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殻園のレナトライゼ ~前世の君に逢いにいく~  作者: 麻華吉乃
第1章 地下都市迷宮ニーダスヴァルト
6/14

take2   の  術   法

 都市精霊の吹かせる風が、ドゥーリンモートの地下市街を渡っていく。

 (あお)られたぼろ布が宙に舞い上がり、しかし、貼り付けられたようにそこで止まる。

 足を滑らせた人間が手にしていたジョッキ。その中身が波立ち、(あふ)れようとしているが、いつまで立ってもその中身は(こぼ)れることが無い。椅子から立ち上がろうとした中腰の男性。快哉(かいさい)を叫び、跳び上がった龍人。足を踏まれ、抗議しようと振り返る魚人の女性。何もかも、その姿のまま。契りの祭フェアトラーク・フェストの会場が……、いや、それだけではない。世界が、その流れを停止していた。

『古来より、生物は弱肉強食。(すべ)てのものに上位種が存在する。上位存在に下位存在は(さか)らうことが出来ない』

 子供に踏みつぶされる(あり)のように。狼に狩られる野ウサギのように。嵐に逆らえぬ人間のように。しかし、それなら神は? 神の上位存在とは果たしているのだろうか?

『いるはずが無い。神は、思いのままでなければいけない』

 チリ一つ動かないはずの世界に、さざ波のような笑い声が響く。

『ならば、世界は、()の思うとおりにならなくては』

 契りの祭フェアトラーク・フェストの舞台上を中心地として、不可視の波が広がっていく。その波に触れたところから、光る文字列が渦を巻いて立ち上り、映像の逆回しが始まった。

 次第に世界は光に包まれ、白に消える。


       ◆


「【さて、皆様盛り上がっていらっしゃるようですが、(わたくし)の力はこんなものではございません】」

 一礼すると、挑戦的な笑みで観客を見渡す映。

「皆様、本番はこれからです!」

 ウィルマーは、芝居がかった動作で手を広げる。

「【この舞台に上がって】」「間近で恩寵(おんちょう)を感じたい方はいらっしゃいませんか?」

 最早熱狂で破裂しそうな歓声だ。魔法文字(ルーン)を刻むでもない、精霊を使うでもない。ノータイムで水を凍らせる、神のような力。

 おおおという地響きにも似た声。雨後(うご)(たけのこ)のように手が挙がった。

「【それでは、】」

 映の声が輝く。ビッと力強く、指で指していく。

「そこのドワーフの方、そう、(ひげ)を三つ編みにしてる貴方! それから、魚人の貴方! そこの人間の御婦人、それからそこの少年。舞台にお上がり下さい────」

 指名された四人が舞台に上がる。

「【(たる)の周りに】」「お集まり下さい」

 舞台に上がった観客を、果実酒(クァン・ペール)(たる)の周りに集めていく。映自身は、(たる)から少し離れた場所にいた。

 ウィルマーも、映の側にいるため、(たる)からは距離が離れている。

「【(たる)の中身は、ただの果実酒です】」「良く、中身を見て確認して下さい」

 覗き込む四人の観客達。

「【おっと、中身には触れないで下さいね?」「神罰が下りますよ!」

 笑顔で言うもんだから、映は恐ろしい。魚人がぴゃっと手を引っ込めた。

「【さて、では私がここから念を飛ばします】」「すると、樽の中の果実酒に、ある変化が訪れます────」

 ごくりと息を飲む観客達。

「【3、2】」「1」

 樽に向けて思いっきり腕を振る映。

 すると──、どうだろう。

 樽の中の果実酒(クァン・ペール)が見る見るうちに凍っていくではないか。

 中心から放射状に、音を立てて凍っていく。離れた場所から、物を凍らせることが出来る────。これは、もう、間違いなく魔法だ。

 ドワーフは思わずいじっていた(ひげ)を抜いてしまい、魚人は水を吐いて卒倒した。婦人は、まあ、と口を(おお)っているし、少年は思わず身を乗り出して見ている。

 割れんばかりの拍手、とはこういうことなのだろう。ウィルマーは、深くお辞儀をした。

「【樽の中身は、食べられますので】」

「皆様方、どうぞお召し上がり下さい」

 最高の笑みでそう翻訳する。額の汗を拭うと、胸が一杯になった。ウィルマーはいてもたってもいられず、映の肩を掴んでいた。

「【映、凄いじゃないか! 本当に魔法が使えたんだな!?】」

 映はというと、スカートのすそを摘まんで各方向にお辞儀をして終わるところだった。

「【バカね……。そんなもの使えるわけないじゃない】」

 憎まれ口もどこか嬉しそうだ。でも、魔法で無ければなんだというのだろうか? まあ、少し落ち着いたら聞けば良いか。

 晴れやかな顔で、映は辺りを見渡している。いつまでも拍手は鳴り止まなかった。

 祭司達も頷きながら、拍手をしている。

 恩寵(おんちょう)の披露は大成功だ。……途中、何か変な感じがしたが、気のせいだろう。

『そうそう……こうでなくてはね』

 と、誰かが呟いた気がしたが、誰が呟いたのかはわからなかった。

●ご挨拶●


 世界は改変されました。


 という事で物語本格的スタートです。

 好きなんですよね。SPECとかサクラダリセットとか、時間操作系の能力を持つキャラクターが出てくるお話って。

 自分でもわくわくするお話を書けたらな、と思って書いております。

 次回もお楽しみに!


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――――――――――――――――――――――――――――

H29.8.26 執筆再開を機に改稿しました。

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