92話 戦争開始
一日目で俺とガーベラが112人。
二日目で俺とブレゴリオが345人。
合計457人の青白い住人。これが俺の知る集められた最低人数である。
一日目でブレゴリオとカナリアが、二日目でガーベラとカナリアが何人集めたのか詳しくは分からない。だが、恐らく合計すれば今の数の2倍にはなるだろう。
1000人弱。これだけいれば十分だろう。
ブレゴリオはより大きな見世物をこしらえればもっと大勢集められただとか、ガーベラは自分の誘惑に耐えきった住人がいるからこの世界はやはりどこかおかしいだとか言っているが、これで足りないのか?
兎にも角にも約束の三日目である。
【戦争】開始の日。家の前には集めた1000人弱の青白い住人、そして俺達4人がいる。
俺とブレゴリオ、ガーベラ、カナリアは家の前で立ち、腕を組んで待っていた。
「……なあ、ティミドはまだ戻らないのか?」
「昨日から戻ってないわ……まさか敵にやられたんじゃないわよね」
「……有りえる話」
【戦争】開始の日であるにも関わらず、ティミドは昨日の朝に家を出てから戻ってはいなかった。何時、『冥』が現れてもおかしくない。それまでに5人で揃っていなければならないはずなのに。
「いいえ、問題ありません。ティミドさんは後に送り届けます」
突如俺たちの背後――家の玄関から幼い舌足らずな声が聞こえた。振り向くまでもなく分かる、『冥』であろう。
「そうか、なれば行こう。余に次の闘いを用意せよ」
振り返ることなくブレゴリオは急かす。
ティミドは遅れて来るってことでいいんだな?
「そうね、なら問題ないわ。あんなのでも大事な戦力。欠けるのは避けたいわ」
「……期待してていいんだよな、ティミド」
遅れて来るってことは仲間集めに勤しんでいるってことだろう。
遊んでいて遅れるとか、そんなことはしていないと、昨日の朝のティミドの言葉が否定してくれる。
「では、出発します。一度目を閉じてください。次に目を開けたときにはもう戦場に到着です」
『冥』の言う通りに3人が目を閉じた。俺もそれに合わせて瞼を下ろす。
「……」
何かが起こった感じはしない。
宙に浮いたり、足が勝手に動いたり。そういったことは起こらない。
「……」
5分くらい経っただろう。
もういいのかな。
そう思って恐る恐る目を開けると、
「……遅い」
「……何をやってるのだ?」
「……なんでさっさと目を開けないのよ」
カナリア達3人がジト目で俺を見ていた。
「……目を閉じて、開けるだけとお伝えしたでしょう。なぜずっとその場で目を閉じて立ち止まっているんですか。……まあいいです、さっさと行きましょう」
『冥』も呆れたような表情で俺を見ていた。
「ほんとごめん」
だって、開けるタイミング分からなかったんだもの……。
秒で開けていいとか言ってくれよ。
改めて周りを見渡してみよう。
戦場と呼ぶからには人の手によって開拓されきったような荒れ爛れた、草木の一本も生えないような奈落を想像していた。あるいは動物の一匹も棲めないような瘴気漂う、化け物だけしか棲めないような地獄を想像していた。
しかしここにあるのは一面の草原。
草は深く、どこから動物達が飛び出してくるかも分からないほど。
全く揺れないところを見ると生き物がいないとは思うのだが。
「あなた方の戦場はここです。そして、守るべき拠点はこれです!」
パチン、と『冥』が指を鳴らす。下手くそだ。パチンというよりはカスっていう音しかしなかった。
水で指を濡らせば良い音がするんだっけ? 原理は知らないけど指の摩擦がどうだとかいう話なのだろうか。カサカサした指ではカスって音しかしなさそうだしな。
指パッチンの上手い下手は関係なかったようで、なぜか失敗したにも関わらず満足げな笑みを見せる『冥』の背後から大きな西洋風の城が現れた。
「王をいるならば城も必要です。さあ、王は名乗りを挙げなさい。舞台は整いました。これより戦争を開始しましょう!」
俺たちは顔を見合わす。皆等しく同じことを考えているのだろう。
全員が頷き、そして『冥』に向かって言った。
「「「「(……)王決めるの忘れてたからちょっと待って(くれぬか)」」」」
「余に王は出来ぬな」
4人で輪になり王決めをする。
誰が王をやるかに当たって、まず一番に思いつくのは『王』を所有するブレゴリオであろう。
やってくれるか? そう無言で見てみると、ブレゴリオは自分には出来ないと言う。
「余は前線で闘う。恐らく皆もそうであろう。レンガも前線で、カナリアもそう遠くない位置から魔法を、そしてガーベラに至っては誰よりも重要な役目を持っている」
ガーベラは今回の【戦争】のキーパーソンである。
彼女を軸にして俺達は闘おうとしている。
「そもそもで今決める王とはただの役割、称号に過ぎぬ。王になったからと言って特に強くなる訳でもないし主導権を握る訳でもない。最優先で生き残らせなければいけないだけだ」
王以外の全員が死んだら負け。
王が死んだら負け。
このどちらかの条件を満たされると俺たちの敗北が決定する。
だから、王をやるとすれば
「なら俺がやるか」
俺以外にはいないな。
「自信はあるのか?」
ブレゴリオが俺に尋ねる。
やるなという顔ではない。単に任せてもいいのか? という顔である。
「大丈夫だ。この中で一番死なないことにかけては自信がある」
ブレゴリオはともかくとして、カナリアもガーベラも耐久力は低いであろう。ティミドは分からないが、この場にいない者を勝手に王にするわけにもいかない。
「俺なら……俺の『肝』なら大丈夫だ」
そう俺は断言した。
何より俺にはフォルがいる。フォルを囮にして逃げることだって出来るであろう。
「そうか、ならば任せた。で、あれば余らの陣形を確認しようではないか」
城の中と外。
守りと攻めでそれぞれ別れる。
守りは俺とカナリア。攻めはブレゴリオとガーベラである。
死ににくいとはいえ、なるべく被弾を避けるのであれば城の中にいるのが適切であろう。それでいて、フォルを戦場に送り出しておけば俺は城の中にいながら戦場の様子を確認、指示を出すことができる。
カナリアも魔法を城の中から放つ。もしくは城の内部に入ってきた敵の撃退である。これは俺も参加するため敵が2人くらいであれば撃退はなんとかなるだろう。最悪逃げ出せば良い。これは防衛線ではなく戦争であり、王の殺し合いなのだから。
攻めの要はブレゴリオとカナリア、そして遅れて来るであろうティミドである。
ブレゴリオは城の付近にて敵を迎え撃つ。なおかつブレゴリオの配下たちが敵陣に攻める。配下一人一人が青白い住人を蹴散らすには容易い戦力である。こちらが集めた青白い住人と共に攻めさせれば敵も手一杯になるだろう。
ガーベラは、相手チームの男に当てる。彼女の力は男に特化している。それを活かさない手はない。
「それでは準備はよろしいですね? では、両陣営の位置情報を共有します」
俺とカナリアは城の中に入る。
ブレゴリオは1000弱の大軍を指揮し、行進させる。
それぞれ数十名、百名前後で分け、ブレゴリオの配下が連れて行く。
カナリアの姿はない。すでにどこかへと消えたようだ。
「出撃!」
ブレゴリオの声が聞こえる。
とうとう始まったようだ。
ザッザッと力強い音が聞こえる。
近くからも遠くからも。同じように。等しいくらいの力強い音が。
「……同じように?」
おかしい。遠くからであればそれだけ音は小さくなるものだ。
近いこちらの軍の足音が大きく聞こえるはず。
「何があった、んだ……っ!?」
窓から外を見て、思わず絶句してしまう。
「……レンガ、どうしたの?」
後ろからカナリアが声をかけてくる。
俺は黙ったまま外を指さした。
「…………」
カナリアも外を見て、そのまま黙ってしまった。
俺達は1000弱の兵士を集めて満足していた。
これだけいれば優勢にこそならずとも互角には戦えると。
そこに俺のフォルとブレゴリオの配下がいれば十分だと。
だがその認識は甘かった。
1000に対して10000。
千と万。相手はこちらが満足している間にも刻々と兵士集めをしていたのだろうか。ブレゴリオの表情はここからでは見えない。しかし彼我の戦力は10倍。それだって目視であるし正確な数ではない。だが、安堵していることだけは絶対に有りえない。
勝てるだろう。そう思っていた第二回戦【戦争】は絶望的な幕開けとなった。
戦争とかやり方知らんよ?
この戦力が現実ではどうなるのかも、千人で戦争出来るのかも知らないです




