておこう。





 教会に入るとそこには1人の男がベッドのそばに立っていた。


「む。旅人か。なるほど、私の奇跡を見に来たというわけか」


「ああ。静かに見ているからどうか許してくれ」


「ふむ、許可しよう」


 大司教とやらは30代半ばほどの男であった。

 顔は整っているが眼光は鋭い。優し気な老人を思っていたが、それとは正反対のどちらかといえば軍人のごとき雰囲気を持っている。



 儀式はすぐに終わった。死んだと思われる男が横たわったベッドに大司教が近づき、手をかざすと、男は起き上がった。男の家族が近づこうとしたが、大司教がそれを手で止めた。


「まだ魂と体が完全には癒着していない。1ヶ月ほど私以外が触れないように。その間は話すことはできないし、食事なども必要ないから家で寝かせておくとよい」


 家族はしきりに頭を下げ、謝礼の入った袋を渡そうとしている。


「そういうのはいらない。私はできることをやっているだけだからな。この『蘇』の能力でな」


 やはり漢字の能力か。『蘇』……つまりは蘇生の能力。

 大司教はさらに3人ほど生き返らせると、俺たちのほうに近づいてきた。


「君たちがこの村に来たのは私の噂を聞いてか?」


「いや、旅の途中だ。野営をしようかと思ったがこの村を見つけたので泊めてもらっている」


 俺は今、オソレ山を目指している事情を話した。


「ほう、君たちはアマルから来たのかね。しかも仲間のためにあのオソレ山へ行くとは。若いのに立派なことだな」


 大司教は俺たちを若いと言っているがそう俺とはそう変わらないように見える。この男が30代半ばくらいだろうから10歳くらいの差だろう。……ああ、サンやルナ、アネモネやジニアはまだ若いか。

 俺とハド爺くらいだ20を優に過ぎているのは。


「オソレ山のことを何か知ってるのか?」


「私も修行中にきいた噂だが、異形の一族が住み着いたらしい。まだ周りの村は襲われていないが、期限内に生贄を出さないと村の者を皆殺しにするとか」


 それがジニアを急がせる原因か。異形の一族……漢字絡みなのは間違いないだろうが、大丈夫だろうか。


「サン、ルナ、もしかしたらお前たちを危険にさらしてしまうかもしれない。だが、俺ができるだけ守ってみせるから心配するな」


「兄ちゃん、私たちだって強くなったんだよ!」


「それに師匠もいますし、みんなで力を合わせれば大丈夫ですよ」


 そいつは頼もしいことだ。道中での魔物との闘いを見る限りでは任せても良いようにもみえるが、できることなら闘ってほしくはないよな。


「一族に挑むのか? それなら一度村の方に行くとよい。以前挑んだ者がおるかもしれん。尤も、無事に帰ってるかはわからないが。気を付けるがよい」


「やはり危険か。忠告ありがとう」


「なに、私も聖職者だからな。人を救うのが私の役目だ」


 どうやら良い人のようだ。一応、鑑定しておこうか。俺が鑑定しようとしたとき、


「すまないが、鑑定はしないでもらえるか? あまり私は好きではないんだ」


 なんで鑑定しようとしたことがわかるんだ?


「レンガよ、ある程度の強さになると鑑定しようとしている気配がわかるぞ。どうやらあやつ、只者ではないらしい」


 ハド爺が俺に囁く。そういえば、ハド爺も鑑定しているときに気づいていたっけ。


「すまない、癖みたいなものでな。気を付けるよ」


「いや、私のほうこそすまないな。今日はこの村に泊まっていくのだろう? よかったら共に夕飯を食べないか? 君たちの話もききたい」


 俺たちは教会で夕飯をごちそうになった。村から唯一貰っている食事が豪華すぎるらしく食べきれないらしい。俺たちもアイテムボックスに残っていた街の屋台で買った食べ物を取り出し、分け合って食べた。





 その日の夜、大司教と話が盛り上がった俺とハド爺の三人はそのまま酒を飲み続けた。司教である身ながら酒は好物みたいだ。解散するころには大司教はかなり酔っているようで、足元がふらついていた。

 …これなら鑑定できるかもな。俺はいたずら心が湧き出て、つい嫌だと言われていたのに鑑定をしてしまった。


-ヒシバ-

所有漢字:『屍』

所有スキル:火魔法 水魔法



 なるほど、ヒシバという名前か。大司教とばかり周りから言われていたから名を訪ねるのを忘れていた。

 ……ん? 所有する漢字が『蘇』じゃないみたいだ。『屍』となってるぞ。


「おい」


 大司教から声がかかる。

 やばい、気づかれた。


「どこまで見た?」


「『屍』ってとこを……しかし、『蘇』はどうしたんだ?」


「そんなものは最初から所有してないさ。チッまだ数は少ないが、しょうがない」


 大司教の雰囲気が変わる。

 これまでは穏やかだったそれが、最初に見たあの軍人のようなものへと。


「でてこい屍たちよ! ……窓の外を見るがよい。面白いものが見れるぞ」


 大司教――ヒシバ――が叫んだあと、村中から土が掘り起こされる音がした。慌てて窓を覗くと、そこから見えた景色は、大量のゾンビが歩く村だった。


 




敵にしようか味方にしようか悩んだけど、敵にしました

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