89話 第二回戦説明
「二回戦は簡単に言えば【戦争】です。これをあなた方に行ってもらいます」」
昨日と同様、突然現れた『冥』は驚く俺達を尻目にしてそう告げた。
「戦争のう……しかし余らはたったの5人。戦争というには少なすぎないか?」
唯一眉一つ動かすことのなかったブレゴリオは冷静に『冥』に問いかける。
「相手も5人であればこれはただの5対5の団体戦。混戦にはなるかもしれんが戦争と呼べるほどの人数でも規模でもなかろうに」
はあー、と『冥』はため息をついた。
「話を最後まで聞いてください。これは会話ではなく説明です。全て終わった後でしたらいくらでも聞いてあげます」
「む、そうか。すまなかったな」
謝りながらもブレゴリオの口元は笑っている。
ブレゴリオから見た『冥』の姿は従者だと言っていたな。いつもこんな風に会話しているのだろうか。
真面目な話をする従者に対して茶々を入れるブレゴリオ。……有り得そうだ。
「コホン……では気を取り直して。今ブレゴリオさんがおっしゃった通り、戦争は5人で行えるほどの低俗なものではありません。団体戦を超える多人数戦の最大規模の戦闘、それが戦争です」
「………」
「へえ」
ブレゴリオが黙っているため今度はガーベラが相槌を打った。
「この戦争に勝った方がそのまま勝者となります。とは言え、あなた方はたったの5人。仲間、もしくは共闘者が必要です」
「……これ以上の仲間がどこかにいる?」
問いかけるというよりは独り言のようにカナリアが呟いた。
確かにそうだ。他のチームと協力でもするのか?
現在残っているチームはおそらく12、3くらいだろうか。最初に100人だから5人1組の5チームで25チーム。1組余ったがそのチームは闘っていないのだろうか……。
「カナリアさん、仲間になりそうな人たちなんてそこらにたくさんいるでしょう? あれらをどうしようとあなた方の自由です」
その言い方で俺は理解した。
『冥』があれらという相手……青白い住人は見渡せばそこら中にいる。身体能力が如何ほどのものかは分からないが、人数を揃えるのであれば打って付けだろう。というか、他に手段がない。
「もちろん、能力で人数を揃えても構いません。ブレゴリオさんやレンガさんであれば可能でしょう」
フォルの分裂のことを言っているのだろうか。……まあ今のフォルであれば1匹で並みの人間1人くらいであれば相手にはできる。100人以上の数を揃えているに等しい。
ブレゴリオの配下の兵士達も何人いるかは分からないが、先日の訓練で1人1人が一定以上の強さを持っていると身に染みてわかった。中にはブレゴリオ以上の強さの配下もいるらしいので、これも100の人材を優に越せる能力だろう。
「戦争は2日後に行います。戦場の心配はせずとも大丈夫です。それよりもあなた方にやっていただくことは2つ。1つは仲間集め。下限も上限もありません。1人からでも10人、100人、億でも揃えられるのでしたら何人でも揃えてみてください。……まあ、億なんて人数はさすがにこの世界にはいませんけどね。仮に、億の人数を揃えても収納できるほどの戦場が用意できるということです」
俺とブレゴリオで最低200人分の戦力は揃えられるとして、後は青白い住人をどこまで勧誘できるかってところか。
「2つ目は王の選定です。戦争とは国家間同士の争い。国とはすなわち王が統べるもの。誰でも良いです。あくまで仮称としての役割ですので実際の指揮や強さは求めません」
では、なぜ王を決めるんだ?
その浮かび出た疑問はすぐさま『冥』の説明によって解決した。
「そして勝敗決めですが、王が死ぬ、もしくは王以外の4人の死亡か降伏が敗北の条件です。つまり、相手の王を殺す、もしくは王以外の4人を殺すか降伏させてください。どんな手段でも構いませんよ。戦争と言いましたが、非人道的兵器でも対談でも勝者と敗者が決まるのでしたら問題ありませんので」
交渉可能、というやつか。
しかし……俺は仲間を見る。
お世辞にも会話術に長けている者は……いない。
仲間内ですらまともに会話していないティミドは論外として。
口数の少ないガーベラは長時間の対談になりかねない交渉は難しい。
ブレゴリオも難しいだろう。彼は周りを後押しするような言葉のかけ方は上手い。だが、相手を説得させるような、しかも死んでくれと同意義の説得は彼にもできないだろう。
同様の理由で俺も駄目だな。相手に死んでくれなんてどんなに遠回しにだって言う事は出来ない。
だから一番期待できる者としてはガーベラくらいだろう。説得というよりは詭弁……いや、篭絡の類だろうか。相手が男であり、こと交渉であればガーベラの女としての力は無敵に近い。
いや……待てよ。ガーベラを活かすのであれば交渉よりももっと相応しい役割がある。非人道的な手段とも言えるが……本人と要相談だなこれは。
俺が考え込んでいる間に『冥』は説明を終えたようで、
「では質問が無ければ私は消えますが、何かありますか?」
「……死んだやつはどうなるんだ?」
以外にも、一番最初に挙手をしたのはティミドであった。
てっきりここでも傍観を決め込むつもりかと思っていたが、しっかりと話を聞いていたようだ。
「死んだら、というと?」
「戦争と言うからには剣で斬ったり矢が飛んできたりするんだろ? それに当たって無傷なわけがない。致命傷にでもなって死んだら、死後の世界とやらに直行するのか?」
なるほど。もし戦争で負ければ青白い住人の仲間入りは間違いないだろう。一回戦ではそうだったのだから今回も例外なくなるはずだ。
負ける前に死ぬ。もし青白い住人になりたくなければ負ける前に死ねば……死後の世界に行けるのだとすれば……。もしくは試合に勝って勝負に負けたではないが、もし死んでもチームとして勝っていれば何かあるのだろうか。
しかしその希望とも呼べる死は『冥』によって覆された。
「何を言っているんですか? 死ねばそれまでですよ。あれらになってもらって何時までもこの世界で暮らしてもらいます。死ぬことで得られる報酬なんてあるわけないです。そんなもの、死への冒涜以外のなにものでもありません」
「そうか……」
それっきりティミドは黙ってしまった。何か思うことでもあったのだろうか。
死んだら青白い住人の仲間入りか……。
「青白い住人が死んだらどうなるんだ?」
ふと思いついた疑問を呟く。
この世界のある意味での終着点は青白い住人になることだ。
ならば、青白い住人は死んでも蘇るのか?
「……それを思い付きますか。……初めてですよ、手駒のような存在の生死を聞かれたのは」
俺の呟きをそのまま質問と『冥』は受け取ったようだ。
「あれらは私の世界の住人です。しかし、死という概念は存在しています。寿命では死にません。病気でも死にません。しかし、身体が害されればそれだけ傷付きます。あれらはすでに魂だけのようなもの。すなわち、身体の損傷は魂の損傷へと繋がります」
「つまり、死ねば魂も死ぬ、と?」
言っている俺にもその意味はよく分からないが。
「魂が死ぬ……そんな生易しいものではありません。魂の消滅のほうが正しい。死後の世界であれば輪廻転生のチャンスが生まれますが、消滅は永遠の苦しみを与えられるのと等しい」
と、そこで『冥』は話を区切る。
俺に考えさせる時間を与えるつもりだろうか。
しかし、俺はだから何なのだろうとしか考えつかない。
「……厄介なことになりそうだな」
「そうね。まだ蘇ったり死後の世界へ送られるってのなら良かったのだけど」
ブレゴリオとガーベラが渋い顔をして話している。
ティミドは下を向いているからよく分からず、カナリアは先ほどから表情を変えていないので判断できない。
「なんのことだ?」
「……レンガ」
カナリアが答えてくれるようだ。
「……『冥』が言っていたのはこの世界の住人は死ぬと死より苦しい状態になるということ。……ここまでは理解した?」
「ああ。今さっき言っていたことだしな」
「……なら、死ぬかもしれない闘いにこの世界の住人は参加すると思う?」
「……そうか」
分かった。理解した。
確かに、それならば仲間集めというのは難しいだろう。
戦争に参加するデメリットが大きすぎる。それに反してのメリットが……メリットはないのか?
「なあ『冥』」
「なんですか? レンガさん」
「青白い住人が戦争に参加して、勝った方の陣営に付いていた場合、何か報酬というものはあるのか?」
この世界の住人は一生をここで暮らさなければならない。いや、一生どころか永遠に、か。
永遠の牢獄と永遠の懲罰。選択肢がこれだけなはずはない。
「ええ、あります。またしてもお見事、ですよ。あれらに与える報酬……それはティミドさんのお言葉を借りるのであれば死後の世界への直行というわけですかね」
名前を呼ばれたことで反応したのかティミドが顔を上げる。
「勝てばようやく死ねる。負ければ永遠に苦しむ。この二つのどちらかをあなた方はあれらに対して提示し、仲間を集めてください。なに、二日もあれば容易いことでしょう?」
死後の世界。『冥』が言うには輪廻転生のチャンスがあるかもしれない場所だっけか。
ここがどれだけ退屈で息苦しい世界なのか分からないが、転生できることを報酬にして仲間をどれだけ集められるか……。
相手チームとの交渉の前にこの世界の住人との交渉を先にやらなければいけないのか。
「現時点を以てして、あれらにはあなた方との干渉を認めます。会話はできませんが、話は通じるようになります。個性や力の差異はありません。皆等しく人一倍の働きをしてくれます」
それでは私はこれまで、と『冥』は消えた。
説明に対しての疑問は俺は無いが、他の面々はあるのではないかと見てみるが皆これからのことを話し始めていた。
……あれ? 人一倍って人と等倍じゃなくて二倍って意味なのか?




