番外編 アネモネの想い
【アネモネ視点】
私が生まれたのはこの国の隣に接する国、ラザー国だった。
国の誕生とともにあるくらい歴史のある貴族に生まれた私には自由といっていいものはなかった。その家は魔術を研究することが目的で始まった貴族であり、今でこそ研究は行われていなかったが魔術を誇りにしていた。
しかし、私が10歳のとき受けた魔術適性では雷の適性しか得られなかった。それは代々2種類以上の適性を得てきた家系から見れば異端であった。
私は家族からいなかったものとして扱われた。幸いなことに離れに隔離されたが、勉学に励むことができ私は唯一使える雷魔法に長ける魔術師に師事することで雷魔法だけは家の者よりも扱えるようになった。
しかし私の不幸はそこではなかった。ラザー国が隣国に戦争を仕掛け、敗戦したのだ。
国は解体され私の家も没落となった。私は国の借金を払うためとして奴隷として売られたのだった。
私は理不尽だと思った。最近になり雷魔法をようやく師匠に認められるようになったのだ。師匠はそのまま国を出ていき、私は奴隷として生きていくことを余儀なくされた。
奴隷となったことを認められなくて何度も奴隷商に逆らった。そのたびに私の体には傷ができていった。このまま死ねたらいいのに、そんなことを考えていたときだった。私はレンガという男に買われた。 私とて20歳である。男に買われるということがどういうことかわかっていた。レンガは年が近く少し年上なくらいであった。脂ぎった40くらいの男よりはマシだ、そう思い覚悟した。
だが、レンガは私が望むことをしていいと言ってくれたのだ。共に買われた奴隷であるはずのサンとルナはレンガの妹となり、私はしばらくは精神が消失しているというジニアという女の子の世話だけしてほしいと言われた。
この男は奴隷の主らしくない。だが、それでよかったと思う。不自由であった貴族で産まれ、未来はないと思っていた奴隷になったが、私の夢であった自由な旅ができるのだ。
奴隷になって数日後、レンガはクエストを受けたようだ。危険はないと言っていたが、クエストを受けて3日後、共にクエストを受けた仲間らしき男たちにレンガは担ぎ込まれてきた。目立った怪我はなく気絶しているだけのようだったが、闘った相手が『毒』であると知ったときは血の気がひいたものだ。
『毒』といえば私のいた国でも有名な漢字だった。30年ほど前だが私の実家が統治していた村もいくつか壊滅させられたらしい。
そんな漢字をよく倒せたものだ。どうやら私の主はそうとう強いらしい。
サンとルナは気絶したレンガを見て大泣きしていたが、やがて泣きつかれて眠ってしまった。私はその間いつレンガが起きてもいいように食事の用意をしたり定期的に汗を拭いたりしていた。
翌日レンガは目を覚まし自身が元気であることを伝えてきた。だがあからさまな空元気であった。少なくとも今日はゆっくり寝ててもらわないといけない。サンとルナがレンガの世話役を買ってでてくれたので私はギルドなどレンガが世話になっていた各所にレンガが目覚めたことを伝えに行った。
レンガの無事に安堵している人は予想外に多かった。特にチンピラという男はしつこくレンガの状態をきいてきた。レンガはこの男に何をしたのだろう。よく考えれば私は自分の主のことを何も知らない。謎な男である。
レンガは今日は私とジニアを連れて街に行くという。サンとルナは稽古である。
ジニアも一緒だが意識があるのかないのかわからない状態なので実質二人きりででかけるということだ。私は昨日からなぜか鼓動が速く動いているのを感じていた。
アネモネが第1ヒロインぽいですが作者はまだ双子のヒロイン化計画をあきらめていません