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生態漢字  ~漢字に抗う異世界のやつら~  作者: そらからり
6章 The Next World at the End
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88話 第二回戦前日

ようやく試験終わったぜ!

後は再試がないことを祈るのみ

 一日が過ぎ、魔法と魔術の違いを完全に理解することができた。


 二日が過ぎ、多対一の闘いにもなれることができた。


 三日が過ぎ、闘いの最中でも魔術を行使できるようになった。


 そして、四日が過ぎようとする中、ついに日常となりつつあったこの生活に変化が起きた。

 変化というか、待ち望んだ来訪者が到着した。

 

 朝起きて、カナリアに反復練習あるのみと言われたので日課とするようにした魔術の計算と訓練をしていると、突如背後から声を掛けられた。


「レンガさん」


「うおっ!?」


 振り返るとそこには誰もいなかった。きょろきょろと見まわしていると、視界の少し下からジッと睨むような視線を感じた。


「お待たせしましたか? 他の参加者の皆さんの準備も終わりましたので二回戦を始めます。明日、この家の前でお待ちください。その時に次戦の説明を行いますので」


「いきなり明日か……」


「では伝えましたので私はこれで」


 そう言うや否や来訪者――『冥』は現れた時と同様に突如として消えた。


 小さい女の子として扱うのは駄目なんだったか?

 もしや怒りを買ってしまっただろうか。

 俺の無意識の願望だとか安堵できる存在が幼女なのだとしたらそれは心外だが、いかついおっさんよりかは幼女の方が安心できる。


 『冥』の姿はブレゴリオから見たら一緒に旅をしている従者らしい。カナリアはかつての仲間、ガーベラは初めての客、ティミドは子供の頃の親友を『冥』に見ていたらしい。

 有効度合いはともかくとして、誰もが顔見知りであったらしい。話し方や性格もその人物に基づいたものらしい。


「俺だけはお前の姿を知らないんだよな……」


 幼女であるならばサンやルナ、カルミアなどが俺の仲間にいる。

 それにも関わらず俺の記憶にない幼女の姿で『冥』はいる。これに何か意味があるのだろうか。


「とりあえず皆に知らせるか」


 明日だと『冥』は言っていた。早く伝えておかなければならないだろう。





「ふむ、分かった。で、あれば今日は早めに休むとしようか」


「まだ昼前だけどね。私は特に修行も何もなく強くなった感じはしないから別にいいのだけど」


 ガーベラは自分の腕を見て言う。

 ガーベラの武器は女という性そのもの。鍛えられるものではないし、俺達が口出しできるようなものではない。ガーベラの方が知り尽くしているだろうしな。


「……簡単な魔法か魔術なら教えると言ったのに」


「魔法、ねえ……まあ私だけにしかできない魔法があるから機会があれば見せてあげるわ。とっておきの中のとっておきよ」


「……」


 別に偏見をガーベラに抱いているわけではないが、どうも男絡みな感じがする。

 魔法って、房中術とかそんなものだったりしないよな?


「ふふっ」


 俺の顔を見て俺が何を考えていたのか悟ったのだろう。

 ガーベラは見る者が見ればいとも簡単に惑わされそうな蠱惑的な笑みを浮かべた。


「安心して。味方には使わないわよ。それに、私の魔法は男だけじゃない、女の子にも効く。老人や子供には厳しいかもしれないけど、まあそうなったらレンガ、あなたに任せるわね」


「子供や老人を相手に闘うってことか……できるなら俺も避けたいが、この闘いに限っては分かったよ」


 女子供、老人は命を賭して闘うような相手だとはどうしても思えない。ハド爺のような戦士であれば別であるが、闘いに全く関わってこなかった者を斬るのには躊躇いがある。

 

 家族を待ち続ける者、恋人を待ち焦がれる者、友人を首を長くして待つ者。俺だけでなく、誰にだって待っている者はいるだろう。


 それを思えば斬るのに……殺すのに躊躇いが生まれてしまう。


「悩んでいるな、レンガ」


 いつの間にか首を傾けてしまったからだろう。ブレゴリオが心配そうな顔でこちらを見ていた。


「もしも、殺すことに躊躇らいを持つのであればそれは余が引き受けよう。しかし、お主はこれまで、そしてこれからも他の命を奪うことなく生きることができるのか?」


 思い出すのは『鬼』の洞窟にて結果として命を奪うこととなった女性達。


「余はお主のこれまでの闘いは知らぬ。しかし闘いとは殺戮ではなく互いの命を賭けた決闘。故に躊躇いが生まれればそれは相手の命を、そして決闘を汚すことになりかねない。闘いが終わった後に悔いるのは良い。だが、闘いの最中は剣を鈍らす」


「難しい話だな……まあだからこそ理解はできたよ」


 なぜ俺がここまでこれからの闘いに不安を持っていたのか、ブレゴリオの言葉でようやく分かった。


「闘いで人を殺したことがないからこんなにも臆病になっていたんだな俺は」


 漢字相手だからこそ俺は段々と躊躇いなく剣を振れるようになっていたが、誰かも分からない相手と殺し合うのはこれが初めてになる。

 ヒシバとの闘いは村の人を助けるため、仲間を死なせないために夢中だった。それに、あれは明らかに相手が悪と分かっていたからこそ殺すこともできた。

 しかし、これから闘うかもしれない相手はもしかしたら世のため人のために戦う善人である可能性も十分にある。


「ブレゴリオは相手が善人だったときはどうするんだ? 悪人であったならばまだしも、善人を殺すことに抵抗はないのか?」


「ふむ……何を以て善人と捉えるかは別として、だ。こう考えれば納得するだろう」


「?」


「どんな善人よりも自分の方が圧倒的に良いことをしている、と」


 あくまでも自信たっぷりにブレゴリオは言い放った。


「余とて一から十まで善行を積んでいるわけではない。だが、仲間にとっては良い人間であろうとしている。お主にとってもそれだけで十分ではないか?」


 仲間のためか……どこかで誰かに似たようなことを言われた気がする。

 ありふれている言葉かもしれないが、そんなありふれていて、忘れがちな言葉を俺は欲しかったのかもしれない。


「老人も子供もなるべくなら殺さない。仲間の命がかかった時、その時は俺は躊躇いなく殺すよ」


 いつの日か後悔するかもしれないが、それでも仲間が死ぬよりはマシだ。

 

「うむ、良い顔だ。では明日に備えて余は配下と話をしてくるでな」


 そう言ってブレゴリオは自室へと戻っていった。

 ええと、何の話をしていたんだったっけか。


「……長い話だったけど、結局レンガは私の魔法……能力の効かない人間の相手をしてくれるってことでいいのね?」


 ああ、そうだ。ガーベラののとっておきの魔法の話だった。


「ああ、任せとけ!」


 俺はブレゴリオを真似て自信たっぷりにそう返事してみせた。

 

 それからは特に何も翌日について話すことなく、各自それぞれの部屋で待機していた。

俺はというと、


「さっきの続きでもやるか」


明日に備えて何を準備するわけでもないが、より一層今日の訓練に力を入れるとしよう。もちろん明日に響かない程度に。




できればこっちをしばらく投稿したい……

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