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生態漢字  ~漢字に抗う異世界のやつら~  作者: そらからり
6章 The Next World at the End
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90話 仲間集め 1日目

「二手に別れるとするかの」


 ブレゴリオがそう言った。

 ちなみに今は朝食兼朝食を食べている最中である。

 『冥』から受けた説明を5人で話し合って(ティミドは発言せずその場にいただけなので正確には4人であるが)いる間に朝食の時間が過ぎてしまっていた。ブレゴリオの腹が鳴り「飯を食わねば良い考えも浮かぶまい」と俺に飯づくりを命じたため、一端話し合いは中止となった。


「二日後に始まるというならば、今日と明日の二日しか仲間集めの猶予はあるまい。5人それぞれで別れるのも良いが、もしや相手方と遭遇する可能性もある。2人ないしは3人で行動すれば仮に遭遇したとしても即戦闘にはならんだろう」


 なるほどな。確かにこの世界は『冥』の創り出したもので、どこまで広がっているかは分からないが、まだ50人近くいる敵と会ってしまい、そこで殺し合いにでもなってしまったら仲間集めどころではない。


「それなら俺は賛成だ」


 と、俺がいの一番に賛成を唱えると、


「私も異論はないわね」


「……私も。……1人でこの世界の住人に話しかけられる自信もないし」


 ガーベラとカナリアもブレゴリオの考えに賛成を唱えた。もっとも、カナリアは別のことが心配のようだが。


「……俺はごめん被るな」


 しかし、ティミドだけは違った。

 俺のつくった飯をガツガツと食べながらブレゴリオを、そして俺達3人も睨む。


「正直言って、俺はまだお前たちを信用していない。敵を危ぶむよりもお前たちを危険視している。……所詮、仲間なんていないんだよ、俺の能力がある限りはな」


 トン、とテーブルに綺麗に食べ終わった食器を置くと、


「俺が信用するのは後にも先にも俺だけだ。……俺だけは俺の能力を悪用しないという自信がある。……この飯の分だけは働いてやるがな、期待はすんなよ」


 そう言って、ティミドは家から出て行った。


「……いいのか?」


 1人で行かせてしまって。

 そう言おうとしたが、ブレゴリオを見てその言葉は引っ込んだ。

 乱暴に閉められた玄関を見てブレゴリオは笑っていた。


「どうしたんだ。さっきまでは二手に別れると言っていたが、何か考えでもあるのか?」


「ん? いや、特に考えは改まっておらんよ。ただな、これまで何もしてこなかったティミドが自ら余らのために何かをしようと言っておるのだ。水を差すような真似はせんよ」


「でも、それで敵に会ってしまったらどうするのかしら? 4人に減ってしまうわよ?」


「……あの男が勝てるとは思えない」


 確かにな。

 結局、ティミドは所有している漢字を一つとして教えてくれなかった。

 信用を勝ち取れなかった俺たちの責任か、それともティミドが人よりも数倍疑心暗鬼のためか。


「あやつは勝てるとか負けるとか、そういった次元にはおらぬだろう。……あの漢字をあやつが認めておらぬ限り、あやつは簡単には死なぬよ」


「漢字を認めていない限り……?」


 その言い方だと、認めた瞬間に死ぬみたいな意味になってしまうが……。

 いや、それよりも、


「ティミドの漢字を知っているのか?」


 まさかあの折檻中に聞き出していたりしているのだろうか。


「いや、直接聞いてはおらん。ただ心当たりがあるだけよ。あの漢字を所有し、生きていられた者の多くはあのように人を信じられなく……いや、人のためを思うからこそ人を寄せ付けないようになると言われておる」


「……それは一体」


 俺が、ガーベラが、カナリアがその漢字の正体を聞こうと身を乗り出したが、ブレゴリオは首を振るのみであった。


「それは言えぬ。あやつが言わぬなら余に言う資格はない。言ったが最後、お主らがあやつを頼らぬ保証はない。頼りすぎてしまうことで身を滅ぼしかねない。なに、大丈夫だ。少なくとも足を引っ張るということはない。それは余が保証しておこう」


 それで話は終わりとばかりにブレゴリオは立ち上がる。


「能力的に余とガーベラが今回の仲間集めに最も適しておろう。カナリアよ、付いてまいれ。『王』の力を見せてやろう」


「……暑苦しいのは――分かった、すぐ行こう」


 ブレゴリオの誘いにカナリアは一瞬、躊躇いを見せたがすぐに二人とも家を出て行った。

 あれは何だったのだろうとガーベラと首を傾げていたが、立ち上がると気が付いた。


「あいつら……」


「片付けしないで行ったわね……」


 テーブルの上を掃除していたため俺たちの出発は約30分遅れた。





「レンガは『女』という漢字をどう思っているかしら?」


 青白い住人を仲間にするべく家から出ると、ガーベラが俺に聞いてきた。

 

 『女』か……。俺のイメージだとガーベラの魅力を最大限に引き出す――『女』としてガーベラを魅せる能力だと推測している。

 まだその真価を発揮しているところを見たことはない。

 一回戦で相手の男から漢字を聞き出していたところから男に対しては有利に動けることは分かっている。

 愛情を深く持たせられる、ということだろうか。深く愛情を持たせすぎて歪んだ愛を育てたあげくに死にそうではあるが。

 ガーベラの死因はまあ……過労死みたいなものらしいのだが、行き過ぎた性欲も『女』という漢字のなせる技なのだろうか。


 俺がその推測を言うとガーベラは、


「まあ間違ってはいないわね。男からの愛情を深くできるし、性欲も他の女の人たちよりも多いという自負があるわ。でもね、『女』は……いえ、女というのは人類の半分であり、男も半分なのよ。私はその人類の半分ともいえる『女』を所有している」


 ガーベラは地面に円を書き、さらにその真ん中に線を引いた。

 そして右側に男と、左側に女と書く。


「男は女に惹かれ、女は男を愛する。時に同性愛者もいるけれど、それだって心の奥底では異性を求める人もいる。つまり、全人類は『女』に惹かれるのよ」


 歩き出したガーベラの後を追う。

 ガーベラは青白い住人の住む区画まで来ると、辺りを見回し、一人に目星を付けた。

 それは、家の前で靴を磨く一人の若い男であった。


 ガーベラはその男に近づきそして、


「ちょっと待ってて」


 そう言ってその住人の前で胸を強調するように腕を組んだ。


「ねえお兄さん、私達のこと、手伝ってくれないかしら?」


 裾をたくし上げ太ももを見せつけるように、そして胸の谷間をチラッと見せる。

 俺はそれを見ないように横を向いた。


「お兄さん? 黙ってても分からないわよ。こんな世界で退屈でしょう? 見回してもいるのは青い人間だけ。男も女もあったものじゃない。今なら私を好きにしてもいいのよ」


 しかし青白い住人は反応を見せない。変わらず靴を磨き続けるだけだ。

 

 もしや性欲がないのだろうか。退屈な世界。恐らく食べるものも満足にないだろう。ならば性欲だって満たされておらず、枯れ果てているのかもしれない。


 ……いや、違う。

 なるべくガーベラを見ないように、ガーベラとは違う方向を見ていたおかげで気づけたが、周囲にいる青白い住人の何人かはガーベラの方をチラチラと見ていた。

 そして、ガーベラの話しかけていた若い男。こいつも下を見てはいるがさっきから手が動いていない。おそらく磨いた靴に反射するガーベラの胸でも見ているのだろう。





「……交渉成立ね」


 そして日が暮れる頃には100人近くの老若合わせた男と、10人前後の女を集めることができた。

 彼らが【戦争】に参加する報酬は2つ。

 1つ目は男達に、ガーベラからの性欲発散。詳しいことは俺には分からない。ガーベラがそれぞれにこっそり耳打ちしていたからな。

 2つ目は意外なことに集まった女達にであるが、美貌の活性化だそうだ。『女』の漢字は魅力を最大限に引き出すもの。ガーベラにかかればたとえ青白い住人であろうとも立派な女性にしてみせるそうだ。


「男を落として女も制す。これが私と『女』の生き方よ」


 ちなみにまだ『女』の真価を発揮してはいないそうだ。……恐ろしい。


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