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聖女の嘆き

作者: ふもふも

「魔王様、先読みの鏡に魔王様を討つとなる次期聖女が示されました」

さも「生き飽きた」というつぶやきが漏れそうなほどの魔の王は、未来を予言した魔法使いに視線だけを向ける。

濃紺の瞳は凪いだように何も映さず、腰までまっすぐ伸びる漆黒の髪は無造作に後ろに束ねられている。

「それで?」

魔法使いは果たしてどのくらい生きたのだろうか?

そう思わせるほどの見た目だった。

実際魔王すらもその年齢は掴めない。


「今はまだ幼児ゆえ、脅威となる前に討ち取りましょうぞ」

「クククッ、驚異ね......」

魔法使いの提案を聞いた王の薄い唇が他人を小馬鹿にしたように弧を描く。

「幼児が脅威となるとは面白い」

「王?!」

「その者を生きて連れて参れ。

 私がその脅威を育ててみよう」

慌てふためく魔法使いを無視して配下の魔物に声をかける。



この日、魔の大群にとある里は襲われ、生まれたばかりの聖女は魔の王の手に落ちた。

そして魔王自らが己を討つ娘を育てるという、恐ろしくもいびつな形ができあがったのだった。




   ∴ ▽ ∴ ▽ ∴ ▽ ∴ ▽ ∴




「コーネイン、見てきれいな花が咲いたわ」

「魔の地に花など似合わぬ」

魔王・コーネインは鼻を鳴らして、自ら育て上げた『聖女』と呼ばれるはずのサンネを見下ろす。

「でもこれを取ってきてくれたのはコーネインよ?

 だから私、この花が一番好き」

サンネはしゃがみながら花に顔を近づける。

「.....『ついで』だ」


目障りなことをする人間の国を一つ潰してきたついで。


「『ついで』でもいいの

 覚えてくれてたことが嬉しい」

嬉しそうに微笑むサンネの顔を見てから小さくため息をついて、コーネインは思う。


『ついで』なのは潰した国。

深い紺色の花が欲しいと言ったサンネの願いのついでに、目障りな国を潰してきたのだ。


あぁ、白状しよう。

サンネになら討たれてもいい。



最初は煩わしかった。

殺してしまおうかと何度も思った。

でもその度に『暇つぶしが減る』などと思い踏みとどまった。

気づけばサンネを育てていくうち、コーネインは温もりを知っていった。

サンネが成長してく過程で、自らも他人を思う心を持っていた。

いつの間にか無駄に過ごしていた毎日が、無駄に感じなくなっていた。


この20年以上、コーネインの全てがサンネを中心としていて、光であった。


汚れることのない白を纏う私のサンネ。

一点の曇りもない、聖女と呼ぶにふさわしい私のサンネ。



「サンネ、いつ私を殺す?」

「コーネイン、私はあなたを殺さない。

 殺せないわ、大事な.....育ての親だもの」

コーネインが何度もサンネに問うた言葉。

今日も変わらない答え。

穏やかに微笑むサンネにカーマインは「そうか」と呟く。




でもな、サンネ ――――

お前が誰かとにこやかに話すたび、私の心は悲鳴を上げる。

お前が誰かと出かけたと聞くたび、私の心が引き裂かれるのだ。


今やその心の傷は多くの血を流していて、苦しみに喘いでいる。



ならばいっそ、本当に終わりにしてくれないか?

お前の手で果てるなら、私は本望であり幸せだ。





   ∴ ▽ ∴ ▽ ∴ ▽ ∴ ▽ ∴




私はこの国で一番価値がない。

私が自分の姿を初めて鏡で見たとき、あまりの衝撃にしばらく動けなかった。


白い髪、白い肌、赤い瞳。

城のどこを探しても存在しない色の自分。

そして誰もが私より強靭でいた。


竜騎士でもある乳母は力強い羽を持ち、ウロコは真紅に輝きまるで宝石のようだった。

育て親の補佐をしている育て親の従兄弟は、触ったことはないが金属のような肌をして、どんな攻撃も弾き返し、それはそれは美しい漆黒の髪をしている。


そして魔王である育て親のコーネインは.....、



「今日も魔王様はお美しかったわ。

 紺碧の瞳、漆黒の髪、それを引き立てるような力強い角。

 王の中の王、王になるべくして生まれた方ですわ」

「全くその通りね」

王城に来ている二人組の女性に気づかれぬよう、柱の影でじっと身を小さくする。


知られてはダメだ。

こんな異端の私。

乳母のような美しいウロコもない、飛ぶ翼もない。

補佐のような誰かを守る力もない、すぐに傷つく私の体。


こんな出来損ないが魔王の育ての子なんてこと知られてはいけない。




「サンネ、出てこい」

遠くからコーネインの声が聞こえた。

私を呼んでくれている。


コーネインが呼んでくれるから、私はここで生きていける。

コーネインが.....コーネインだけが私の大事な大事な生きがい。

だから私はコーネインの瞳によく似た深い紺色の花を彼だと思って育てる。


彼だと思って口付けてるの。

彼だと思って抱きしめるように頬を寄せるの。




それでも.....あなたが綺麗な女性をエスコートしてるのを見ると、心が凍りつく。

それを見たくなくて一生懸命見ないふりをするのだけど、どうしてもあなたを最後には見てしまう。

そして自分の心の醜さを思い出しては、苦しくて息もできない気持ちになる。


お願いよ、コーネイン。

私を捨てないで。

決して多くは望まないから、育て親としていてくれるだけでいいから.....。

それだけで満足できるよう努力をする。



私があなたを殺すわけじゃない。

いつか私から興味が失せたとき、あなたが私を殺すのよ。


あぁ、せめて私の髪や肌が色付きだったら.....。

こんなに非力で脆弱でなかったら、私でもコーネインにキスをしてもらえたのかしら?



コーネインは私を求めてくれたかしら?





リハビリ作です。

ごめんちゃい

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