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13話 枯れた村その1

 異変があった村の偵察、それが俺が今回受けたクエストの内容だった。偵察だけなので戦闘能力は最低限でいいが、人手が必要らしい。

 偵察と人手。フォルの分裂があればたやすいだろう。100余りにまで分裂のできるフォルからの連絡を離れた場所からでも受け取れる能力があれば歓迎こそされど邪険にはされないはず・

 俺はそう考え、このクエストをともに受けるパーティーのもとへ向かった。

 報酬は一日3万、3日とも引き受けてくれれば10万エンという報酬だ。生活費の足しになるうえにサンとルナに何かしらのお土産くらいなら買ってやれるだろう。



「なんだかそんなに強そうに見えないな。俺たちのパーティーはあまり闘えるやつはいないんだ。戦闘の半分くらいは任せるかもしれないけど大丈夫か?」


 開口一番にそんなことを言われてしまった。偵察のための人手が欲しいって話じゃなかったのか?

 俺が臨時として入ったパーティーはリーダーであるシダ、斥候のユズ、回復役のローズで構成されているようだ。全員保漢者であるらしく、これまでも魔物の討伐や今回のような調査で活躍してきたようだ。しかし、直接漢字と闘うことはないらしい。理由はメンバーに戦闘員がいないからである。魔物よりも漢字との闘いは圧倒的に危険が伴うしな。

 というか、男一人と女二人ってこいつハーレム気どりかよ。心なしかユズとローズは牽制し合っているように見える。

所有している漢字は教えてくれなかったが、逃げるときは便利なんだそうだ。教えてくれないのかよ。俺、入るパーティー間違えたかな……。





 依頼された村まではシダの『行』の能力で行った。連続で発動はできず、次回発動まで半日ほど時間がかかってしまうが行き先さえわかっていればどこにでも行けるらしい。よかった、本当に後で能力を教えてもらえた。


 初日の仕事は何事もなく終わった。村は体調を崩したものだらけでギルドに戻ったら回復系の漢字持ちを派遣してもらうよう伝えることになった。ユズとローズがシダとイチャイチャしているのが気に食わなかったが、仕事はちゃんとしていたのだから何も言えなかった。

 俺もフォルを分裂させあちこちの調査に向かわせた。何か原因になりそうなものでも見つかればすぐに知らされるはずだ。ガスが噴き出ているのかもしれない。永病が流行っているのかもしれない。それとも食中毒でも起きているのだろうか。

 三人はフォルの分裂に感心していたようだが、それよりもフォルの可愛さに目を奪われていた。シダの能力を教えてもらえたのもフォルのおかげかもしれん。まあ結局、フォルは何も見つからなかったようだ。





 二日目は昨日とは大きく違っていた。体調を崩すだけでなく死者が大量にでていたのだ。パーティーのメンバーも体調が悪いように見える。何なんだ? 一体何が起きているんだ?

 村の者から集めた情報を整理すると3日前に、旅人がやってきたらしくその旅人が去ってからこうなったらしいのだ。明らかにそいつが怪しいな。

 メンバーの体調が悪いので早めに切り上げ、翌日に旅人が去った方へ行くということになった。念のため、ユズとローズの漢字を教えてもらっておいた。ユズは『軽』、ローズは『治』らしい。


 『軽』は仲間の体を軽くし、スピードを速めることができるが、慣れるまではふらつく可能性があるらしい。一度掛けてもらったが、確かに歩くことすら難しくなっている。体験したことはないけど無重力状態に近いのかな。


 『治』は傷を治せるが、傷だけなので傷がもとになった病気――例えば破傷風――などは治せない。村の人たちを治せなかったのもそのためだ。彼らには傷が見当たらなかった。


 昼に帰ってきたこともあり、俺たちは翌日の集合時間を決め、その日はもう一人仲間の募集をかけた。もし原因らしき旅人に出会ったとき対処できるかわからなかったからだ。日も暮れ、諦めようかと思いはじめたころようやく一人を見つけその日は解散となった。



 翌日、俺たちは旅人がいると思われる場所の近くの村まで『行』の能力で移動した。


「どうなってんだ、こりゃ……」


 シダが呟いた。シダが言ったとおり、どうなっているんだ。周りの草木はすべて枯れており、人々は全員死んでいるようだ。


「ゴホッゴホッ……っ!?」


 そのとき、ユズが咳をしていた。しかも吐血をしている。なにかやばい、引き返したほうがいい。そう思った直後、


「私を追ってきたか。それとも偶然か。まあいい。私を倒さない限り君たちは逃げられない」


 タキシードを着た男が現れた。

 どこから現れたのか。それも気になるがそれよりも……この禍々しい空気。全てを暗く、重くさせるような雰囲気を纏った男になぜここまでの接近を許してしまったのだろう。


「元凶のお出ましか。くそ、『行』は使ったばかりだからまだ使えない。ユズ、『軽』は使えそうか?」


「そんなに長くはもたないけど、少しなら大丈夫」


シダが盾を構える。『軽』の力と大盾で守りながら撤退する気なのだろう。


「なら俺にかけてくれ。この中じゃ一番戦闘向きだ」


 それは昨日仲間になってくれたジヒトという男だった。漢字は『槍』と『直』である。


 『槍』は『矛』と同系統だが、より槍系統の武器に熟練している。しかし、特殊能力はなく槍の技量を高めることしかできないようだ。


 『直』は一方向への攻撃力を高める能力だ。『槍』と相性はよくこの二つの漢字を使うことで貫けなかったことはないそうだ。


「くらえっ!」


 『軽』の力で速度の上昇した、辛うじて目で追うことができるほどのジヒトの槍が男の体を貫いた…ように見えた。だが、槍は男に当たると同時にぼろぼろになってしまった。


「なに⁉」


 ジヒトは槍を見るとすぐさまこちらまで下がった。


「賢明な判断だ。そのままなら君はすぐに死んでいた。いや、その方が一瞬で死ねて楽だったかもしれないねえ」


 ……まずいなこれは。

 攻撃が通用しない。どうしようかとシダたちの方を見ると見ると吐血し始めている。ジヒトも辛そうだ。


「ん?なぜ君はそんなに元気なんだい?」


 男は俺の方を見て言う。俺も結構辛いんだけど……いや、血も吐いていないし、ユズがすでに立てなくなるほど辛そうなのに対し俺は少しくらっとしただけか。しばらくするとそれも治ってくる。考えられるとしたら、


「……これは、そうか『肝』か? 『肝』で俺だけ大丈夫というならあんたの正体は『毒』か?」


 『酒』ってことはないだろう。ふらつきこそすれ血を吐くならば『毒』のほうがお似合いだ。


「正解だ。ご褒美といってはなんだが、これで君たちを絶対に逃がすことはできなくなったよ」


 『毒』が笑う。禍々しさをそのまま圧縮したかのような不気味な笑顔だ。

 まともに闘えるのは俺だけか。しかもやつは毒を使うだけでない。ジヒトの槍をぼろぼろにした能力は何なんだ? ピンチは相変わらずだな。というかより酷くなった。


ようやく敵らしい敵がでてきましたね

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