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その剣は誰が為に

久方ぶりの更新。

遅くなってすみません。

 聖剣アスカロン。

 七大聖剣を超える、最高位の聖剣。

 正直、その剣については詳しくは知らない。

 いつからこの世に存在したのか、誰が造ったのか、すべて謎に包まれている。

 自分はただ、選定の試練を乗り越え、剣を鉄床かなとこから引き抜いただけ。

 そう、ただ、選ばれただけ……


 「ライル、どうかしましたか?」


 王女の声に思考が引き戻された。


 「いえ……」


 一度不可思議そうに首を傾げ、リリィは前に進み始めた。

 俺は彼女の後を追って、歩く。歩く。

 花崗岩で造られている白い廊下を、行く先も解らず、ただ彼女に付いていく。

 聖剣は彼女を選んだのか、それとも、偶然リリィが見つけただけなのか?

 問いたださなければならない。

 彼女のために。


 「……王女殿下」


 「そうではなく、わたしのことはリリィと呼んで欲しい」


 出鼻を挫かれた気がしてならない。意図してやっているならば大したものだ。


 「では、リリィ殿下。その剣を、何処で手に入れたのですか?」


 「フロリスの森の奥、泉の底から。なぜそのような事を訊くのです?」


 答えは得た。

 彼女は選ばれたのではなく、偶然によって聖剣を手に入れたのだ。

 そして、その剣がアスカロンだということにも、気付いていない。

 胸中を、安堵の気持ちが満たしていく。

 聖剣に選ばれていれば、この先の彼女には艱難辛苦の道のりが持ち受けている事になっていた。

 俺は、アスカロンを抜き放つ意思と覚悟は持っていた。

 しかし、最後は結局、自分の詰が甘いせいで、多くの民と部下、そして、愛しい人を失くしてしまったのだ。

 いや、違う。

 それは宿命さだめだったのだ。


 「そうですか、それはよかった……」


 彼女にはそうなって欲しくない、という気持ちが口から零れ出ていたのか、あまり意味のない台詞をいていた。

 ふと、扉の開く音と共に、下向きになっていた世界に光が射し込んできた。


 「ライル、やはりあなたから、力の波動を感じられません。ですが、お父様が嘘を吐くとも思えない。一度、手合わせを願います」


 俯けていた顔を持ち上げ、光を背にしてこちらを振り向いていたたリリィを目にする。

 後光に照らされ、髪は金に輝き、凛とした空気を放つ。

 綺麗だ、と思った。

 守らなければならない。そう、思う。思わせる。

 今の俺は、抜け殻で、目指すべきものも、導いてくれる者もいない。ただ空虚の中で生きている。

 それでも、これから世界を変えてゆくだろう人の元で、俺は仕えたい。世界がすべて彼女を裏切ろうと、俺だけは裏切る事はないように。あの、どこまでも深い淵に飲み込まれないように。

 リリィ、あなたに仕えよう。

 自然と、俺は跪いていた。


 「は、仰せの通りに」


 「ライル……あなたには、そのような仕草は似合いません」


 ……なんだか、最後は締まらなかった。

 心にグサッと刺さったよ、割と。

 マジで。




 ———————————————




 連れてこられたここは、城の中庭の一部だろうか。整地がされていて、明らかに修練の為に造られていた。


 「ここならば、そう人も来ません。全力を出してください」


 前方五メートル先でそう言って、王女が、いや、リリィが、刃引きされた剣を構えた。

 いや、本気出したらたぶん、城が吹き飛んじゃうよ?

 そう言いたいのをぐっと堪えて、同じく刃引きされた長剣を構える。

 どちらも構えは青眼。左足が前に出ている、大陸で通用している制式剣術の構えだ。

 り足で、どちらともなく距離が狭まっていく。

 遂に、彼女が一足一刀・・・・の間合い・・・・に入った。

 その瞬間——後ろ足で土塊を盛大に蹴り出し、両手を大上段に振り上げて、頭部を狙いにいく。


 「——シッ!!」


 天から地へと、剣先が大きく弧を描く。食い縛った歯の間から、呼気が洩れ出る。

 彼女の顔が視界の中央で、驚きに染まっていた。

 しかし、リリィの身体は反応する。

 手に持つ剣を身体に添えて、滑るように受け流していく。

 だが、攻勢は終わらない。


 「く……っ!」


 更に蹴撃を加えると、胸部に与えられた衝撃を逃す為か、わざと遠くに飛ばされていった。

 そして、吹き飛んだ先で、俺を睨みつける。

 騎士道精神に則って考えれば、ありえない行動をした俺を、彼女は言外に責めているのだろう。


 「……甘いな」


 勝てば官軍、負ければ賊軍。

 戦場では、勝てなくては意味は無く、敗北は死を意味する。

 そして、——死人に口はない。

 卑怯だ、と文句を言うことは出来ずに、ただ骸となって、転がることしか出来ない。

 死んでいった、かつての部下のように。


 「リリィ殿下。それでは、生き残れません」


 呟くように言い放った言葉が、まさか届いていたのか、視線の先で、彼女の表情が一層厳しくなった。

 魔力がリリィを中心に渦巻き、結実していく。

 肉体に強化を施している。

 俺には全力でこい、と言っておきながら、自身は手加減していたようだ。

 やっと認識を改めてもらえたようで、こちらとしても嬉しい。


 「はあぁっ!!」


 裂帛の気合と共に、遠間から、先ほどの俺のように打ち込んでくる。

 俺はそれを、——受けない。

 避けるのだ。

 重心を後方へずらし、同時に身体も一歩下げる。

 それだけで、剣は狙いを外され、眼前で地中に呑まれていった。


 「なっ……!?」


 彼女はまだまだ、甘い。

 地に埋まった剣を引き抜こうとするのを、足で剣身を踏みつけ、横手投げの要領で斬撃を送り込む。

 リリィはそれを、無様に転がって回避した。

 彼女から視線を外さないようにしながら、地面に埋まっている剣を、左手で引き抜き、そのまま保持する。


 「…………二刀流、ですか」


 どこか呆れた口調。

 

 「リリィ殿下。今から、魔力を使わない戦い、というモノを御見せしましょう」


 技のみで、どこまでいけるのか。

 そう疑問に思ったのだ。

 その答えは未だに出ていないが、戦場である程度通用する段階までは磨き上げた。

 いつかは解らないが、魔力を使えない時が来るかもしれない。その時の為に、覚えてもらいたいのだ。

 そのきっかけを、ここで——


 「殿下は真剣でも構いません。……では、いざ参ります」


 どちらの剣尖もリリィに向けて、左の剣を前方下段に、右の剣を後方上段に。

 今より遥か古代に、天下無双と呼ばれた者の技を、今ここに、顕現させよう。


 

 


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