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diceをふるのは公爵令嬢でも国王陛下でもなく  作者: 秋月篠乃
第1章 赫いダイスをふる人
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第4話 ダイスが示す三の目は人形遊びは騎士様で

キーワードに設定していました「R15は保険です」を外しました。

レクスィの謹慎処分が言い渡されてから、三ヶ月が経過した。

ヴォールを斬りつけたことによって、さらに謹慎が伸びる旨が通達された時、レクスィはヴォールのことを罵倒した。

先に掴みかかったのはヴォールだと、ヴォールから身を守って剣を抜いただけなのだと。

しかし、レクスィがヴォールに言い放った言葉は宰相も聞いており、国王はヴォールに非はないと判断を下した。

その国王の決定に暴れて己の無実を叫び続ける姿に、王宮で働く者達はこんなにもレクスィは浅慮だったのかと落胆を隠せない。

王太子として立派な人物だと思っていた過去が、崩れていく。

幼い頃からレクスィとヴォールを見てきた宮女長のショックが一番大きく、労わりの言葉を探そうにも誰も探せない。努めて平静に仕事をこなし見ない振りをする宮女や騎士達。


けれど、クローネだけはそんな宮女長とは全く違う心境だった。

クローネもレクスィを九歳の頃から見てきた。

まだ五歳だったヴォールの元で。


あの当時からレクスィはなにも変わっていない。

それに誰も、国王や王妃でさえも気付いていない。









回廊を歩いていると、数人の貴族達が集っている部屋の前で、中に入ろうともせず腕を組んで佇んでいるパルツがいた。

あの勘当の一件以来、偶に訪れている騎士団でも見かけることはなかった。


「パルツ殿、お久しぶりですね」


「……お前か」


声をかければ視線だけ寄越して、すぐに顔を逸らしたパルツだったが、どこか苛立っているように見えた。


「本日のレクスィ殿下のご処分をお決めになる場に来られたのですか? ですが、紹介状がなければご実家を勘当されたパルツ殿は入れないはずでは?」


そう、今日はレクスィの最終的な処分を決める場が午後より設けられることになっている。

そのためかレクスィを後押しする貴族達も、その場を拝聴したいと嘆願書を出してきたのだ。

筆頭はヴェステン公爵。

それに数名の貴族達が連なって名を上げたが、当初よりも味方となる貴族は減っていた。

今や貴族達から、『貴族の恥』とまで言われているヴェステン公爵は、レクスィの未来がなくなれば自分達もどうなるかわからないとわかっているのだ。

ヴォールが斬りつけられてからしばらくして、フェアシュタは正式にエアースト公爵家の養女となった。

心優しい国王の弟夫婦は美しくて心根が優しく、聡明なフェアシュタを可愛がり、今では本当の親子のように接し合っている。

最初は途惑っていたフェアシュタだったが、ようやく実の父と母を切り捨てる覚悟が出来たようで、今ではユリア以外は他人行儀に「ヴェステン公爵」、「公爵夫人」と呼んでいる。

その事実も貴族達から失笑をかう理由だ。


娘に見捨てられた、どうしようもない親。


その侮辱をなんとしてでも返上したいのだ。


「ヴェステン公爵殿と一緒に来たのだ」


「……私のご忠告など聞かれていないようですね」


「お前に関係などない」


「……ユリア公爵令嬢様もあまり世間を知らないご様子。ただの貴族のご夫人となられるならば、また違ったのでしょうが」


パルツの返事は待たずに礼をとり、クローネはその場を離れた。

クローネの言葉に組んでいた腕の中で手を強く握りしめたパルツをわかっていて、ほくそ笑みながら。






宮女長と一緒に集まった貴族達にお茶を出し、パルツにカップを手渡したクローネは仕事のために、その場を後にする。

口につける気など最初はなかったが、緊張していたのだろう。

酷く喉が渇いていて、パルツはカップに注がれていたお茶を一気に飲み干した。

丁度庭園の花をいけている花瓶の台があり、そこにカップを置く。

一息ついた後、パルツは懐から一通の手紙を取り出した。

宛名もなにも書かれていない手紙。

勘当を言い渡されて、友人の家に転がり込んで数日が経った時、いきなり自分宛てに手紙が届けられたのだ。

誰にも居場所など教えていなかったのになぜと思ったが、すぐにたった一人には教えていたことを思い出した。

ユリアだ。

急いで手紙を開けると、そこにはパルツが今どうしているか、いかにパルツを心配しているかが胸を打つほど綺麗な字で書かれてあった。

レクスィにどんな手紙を送ろうかと迷っている時に見た文字と同じ。

ユリアが自分を心配してくれている!

それがどんなに嬉しかったか。

三通だけきた手紙を誰かに見られるわけにもいかず、パルツは肌身離さず持つようになった。

レクスィのことで不安が一杯だと手紙にはいつも書かれていた。

便箋に目を走らせるたびに、焦燥感がパルツを襲う。

自分だったら、こんな風にユリアを不安がらせたりはしない。

いつでも守って笑顔でいられるようにするのに!

恋に破れてもユリアが幸せなら、それでいいと思っていた。

なのにユリアは幸せではない!

レクスィはいったいなにをやっているのか!


『ただの貴族のご夫人となられるならば、また違ったのでしょうが』


先程のクローネの声が耳に蘇ってきて、何度も何度も繰り返し頭の中で聞こえてくる。

強く頭を振って、その言葉をどこかに追い払おうとするが、些か強く振り過ぎたせいか、眩暈を覚えて足がぐらつく。


ただの貴族の夫人ならば?


そうしたらユリアは幸せになれたのだ。

クローネだってそう言っていたではないか。


本当はずっと、あの婚約破棄の時から考えないようにしてきたことが体を蝕むように巡っていく。


俺と結婚すればユリアは幸せになれたのだ。

毎日毎日泣かせることなどしない。

ずっと笑顔でいさせられる。

俺なら。


懐にしまった手紙に、まるで後押しされている気になる。

そうだ。

ユリアだってとっくに気付いているんじゃないのか?

だから、俺にこんな手紙を送ってきた。

俺だけがユリアを幸せにできると気付いて。

でも、レクスィの手前そんなことができないと嘆きながら。


その時、回廊の奥からヴェステン公爵夫人とユリアが歩いてくるのが目の端に映った。

淡い藍色のレースを縁取った、美しいドレスで着飾っているユリアは昔、教会で見た絵の天使に似ていて可憐そのもの。

けれど、その顔は少しだけやつれていた。


「ユリア……!」


堪えきれずにユリアの元まで走っていた。

本当はその可憐な姿を見せたいのは俺だけなんだろう?

俺のことが好きなんだと言いたいんだろう?


「パルツ様、お父様と一緒に城に上がられたと聞きました。ごめんなさい……パルツ様まで巻き込んでしまって……」


悲しげに瞳を伏せるユリアを抱きしめたいと思い、さらに近づこうとするが、高価な宝石が幾つもついている趣味の悪い扇によって、それは遮られた。

ユリアの母親であるソルネは少しだけ嫌なものを見る目でパルツを睨みつけてくる。


「パルツ様、まだ結婚前の娘にあまり馴れ馴れしく近づかないでいただきたいですわ。ユリアは将来、レクスィ殿下の妃となるのですから。今のうちにその態度を改めておかれて」


その冷たい声に、頭を鈍器で殴られたような衝撃が襲う。

俺はユリアに相応しくないと公爵夫人の目が、声が、態度が語っている。


「お母様、パルツ様にそんなことを仰らないで」


「ユリアは優しいわね。さあ、こんなところでゆっくりしている暇はないわ。久しぶりにレクスィ殿下に会えるのですから。そのためにユリアもこんなに着飾ってきたのですからね」


「はい……!」


頬を染めて微笑む姿は誰よりも美しくて。


違うだろう?

ユリア、君は俺が好きなはずだ。

どうして、そんな嘘をつくんだ?

大丈夫? なにも障害はないよ。

だから本音を話して。


いつの間にか、回廊にはパルツ一人だけが取り残されていた。

貴族達が集っていた部屋も、誰もいない。


ユリア、どこに行ったんだ?

大丈夫。もう君が泣く必要なんてない。

俺がいるから。

俺がずっと傍にいるから。

だからユリア、


助けにいくよ。









謁見の間で宰相であるシュトムがなんとか平静を保っているのを、レクスィとユリア、ヴェステン公爵以下、同伴している貴族達以外は、いつ爆発してもおかしくはない状況だと危惧していた。

国王と王妃が目の前にいるというのに、レクスィとユリアは熱く抱き合い、うっとりと見つめ合っている。

レクスィの処分を言い渡す場だというのに、ユリアのドレスはあまりにも場違いなほど煌びやかだった。

フェアシュタは王妃と同じ控えめなドレスを着ているというのに。

宰相は努めて冷静を保ちながら、レクスィとユリアに声をかける。


「そろそろ茶番はよろしいですか? 陛下からのお言葉があります」


「茶番などと!? どういうつもりだ!? 宰相!」


声を荒げるヴェステン公爵に宰相が冷ややかな眼差しを向けると、それだけで公爵の後ろにいた数人の貴族達が震え上がる。


「現在この場において、ヴェステン公爵殿、貴方の発言を陛下は許してはおりません。黙りなさい」


「もういい。謹慎しておれば少しでも正常に戻るかと期待していたが、それも徒労に終わったようだ。レクスィ、お前をヴェステン公爵家に婿入りさせる。公爵家も跡取りができて、さぞや喜ばしいことだろう。以上だ」


もう用はないと立ち上がった国王にレクスィは驚愕し、縋りつこうとする。


「お、お待ち下さい! 父上!? なぜなのですか!?」


「なぜとは? その理由もわからぬような者に王としての器などない。ヴェステン公爵、さっさとこの愚息を引き取っていけ」


「で、ですが、陛下! レクスィ殿下は王太子で……!」


「王太子はヴォールだ。この数ヶ月、宰相と色々なものを学んだようだが、どれもレクスィ以上だと宰相からのお墨付きだ。安心してヴォールに国を任せるといい」


「ち、父上!」


まだ縋ろうとするレクスィから、ヴォールとフェアシュタが視線を逸らした時だった。

謁見の間の閉めきった扉から鋭く注意を促す声と、数秒もしないうちに悲鳴が轟く。


「何事ですか!?」


宰相が叫んだのと、ほぼ同時に扉が開かれて。

現れたのは、王宮には来ていても、この謁見の間に入る許可のなかったパルツだった。


「パルツ様?」


入ってきたパルツはふらふらとしていて足取りがおぼついていない。

それなのに端正な顔は笑みを浮かべている。

その奇妙さに、すぐに反応したのはレクスィだった。


「パルツ!? その剣は!?」


パルツが手に持っていた剣からは血がしたたり落ち、床を濡らしていた。

扉の方を見れば、扉を守っていた騎士二名が背中から血を流して倒れている。


「我が君! フェアシュタ公爵令嬢様! 国王陛下と王妃様のおられるところまでお下がりください!」


クローネが二人の背中を押すのと、控えていた騎士達がパルツに飛びかかったのは、ほぼ同じだった。

刃が交わる音が響く。

レクスィはなにがおこっているのかわからないながらも、ユリアを腕の中に抱きしめていた。

パルツを止めようと騎士達がパルツに再三呼びかけるが、その声が聞こえてはいないのか、目の焦点すらパルツは合っていない。

やっと思考が動き出したのか、レクスィは腕の中で震えているユリアの手を取って、謁見の間から出ようとした。


「ユリア、行こう!」


「レ、レクスィ様!」


「レクスィ! ユリアを置いていけ! ユリアは俺のものだ!」


最早雄叫びに近い声がパルツの口から発せられた。

そして、今度は優しくユリアに語りかける。


「ユリア、大丈夫だよ。俺がずっと傍にいる。幸せにするよ」


「いやあっ!」


ねっとりとした不気味さにユリアはレクスィにしがみついた。

その光景にカッと目を見開いたパルツは、ぶつぶつぶつぶつとなにかを呟いている。


「ユリア……。大丈夫だよ……。もうレクスィを好きだという嘘なんてつかなくていいんだ……。俺がきたんだから!」


騎士達の剣を一振りで払い飛ばして、レクスィとユリアに近付こうとした次の瞬間、


「パルツ!」


現れた騎士団長がパルツが持っていた剣を己が持っていた剣で叩き落とした。


「パルツ! なにをしているんだ!?」


こちらも今駆けつけてきてくれたのだろう、パラストが騎士団長と二人でパルツを囲んだ。


「陛下! 王妃様! この隙にお逃げください! 私目の処分は後程!」


「我が君とフェアシュタ公爵令嬢様も! 私は宮女達に安全な所に避難するよう伝えてまいります!」


「だが、クローネ!」


「宰相殿! 頼みます!」


「わかっている!」


ここで押し問答などできないと宰相に託し、クローネは目の前の惨状を見つめた。

いつの間にかヴェステン公爵たちは逃げたようだ。

ここでパルツに斬ってもらえれば話は早かったのに。

なんと運がいい人だろう。

毒づいている内にパルツは二人から距離を取り、逃げ出した。

その後を追って、いなくなってしまった騎士団長とパラストの後ろ姿を見つめ、クローネは二人とは別の方向に駆けていった。







王宮のはずれのはずれ。

白いベンチが一つだけ寂しく置いてある、王都を見渡せる場所にパルツはいた。


頭が割れるほど痛い。

なにも考えれらない。


ユリア、ユリア、ユリア、ユリア、ユリア、ユリア!


ここに来てくれる。

絶対にユリアは来てくれる。

ここは、この場所はユリアとの思い出の……。



「やはりここでしたか」


嘲るような声に振り返れば、笑みを湛えたクローネがそこにいた。


「早く人がくるまえに終わらせてしまいましょう。あれが見つかると厄介なので」


世間話でもするように笑いかけてくるクローネは異常だった。

いや、さっき俺のしでかしたことのほうが異常だ。


あれ? なにを思ってるんだ。

あれでよかったんだ。正しいことを俺はしたんだ。

なのにどうして異常だと思う?


「薬の効き目が切れてきましたね。怪我をしても仕方ないか……」


ぼそりと声を落としたクローネは、一瞬の間にパルツの懐に入っていた。

そして思いっきりパルツの右の肩口から服を引き裂く。

そこにしまわれていた手紙が宙を舞いそうになった。

それを裂いた服で掴んで、手紙が見えないようにクローネはぐるぐる巻きにする。

俊敏な行動にパルツは足が動かなかったのも束の間、湧き上がったのは強い強い怒り。


「それを返せっ!」


振り上げた剣を、持っていた剣で受け止めたクローネは、こんな状況下の中でも笑っていた。


「躱すのは得意なんですが、むいていないんですよね、剣は。さて……どれだけ躱せるでしょうか?」


「うるさいっ! 黙れ! 返せ! 返せ!」


剣のぶつかり合う音が響く。

防戦一方のクローネは、不利だというのに笑っている。

ここにきてからずっと。


「笑うな――!」


鳩尾に蹴りを入れ、ぐらついた瞬間、しとめたと思ったのに、寸前で躱されて左腕を掠めただけで終わる。

ぽたりと落ちた血に見向きもせずに、クローネは剣を構え直す。

イラついてイラついて殺してやろうと見据えて、息をのんだ。

クローネの瞳には全く正気がない。

眩暈が治まった気がした。


「クローネ殿! どけ!」


聞き覚えのある低い声。

クローネがパルツの前から飛び退いた瞬間、体中に痛みが走り、血が噴き出す。

それは自分の血で、自分を斬ったのは、涙を流している父だった。


なんでこんなことになったんだ?

どうして?


意識が遠のき、体が倒れる。

泣いている父の後ろで、クローネが笑っている。

とても綺麗だと思った。

今までそんなこと一度も思ったことがなかったのに。


クローネの口が動いた。

声に出さない言葉は、ゆっくりと紡がれて。


『あ り が と う。 も う す こ し あ そ び た か っ た よ』


確かにそう、クローネは言っていた。









腕の治療を終えて、医務室を出たクローネはそのまま貴族達が集っていた部屋の前で立ち止まる。

そこには綺麗な花が活けられている花瓶があり、パルツの飲んだカップを見えないようにしていた。

片づけられているかもしれないと思っていたが、宮女達も慌てていて気付かなかったらしい。

そのカップを手に取り、厨房に行くまでの間、このカップの言い訳を考えていたクローネは先に処分しなければいけないものを思い出して、懐から三通の手紙を取り出した。

あの混乱の中、破った服の一部はそのままにして、手紙だけ拝借してきた。

回廊を明るく灯している松明に近づき、その手紙を放り込む。

一瞬にして燃え上がり、灰になってゆく紙はクローネが与えた逃げ道だった。


(ユリア公爵令嬢様本人に聞いていれば、この手紙が本人からではないとすぐに気付けたでしょうに)


二ヶ月も時間はあったのだ。


(励ましの手紙をありがとうとぐらい、言えばよかったというのに)


その間もパルツは頻繁にユリアの元を訪ねている。

なのに、手紙のことには一切触れなかった。

こんな不自然な手紙を出したのは誰なのか、パルツから聞いていればユリアが父親に話さないわけがない。

そうなればヴェステン公爵が動く。

そうしたら死なずにすんだものを。


(聞くのが怖かったから? それとも信じていたから? 前者かな)


幻覚作用の強い薬をお茶に混ぜたのはクローネだが、あそこまで暴走したのはパルツ自身だ。


(あんなに暴れたのは少しだけ意外だったけれど。それほど恋に狂っていたのかな)


狂うほどの恋。

それは幸せなのか不幸せなのか。


(でも、パルツ殿は幸せだった。夢を見続けたまま死ねたのだから)


ユリアがパルツを好いてくれているという夢を見続けたまま。

それがパルツの一番の願いだったのだから。

首元のダイスのネックレスを弄びながら、クローネはゆったりと笑う。

二ヶ月間の人形遊びは、とても楽しかった。


(今夜はよく眠れそう)


クローネは再び歩き出しながら、半月の月を見上げた。







国王は全ての内容が書かれた便箋を、ぐしゃりと握りつぶした。

パルツが起こしたことは許されないことだ。

その父親であるフェアレーター伯爵が事態を収束させたとはいえ、なにも罰をくださないなどできるはずがない。

騎士団長という役職をとく所からだが、若い時より国王の元で働いてくれていたフェアレーターのことを思うとやり切れない気持ちになる。

それでもクローネを責めることなどできない。

すべてはパルツが引き起こしたこと。

裏で手をひいてはいても、いつもクローネは逃げ道を用意している。

それを知っていて、責められるはずなどない。


これは警告。

もう一度なにかレクスィがするのなら、クローネが動くという事前勧告。


八年前、国王の前で泣いていた、幼い時のクローネをふと思い出す。

あの時の選択が間違っていたとは思わない。

あの戦事から、ブリューテはもっと豊かになった。


けれど、あの懇願して泣き喚いていた少女は、もうどこにもいない。


耳の奥に残る『助けて』と叫ぶ少女は、もうどこにも。










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