91話 仲間集め 2日目
「今日は男同士、女同士で組んでみようではないか」
仲間集め2日目、【戦争】を明日に控えた朝にブレゴリオはそう言った。
すでにティミドは出かけており、未だ何人の青白い住人を集めたのかは分からない。
「昨日と同じ組み合わせにしない理由は?」
「単につまらんから……というわけではない。ガーベラが『女』を使うのであればカナリアも共にいた方が良いだろうと思っただけのことよ。昨日の話を聞く限りではな」
それは、青白い住人の女性への報酬のことを言っているのだろう。
青白い住人でも女性であれば魅力を最大限に引き出せる。
「奴らでも良いのならカナリアも出来るであろう?」
「ええ、勿論よ。元が良いのならそれだけ最大値も高い。カナリアが一緒ならそうね……昨日の3倍は期待してくれていいわ」
見目麗しいエルフのカナリアはその例に漏れず美しい。
確か100歳と言っていたが見た目はまだまだ幼く、それでいて大人としての確立した美しさを持っている。長い肢体も幼さを大人への妖艶さへと引き上げる一つの手段となっていた。
言葉数が少ないのもまた儚げな雰囲気の一部になっており、きっと『女』の能力はカナリアの魅力をそれ以上に引き上げてくれるに違いない。
「ふむ、余らも負けてはいられない。レンガよ、今日は余と共に来るのだ。良いな?」
「ああ、分かった」
ガーベラとカナリアが昨日の3倍とすればおよそ300人強。
そういえば昨日ブレゴリオ達が何人の青白い住人を集めたのか聞いていなかったが、どうなったのだろう。
後で聞いてみるか。
「ティミドは何人くらい集めたのかしらね」
ふとガーベラが呟いた。
昨日、俺とガーベラが家に戻った時にはティミドもすでに戻っていたようだ。
俺達よりも早く戻ったブレゴリオ達よりも早く戻っていたらしいので一体どのくらい仲間集めに万進していたのかは分からない。
「……ここ」
カナリアが玄関の一か所と、そしてそこからティミドの部屋へと続く道筋を指さす。
「……微かだけど濡れている。……そして、土で汚れている」
それが何を意味するのか。
ティミドの性格的に川で遊んでいたとかそういうことではないだろう。
「……何をやったのかは分からない。……だけど何もしていないわけではないと思う」
信じていい。そういうことだろうな。
「あやつは余らとあえて別の行動を取っている。ならば余らとは別のアプローチで余らが集められないような者達を連れてくるに違いない。よし、余らも出発しよう。ガーベラとカナリアにもそうだが、ティミドに負けてはおられんぞ」
そう言ってブレゴリオは家から出て行く。
「ああ、そうだな。俺も多少は役に立たないと」
ブレゴリオに続いて俺も家を出た。
まだこの世界に来て俺は何もしていない。
一回戦は負け、二回戦の仲間集めはガーベラに任せることになった。
闘いはともかくとして、仲間集めに関して俺に出来ることがあるだろうか……。
ブレゴリオに付いて行って考えるしかないな。
ブレゴリオは俺が家を出るまでの僅かな時間の間に思っていたよりも先に行ってしまったようだ。俺は駆け足で追いかける。
歩いて行きたいところではあるが、俺も早く行きたい訳があるのだ。
今頃家ではガーベラとカナリアが悔し気な顔をしている頃だろう。
昨日はしてやられたが、今日は違う。
朝食の後片付けは任せました。ガーベラよ、二日続きで悪いが、『女』を鍛えるためだと思ってくれ。カナリアは昨日上手く抜け出したからこれでおあいこだな。
「それで、どうやって青白い住人を仲間にするんだ?」
ブレゴリオに追い付き、俺は聞く。
昨日はどうやって仲間を集めたのだろう。
「ふむ、仲間にすることはそれほど難しいことではない。問題は、如何に多くの住人を集められるか、だ」
「一緒じゃないのか?」
要は、多くの青白い住人を仲間に集めるかってことだろ?
昨日みたく地道に声をかけ続けるしかないかな……。昨日はガーベラに釣られてやってきた青白い住人も何人かいたけど。
「違う違う。お主が言うところの青白い住人。あやつらを一か所に集めて、それから仲間にする。この二段階が今日行うことだ。第一段階である一か所に集めること。これさえ出来れば第二段階である仲間にする。これは余が瞬く間に行おうではないか」
「第二段階を随分と簡単そうに言うな。そんなに簡単そうには思えないだが……」
第一弾階も第二段階もそこまで簡単そうに思えない。
さらに、一度に集めたからと言って、全員が仲間になる訳ではないし、下手をすれば全員が仲間にならずに帰ってしまうかもしれない。
「仲間意識……というか、集団意識というか。半数近くが俺たちに賛同できなければ集めても水の泡になるんじゃないか?」
昨日も何人かそういったやつはいた。
他の青白い住人が見ているから、であろう。ガーベラの誘惑に耐えきり、そのままどこかへと行ってしまったやつらがいた。
他人が見ているから冷静になれるやつというのは一定の数でいる。
個の意識が無いと思っていたここの住人がガーベラの誘惑に耐えきれたのだ。ブレゴリオがどう説得しようと、冷静に、人の話を聞こうとしないやつもいるのではないだろうか。
「それに、集める必要があるのか? 説得で仲間に出来るなら数人ずつ引き入れていけばいいんじゃないか?」
「そう日に何度も使えるものではないのだ。そうだな、3回。これが限度であろう。3回でなるべく多くの住人を集めねばならない。レンガ、お主できるか?」
ふむ、そこまで言うのなら仲間集めの説得に関しては任せてもいいのだろう。
しかし、この場にどうやって集めたものか……。
「ちなみに昨日はどうしたんだ?」
「昨日はカナリアが魔法で巨大な氷像を作ってな。おかげで昨日は200人ほど集められたぞ。カナリアはもうやりたくないと言っておったがな」
もしかして今日ブレゴリオが俺を指名した理由ってそれか……?
見世物で集めた、か。
俺の所有している漢字で巨大な建造物といえば『家』ではあるが、そんなのに集まらないだろう。……というか、『冥』の用意した家じゃなくて『家』で創り出した家に住む手もあったな。
見世物……見世物か。
『毒』は駄目だろうな。『針』も目立つかと言われればそうではない。『肝』も俺の手足を斬り落として生やすショーをやれなくはないが、正直やりたくはないし、見たくもないだろう。
ならやっぱり残るは……
「ちなみに強引に連れてきてもいいのか?」
30分後、大きく開かれた広間には100人ほどの青白い住人が集められていた。
楕円上に並び、その中心にはブレゴリオがどこからた持ってきた台の上に立っている。
「……強引にでも良いと言ったが、強引過ぎぬか? 強引過ぎて気絶すると余の話を聞けぬではないか」
「む、そうだな。すぐに起こそう」
そう言って俺は気絶している青白い住人の傍にいたフォルに叩き起こすように命じた。
起こされた住人は一瞬、ここがどこだか分からないといった表情を見せたが、すぐに元の場所に戻ろうとしてフォルに止められていた。
「しかしあれだけの数に分裂できるのか、お主の『鼠』は」
「ああ、しかもそれぞれで並みの人間と同じだけの力はある」
俺とブレゴリオは100人前後の青白い住人と、それと同じだけに分裂したフォルを眺める。
俺がやったことは簡単なことだ。
動かない巨大な見世物は容易できないが、動ける小さな見世物は容易できた。
フォルは俺の意志を汲み取って動いてくれる。逆立ちなどの芸をしながら俺達のいる場所にまで連れてくるのはフォルにとってとても簡単なことである。小さな身体のフォルは住人の住む家にだって隙間から入ることができるため多くの住人を集めることができた。
芸を無視する者、連れて来られて帰ろうとする者はフォルが強制的に連れてきてその場に押しとどめている。
「さて、俺の出来ることはここまでだ。まあほとんど俺ではなくフォルがやってくれたことなんだがな」
俺は何もしていない。フォルにただ集めてくれ、と命じただけである。
「しかしこのやり方はお主にしかできなかったことだ。そこを誇るが良い。……では見せよう、余の『王』の能力を!」
ブレゴリオの背後が光り出した。
あの近衛兵を呼び出す能力ではないようだ。あれは空間が割れる。しかし、今回はただ光るのみだ。
「『王光』」
そしてブレゴリオは集まった住人に語り出した。
それはこの世界への不満。
それは過去の過ち。
それは今の状態への不評。
それは未来への不安。
ブレゴリオは彼らに語りかける。
このままでいいのか? 、と。
彼らの憤りを煽り、ブレゴリオは彼らの戦意を作り出す。
子供も大人も関係ない。男も女も関係ない。
闘う者は皆等しく戦士であり、ブレゴリオの配下であると。
そして、配下になれば必ずや勝利を約束しよう、と。
輪廻転生の輪に戻そう、と。
「武器を取れ! これより余らは1つの国の住人だ。『冥』の創り出した紛い物ではない。余という王に集いし兵士達である!」
あちこちから住人の手が挙がる。
そして足踏みが聞こえる。
残念ながら住人は声を挙げられないようであるが、もし話せるとしたら歓声に満ちていたであろう。
「レンガよ、これが余の能力である『王光』である。余の言葉を直接心へと届ける。王の言葉を以てしてこやつらの心を揺さぶることはそう難しいことではないのだ」
ニヤリとブレゴリオは笑った。
「先ほどお主は集団意識と言ったな? そう、余の下に集う集団を丸ごと1つの意識下に置いてしまうこと。これが余のやり方だ。……言っておくが洗脳ではないぞ。以前よりこやつらもこの世界から脱したいと思っていたからこそだ」
仲間集め二日目、この日集めた人数は昨日俺とガーベラが苦労した集めた100人を軽く超える300人という快挙を成した。