20話 旅の準備
書き始めのペースを取り戻したい
「では行ってくるからの」
ハド爺とサン、ルナの三人はギルドで受けた魔物退治のクエストに出かけて行った。修行は完了していたが、まだ実地訓練をしておらず、ジニアの意識が戻るまでは定期的にクエストに出かけてくるみたいだ。
魔物退治といっても『魔』の大元である魔王や側近の幹部ではなく、『魔』が生み出した量産型の生物である魔物の退治である。だが、魔物は生物であって生物でない。常識で挑んだら死の危険性もあるらしい。明らかにパワータイプであろう大型の魔物が魔法を頻繁に使ってきたり、魚型の魔物が陸地を泳ぐこともあるらしい。
落ち着いて対処できればそこまでの強さではないらしいが、やはり初見では倒すのが難しいらしい。ハド爺は今までに数多くの魔物を倒してきたのでよほどのことがない限りは任せてほしいと言っていた。ハド爺いわく魔王はさすがに難しいが、幹部レベルなら大丈夫らしい。どれだけ強いんだ。
ジニアの意識が戻るまであと4日だ。戻ったら旅に出られる。それまでできることはしておきたい。
まずは漢字の能力の強化だな。ジヒトは『毒』との闘いのときに能力が強化されたと言っていた。俺は『毒』戦以降は特に闘いらしい闘いはしていない。ハド爺も経験を積んでいけば自然と強化されていくから焦る必要はないと言っていた。使い続けることが強化に繋がるらしい。俺は日課にしてある毒の生成とフォルの分裂を午前中に行い、午後は旅支度を始めた。
「まずは馬車か。馬はハド爺の知り合いに譲ってもらえるんだっけか。あとは馬車の調達だけど…」
-いえ-『家』
所有スキル:一戸建 馬車建築
――戸建――
自分の理想とする家を創造し、固有の空間に保存できる。ただし、想像できる家はひとつのみ。保存する場合は生物は家の中に入れない。
――馬車建築――
自分の理想とする馬車を建築し、固有の空間に保存できる。ただし、想像できる馬車はひとつのみ。保存する場合に生物は馬車の中に入れないが、馬車に付けられた馬はそのまま保存が可能。
「なんてタイムリーな強化なんだ!」
俺は思わず叫んでしまった。よかった、周りにはジニアしかいない。
アネモネは夕飯の買い出しに行ってもらってる。アネモネは意外と料理ができるんだよな。今日は何を作ってくれるんだろう。
じゃなくて、この能力なら馬車を用意する必要もないな。家を創造したときは『家』のときのような一般的な家になった。サンとルナと一日だけでも生活できたのがよほど俺の中で理想的だったのだろう。
俺はさっそく広い場所へ行くと、馬車を創造した。
「おお!随分でかいな!」
その馬車は2階建ての馬車になった。確かに6人ほど乗る馬車なので大きいほうが良いが馬が何頭か必要になりそうだな。
「お、内装も良いな」
ふわふわとした椅子でこれならサンとルナもお尻を痛めることもないだろう。
2階はどうなってるんだ……おお! ベッドとか冷蔵庫があるぞ。疲れたらここで休めるな。馬のことだけハド爺に相談案件だな。後は旅にプラスになることばかりそうだな。
「あんたがハドさんの旅のおともになるってやつかい?」
街をぶらぶらして果物屋でサンとルナのお土産にと果物を見ていたところ、店主に話しかけられた。
「そうだが? ハド爺が旅にでるのがそんなに噂になってるのか?」
「そりゃあな。ハドさんが頼まれ屋なのは知ってるな? ハドさんと漢字を倒すとな、高確率で漢字に認められるんだよ。もちろん、必ずじゃない。適正がなければ選ばれないからな。だが、ハドさんはなぜか漢字に選ばれない。本人曰く、所有している漢字が強大過ぎて、他の漢字が怖がってるんだとよ。あくまで噂だけどな」
「俺は今まで攻略した漢字に選ばれてきたが、選ばれないこともあるのか」
「ああ、倒したときや攻略したときにその場の誰にも適正者がいなければ漢字は大聖堂に行く。じゃなけりゃ英雄レベルの人間が一人で何百の漢字を所有することになっちまうからな。大抵は倒すことで認められるんだけどな。あんたは運が良かったみたいだな」
俺もこの先倒した漢字に選ばれないことが起きるんだろうか。まあ選ばれなくともその場の災害が消えると思うことにするか。
ハド爺は「指」と「流」を所有していたが、その漢字ではなさそうだ。強大と言うにはあまりに普通すぎる漢字だ。となると、残り一つの漢字なのか。
「まあ、俺は果物屋だからハドさんがいなくなったら寂しくなるだけだが、他の冒険者には気をつけろよ。漢字狙いでハドさんとクエストに行っていたやつはいたからな。そういうやつほど弱かったり選ばれないことが多いんだけどな」
「わかった、ありがとうな。俺にはこいつもいるから大丈夫だろうがな」
俺はフォルの大群を召喚して見せた。訓練のおかげか召喚前に分裂させられるようになっていた。
「こいつがいればそこらの冒険者数人なら問題ないさ。それに俺の仲間はハド爺直々の修行を受けてるしな」
「そいつは頼もしいな。よし、ハドさんの旅路を祝って果物を安くしておこう」
「そいつは助かる。なにせ食べるやつらがいるからな」
俺は果物屋でいくつかの甘そうな種類の果物を選ぶと抱えきれないくらいの量を買っていった。アネモネのつくる夕飯の後にだそうかな。アネモネも果物は好きだと言っていたし喜ぶだろう。
その日の夕飯はアネモネが作りすぎてしまったため、果物の出番はなくなってしまった。サンとルナには明日な、と言い聞かせた。食べ過ぎはよくないからな。
もう少しだ、もう少しで旅にでるからバトル展開待っててくれ