プロローグ いつか来る日々
荒野に、鉄を引きずる音がする。夜と見まごう曇天に、稲妻が走った。大地はひび割れ、あたりに漂うのは樹々の焦げたにおい。見渡すかぎりの地面が焼けていた。空の色と同じ灰色の煙が、天へと昇っていく。ところどころに、残り火がくすぶっていた。
――歩いていく。満身創痍になりながら、左手には銀河を閉じ込めたような蒼い短刀を。右手には、身の丈ほどもある、焔をまとった白金の大剣を。その剣先が地をこするたび、赤々とした焔が立ち上る。
荒々しい吐息が、少年の口から漏れた。しだれる髪の奥から、剣先のようにするどい視線が、ひたと荒野の奥を見すえていた。
ふと、少年の脳内に声が響く。
『繰り返す終わりの調べは、ここで止めなければなりません』
子守歌でも歌えば、すぐに心地の良い眠りにつけるだろうその女性の声は、今、決断の連続から疲弊しているように聞こえる。
『一度目は、あらかじめ記された、逃れざる終わりの運命でした』
少年は血がにじむ重たい身を引きずり、一歩一歩と進んでいく。
『しかし、再び起き上がったこの世界には、あらかじめ決められた運命などはないのです。終わるはずのない世界が、過去の妄執によって今、閉じられようとしています――』
脳内に、様々な映像が流れ込んでくる。
旅の記憶、記録、仲間の笑顔。散っていった仲間の最後の表情。寸分たがわず、少年は思い出す。その時の感情、温度、肌で感じたすべてを。そうして、この場にふさわしい記憶を呼び覚ましていく。
『少年よ、あなただけが頼りなのです。あの子を、救って下さい』
少年の身体に力がみなぎり、顔つきが変わる。
「言われるまでもありません、ソラ様。景都は俺が救う。今度は、手を離さない……!」
ぎり、と引き結ばれた口。射貫くような視線。その先には――、この世の終わりのような姿をした巨人が立っていた。
噴火した火山を凝縮したような、赤々とした明滅がはしるその肌。塔を備え付けたようなその足、腕。城のようなその胴体。それに比べると幾分か小さい頭部には、禍々しい角が生えていた。あごらしき場所からは、焔の奔流が髭のように伸びている。噴煙を凝縮したような外套をひるがえし、巨人が少年に向き直る。
「モウジキ焔ノ海ニ沈ム世界デ、オ前ハ何ヲ望ム」
「……何もかもだ、神話の終焉!」
そういって少年は、巨人に向かって疾りはじめる。
「ハ、運ヨク焼ケ逃レタダケノ木偶人形ガ……」
くぐもった遠雷のような声がひびき、巨人はその溶岩でできたような腕を振った。たちまち、手のひらから炎があふれ出て、塔のような幅広の大剣が出来上がる。
「今世コソ、木ノ実一粒残ラヌヨウニ消シ去ッテクレル」
それとともに、辺りの残り火が激しく燃え盛る。まるで焼死体が動き出したかのような異形の化け物が立ち上がった。人間大のその異形は、十や二十を下らない。幽鬼のようにおぼろげな足取りで、少年の行く先を塞ごうと殺到する。
「ォオ―――――― 」
二刀を振るい、踏み込んでいく。あふれる水の激流と、猛る焔が銀線を追う。ごうと唸る炎に遮られながらも、少年は吠え勇む。銀河を閉じ込めたような短刀が閃いた。水流の青を引き、独楽のように身を回す。青の一刀が、燃えさしの化け物たちを押し流す。続く、赤の二刀目が飛来する炎を切り払う。
「《喚き立つ焔霜の王》――――!」
裂帛の気合とともに、青と赤が交錯し、巨人への道は開かれた。火の粉が舞う。
少年の手の中には、数メートル大の魔力刀身が形成されていた。焔と氷が絡み合い、目映いほどのきらめきを放っている。――それを、振りぬいていく。
山が動いたかのような音が鳴り、巨人がその腕を振り上げる。
「楽シマセテクレヨ、レナトライゼ――」
激突する。
●ご挨拶●
と言うわけで始まりました、殻園のレナトライゼ。
どうも、麻華吉乃と申します。
初投稿です。タイトルには色々意味を込めているのですが、
まあそのうち出てくるでしょう。
更新頻度は未定ですが、なるべく頻繁に更新していきたいと思います。
私は、普段は作詞をしている事が多いのですが、
そろそろシリーズものの小説書いてみてよ!と友達に言われまして。
じゃあ、書いてみようか、と今回ここに登録してみたわけですね。
で、今流行りの転生ものが読んでみたいと言われまして。
書いてみたわけですけど、なかなか難しいですね。転生もの。
ぼちぼちでも読んでくれる人が出てきてくれると良いなあ、と思う次第です。
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