傍迷惑な男の散歩
「暇な日は散歩に限る。」
誰かが言った格言では無いが、少なくとも俺はそう思っている。だから、休みの日は特に理由もなく、ふらふらと街を歩いている。詰まらないだろうといわれるかもしれないが、俺的に楽しいのだから仕方が無い、そこは諦めて貰いたい。
そんな散歩をしていた或る日の事。夕焼けを見ながら町を歩いていると、俺の側を若い高校生ぐらいの男が駆け抜けて行く。何やら怯えた様子で、周囲を確認して近くのマンションに入って行った。
一体どうしたんだ?と首を傾げると、暫くして後ろからトテトテと走る足音が聞こえて来る。音からしてまだかなり遠いが、気になったので後ろを振り向くと、思わず目を見開いた。
俺が見た光景を一言で言うならば、ゴスロリな格好の幼女が、荒い息を吐きながら走っている光景だった。右手に持っている何かを隠しながら、誰か?を探しているようで、立ち止まって息を整えながら周囲を見たり、こちらの方角に走ったりを繰り返している。
何を探しているんだろうと暫し考え、ピンと来た。あの高校生か!と。むしろそれしか無いだろ!。
丁度こっちに来るんだしと俺は親切心を発揮し、どこに行ったのか教えてあげる事にした。すれ違うタイミングで声を掛ける。
「お嬢さん、高校生の男の子ならあのマンションに入りましたよ」
驚いた表情の幼女は目をパチクリさせていたが、嬉しそうに微笑んだ。どうやら正解だったようだ。
「あら、有り難う御座います、あちらのマンションですのね?」
頷くと、礼儀正しくお礼を言って手を前で組んで頭を下げ、そのままマンションへ入って行った。礼をする動作がとても綺麗だったし、口調もそうだが、どこかのお嬢様だったようだ。そう言えばゴスロリ服も上質な材料が使われていたなと、今更ながら思い出す。
「うふふふふ、待っていて下さいましお兄様♪」
と言う去り際に聞こえた言葉は、もちろん聞かなかった事にした。完璧にヤンデレの台詞だぞおい!。まあ良いか。
今日は良い事をしたよな~と鼻唄を歌いながら歩いていると、ふと思い出した。そう言えばゴスロリ幼女が隠していた右手の何か、あれ包丁かナイフだよな、と。
まあ良いか、知っていて教えた事だし。と俺は考えるのを止めて、マンションの方向へ合掌する。
ギャーと男の悲鳴が聞こえたが、俺は誰に言うでも無く、笑いながら独り言を呟いた。
「悪く思うなよ。これも幼女の幸せの為だ」
そして歩き出す、次はどこへ行こうかと考えながら。そして行く先々で笑いながらも、色々な意味の小さな不幸を撒き散らす。彼がどこへ行くのかは誰も知らない、神さえも。
終
ふと思い付いて書いた文章を、練習がてら書いたものです。とても短いので、いつかこの作品を元にしてまた書くかもしれません。