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私の一番嫌いな季節  作者: 鈴木
3/5

第一次千葉さん対面合戦

 白石さんと随分と仲良くなっていく中で、千葉さんともついに面識を持つことが出来た。


 講義の課題についてという名目で昼休みに一緒に大学の食堂でランチをとっていたところ、千葉嬢がやってきたのであった。


  不覚である。


 私には未だ千葉嬢を喜ばせる程のコミュニケーション能力を持ち合わせていないし、平然と会話をする勇気もない。

 しかし、現実に目の前には千葉嬢の姿がある。


 私は心を落ち着かせ自分をこう諭した。何も今日一日で全てが決まるわけではないのだ。

 今日という日は自分の実力を試す日にしようと決断した。


 私は「こんにちは。」と得意の引きつった笑みを顔面に浮かべ、会釈をした。千葉さんはそれに答えるかのように、聖母マリア並みの微笑みを浮かべ、コクリと頭を下げた。白石さんが言うには千葉嬢はどうやら人見知りなのだそうだ。


 あぁ、なんて君はそんなに私の心をくすぐるのだろうか。


 千葉嬢は白石さんの横にスッと座った。目の前には美女が二人いるという私史上有りえない状況が今ここに実現していた。両手に華とはこの事である。私は明日にでも死んでしまうのではないかという恐怖すら覚えた。


 どうしたものか。私の胸中はどうかしてしまったかのように激しいビートを刻むのだ。「ヘイヘイ!!盛り上がっているかい!??」とDJがマイク片手に叫び、踊り狂う観衆は数奇な雄たけびを上げている。私の胸はクラブと化してしまっていた。



 冷静が私の長所であるということは読者諸君はもう既に心得ているだろうが、この時はその激しいビートに釣られてしまい、本当に明日、いや今日にでも死んでしまうのではないかとさえ思った。

 そんな一抹の死に対する不安を抱えているものであるから当然会話が頭に入ってこない。会話が入って来ないからお馴染である引きつった笑顔をすることしかできない。

 きっと、千葉嬢から見た私はニヤニヤと気味の悪い笑顔を浮かべる変態野郎と思ったに違いない。



 とにもかくにも、私は早くこの場から脱したかった。適当な理由をつけて私はトイレに行った。

 胸のビートは次第に収まっていた。ちくせう糞DJめ。いつかこの恨み晴らすべからず。そう天に誓い、幾分冷静さを取り戻した私は今一度深呼吸をしトイレを後にした。


 一度乗り越えた壁は低く思えるとはよく言ったもので、千葉嬢を目の前にしても少しの動悸・息切れ・気つけがするぐらいであった。更年期障害かしらん。誰か救心をくれ。



 そんなこんなで、私の第一次千葉さん対面合戦は終わった。白旗をあげたのがどちらかと言うのは言わなくてもわかるであろう。というか言いたくない。


 とにかく。今回の戦いでわかったことは千葉嬢を目の前にすると私の最大の武器である冷静さが使えなくなってしまうということだ。これはいい収穫である。己の弱点を見つけることができるのは成長に繋がるからだ。

 流石は、私、いい男。


 

こんな具合で千葉嬢との初対面は終わったのである。

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