なんばーわん、でもおんりーわんでもありませんが・・・そう、だけど私が村人Aです 【魔王城】
おどろおどろしい装飾が施された、玉座に腰かけ、ワインを片手にくるくる回していた魔王は、ようやく始まりの村を旅だったA(村人予定)を見て、息をついた。
ごっついマスクだか仮面に息があたって、しゅこ~と空気の漏れるおとがする。
ワインを飲もうとして、マスクだか仮面にグラスの淵ががつん、と当たる。
すかさず、魔王のそばに控えていた四天王の一人が、ストローを差し出した。
魔王は、手渡されたストローをぎゅっと握りつぶす。
ぱくちょと折れたストローが何か不気味で不吉だ。
こしゅ~
魔王が息を吸う。
≪決め台詞がくる≫
その予感に、四天王たちの背筋がピンと伸びた。
「ってか!息苦しいわ!!!」
魔王はマスクだか仮面をはぎ取ると、床にたたきつけた。
「それに、ストローでワイン飲む魔王って何よ?
メイクが崩れちゃうからの、意識高い系女子ですか!!!」
よほど蒸れたのだろう。
いつもはさらさらの漆黒の髪の毛がべったりと、白皙の顔にへばりつき、おどろおどろしい様相になっていた。
その迫力に、四天王たちは思わず、半歩後ろにさがる。別に汗臭かったわけではない、かもしれない。
魔王はさらに、びらびらと長く分厚いマントと、無駄に暑くて重い鎧を脱ぎ捨てる。
むわりっと、魔王の気がまわりに立ち上る。
ボディに、シャツがはりつき、鎧に隠されていた鍛え上げられた鋼のまっちょぼでぃが浮き彫りになった。
その威圧感に、四天王たちはさらに半歩さがり、顔を伏せた。別に汗臭かったわけではない、かもしれない。
「ていうか、A(村人予定)、3時間も寝坊かよ!優雅に二度寝かよ!
こちとら、1時間前から魔王様の恰好で決めて、スタンバってたのによ!ふざけんなよ!
てか、村人が主人公の英雄譚てところから、すでにふざけてるよ!」
いつの間にか風の四天王のまわりに集まっている、残りの火、土、水の四天王に魔王は静かに目をやった。
「お前ら、何してる?」
風の四天王の配下の魔物たちがその周囲を必死に飛び回り、風の壁で、汗臭に満ちた室内に清涼な空間を切り取っていた。
「配下の者が、鬨の声をあげようといきり立っておりますゆえ」、風の四天王がしれっと嘘をつく。
「風のんのが暴走しないように、対属性のわたくしがこうして近くにいることでバランスをとっております。」、土の四天王がうそぶく。
「風と土はよくいさかいを起こすので、いざというときに備えて、緩衝役のわたくし目がそばに控えております。」、水の四天王が、困った二人だといわんばかりに頷く。
「え・・・えっと。俺は・・・汗臭くって!風のんの周りだとまだましなんで!」、火の四天王はとっさに機転が利かず、魔王の眼力に、真実を吐露する。
他の三人の舌打ちに、火の四天王は泣きそうな顔になった。いや、泣いていたのかもしれない。
魔王は微妙に火の四天王にシンパシーを感じると、溜飲を下げていった。
「窓を開け放て!」
魔王城の窓が一斉に開け放たる。
「消臭しゅっしゅを持て!」
魔王の言葉に四天王たちはいっせいに頭をたれた。
そして、この物語は始まった。
NEXt:始まりの街