15話 枯れた村その3
その3というかまあその後ですね
目が覚めるとそこは見慣れた宿の天井だった。そばには奴隷……いや、俺の家族たちがいた。
サンとルナが寝ており、ジニアは…寝ているのか? アネモネは俺が起きたことに気づくと汗を拭いたり食事の用意をしたりと甲斐甲斐しく世話を焼き始めた。俺はアネモネに汗を拭かれながら事の顛末をきいた。
毒に侵されていた村の人たちは『毒』を倒したことで治ったらしい。しかし、残念ながらというか当たり前というか死んだ人たちは生き返らなかった。もっとはやく倒せていれば助かった人もいるかもしれない。悔しいな、もっと強くなりたいよ。
毒が治ったシダたちは『行』の能力で街に戻ってきた。ギルドで俺の泊まっている宿を聞き出し、俺を送り届けたらしい。俺が目を覚ましたことをシダ達に伝えてくれと起きたサンとルナに頼む…のは無理だな。俺から離れてくれない。
「よしよし、心配かけたな」
「兄ちゃんがもう目を覚まさないかと思ったの!」
「私たちを置いてどこかに行かないでください!」
俺は泣きながらしがみつくサンとルナの頭をなでながら、アネモネにギルドまで行ってほしいと頼んだ。一番冷静なのは大人だけあってアネモネだな。俺はアネモネが戻ってくるまでひたすら二人をあやし続けることにした。
「ギルドは大騒ぎだったわよ、どうやら『毒』はかなりの大物だったらしいわね。明日、レンガさんがギルドに行くということになったけど大丈夫?」
「このとおり、大丈夫だ。」
俺はベッドから起き上がるとサンとルナを抱き上げた。おっと、すこしふらつくな。
「だめなの!大人しくしてなきゃ!」
「お兄さん、今日は私たちがお世話をしますから寝ててください」
俺は二人にベッドに押し戻され、そのまま夜まで二人に世話をされた。10歳の女の子にご飯まで食べさせられてしまったよ。
翌日、完全とはいかないが回復した俺はサンとルナをつれてギルドに向かった。今日は稽古を休みにしてもらったらしい。
「あ、レンガさん! 今回もお疲れ様です。あちらでシダさんたちがお待ちです。今回の『毒』のお話をお聞かせください」
「わかった」
案内された部屋にはあのときのメンバーが集まっていた。それに知らない老人もいるな。ハド爺の件もある。老人は強いイメージが俺に着実に植え付けられている。この老人も只者ではないだろう。
「今回はよくやってくれた。『毒』は10年前から出現が確認されていなかったが、それ以前までは何百人も殺しては次の村々を渡り歩く要注意漢字だったのだ! ……申し遅れた、私はギルドマスターのメドだ。『脳』を所有しているおかげで漢字の情報はすべて持っているからマスターに選ばれただけだがな」
『脳』……人体で最も重要な器官の一つじゃないか。そんな漢字を所有しているということはけっこうな大物なんじゃないか、この人。
「『毒』はわずか5分で小隊を殺したというらしいぞ。よく俺たちだけで倒せたもんだ。いや、ほとんどお前のおかげだな」
「何を言ってる。シダのおかげで『毒』がこれ以上被害を出す前に追い付けたし、ジヒトのおかげでやつを倒す決め手ができたんじゃないか。他の二人もいなかったらどうなっていたかわからない。四人がいたからこそ『毒』を倒せたんだ」
それは俺の本心だった。ぶっちゃけ俺は『肝』のおかげで毒にならなかっただけだ。
「それでだな、報奨金の話に移ろうと思う。今回ギルドからは200万エンを報酬として出すつもりだ」
「ということは一人40万エンか」
それが今回のクエストの報酬として多いのか少ないのかわからない。まあ偵察として依頼されていた金額よりは格段に多いのは間違いない。命が掛かっている依頼と逃げてもいい依頼。どちらがより危険であるかは歴然だ。
「違うぞレンガ、一人200万エンらしい。合計1000万エンだ」
「……は? まじかよ。いや、多い分にはうれしいが」
「それだけ今までに『毒』がだした被害が大きかったのだ。君たちがいなければ今頃この街もどうなっていたか…」
まあ貰える報酬が大いに越したことはないけど。数日分の生活費を稼ぐために依頼を受けたはずがとんでもないことになったな。
これでアネモネとジニアにも適性があるか調べられるな。それに俺の装備も新調しなければいけない。溶解毒でかなり溶かされてしまった。武器屋の親父に申し訳ないが新しいのを買わせてもらおう。
宿に戻りルナとサンを置いて俺は武器屋に向かった。失った剣の代わりになる者を手に入れなければならないし、失ったことを親父に謝るところを二人には見せられないしな。
「気にするんじゃねえよ。武器防具ってのは消耗品だ。どんな名剣だって鎧だって使っていればいずれ錆びて壊れちまう。壊れちまう前にどれだけ仕事をさせてやったか、どれだけ持ち主の役に立ったかが分かれば俺には十分さ」
特に剣が溶けてしまったことを親父は気にしていないようだ。
有難いような少し寂しいような……。
「この溶け方は尋常ではない敵と闘った証拠だろ? なら胸を張れこそすれ、悔いることはない。ほら、新しい剣だ。前のやつよりも活躍させてくれれば俺も
そう言って、新しい剣を売ってくれた親父は笑顔で店から見送ってくれた。
『毒』よりも活躍か……難しいだろ。たまたま相性が良くて、仲間の力を借りたから勝利できただけで、もし同等の力を持った別の性質の敵なら勝てる気がしない。
強くならなきゃいけないな……しみじみそう思う。
武器屋からの帰り道、ジヒトが話しかけてきた。
「レンガ、その、お前のとこにいる奴隷に双子がいるってのは本当か?」
そういえばあの二人はギルドの受付にいたからジヒトは見なかったんだな。真面目な話し合いに子供たちは連れていけないから受付に預けていたんだった。二人の可愛さに受付嬢のアミ達は骨抜きになっていた。
「ああ、そうだが?」
「その双子は幼い子供だというのも?」
「本当だが…?」
「そうか、良いやつに拾われたようだ」
双子のロリの所在を確認するって……やばい、こいつロリコンだったのか? ジヒトは最後に何か嬉しそうに呟くと去って行った。何だったんだろう?
いったん宿に戻り夕方になってから再びサンとルナを連れハド爺のところに行き、今回の『毒』のことについて話した。サンとルナを通じて話をきいていたのだろう。ハド爺は安心したかのように息を吐いた。
「よし、今日は祝いじゃ。お主酒は飲めるじゃろ?」
確かに今日は飲みたい気分だ。だが、喜びからではない。今回の犠牲者を憂いてだ。それを伝えると
「まあそれも良い。じゃが、いつかは吹っ切れないといかんぞ。背負いきれなくなる時が来る。そのとき、お主は潰れてしまうぞ」
「大丈夫!」
「そのときは私たちが支えますから!」
サンとルナが俺を支えるように両腕にしがみついた。
「そうじゃったな。お主には妹が二人もいるんじゃったな。さて、お主たちはもう帰った方がよいぞ。これからは大人の時間じゃ」
「むー私たちだって大人だもん」
「お兄さんもそこで笑わないでください」
いや……だって必死に無い胸をそらしているんだもんな。
「お前たちは将来有望な美人さんだぞ。ゆっくりでいい、成長してくれ」
俺は良いことを言ったつもりだったのだが、
「だから、大人だもん!」
「はやく成長したいです…」
彼女たちには不満だったらしい。だが、ハド爺と話しているうちに二人は眠くなったのか目をこすり始めた。
「そのまま寝ていいぞ。帰りはおれが抱えてやるから」
「だから子供扱いしないでぇ……」
「まだ起きてられますぅ……」
そんな眠そうな声だしといて何言ってるんだか。やがて二人は完全に寝てしまった。
俺の両膝を枕にした二人の顔を眺めながら俺は明け方になるまでハド爺と静かに酒を飲んだ。たまに思い出したかのようにハド爺の昔話を聞きながら。
これで『毒』編は終了です
次回はアネモネとジニアについてですかね